第139話 微妙にタイミングを見失った感

 思えば初めてのナンパはロンドの連中に俺がナンパされた時だったな。思い出したくもないほど寒気がする体験だったぜ。そのあと仲良くなったのは不思議な感覚だが。


 正直ナンパに対してみんながどんな反応するのか気になるので少し見ておこうという気持ちにさせられる。というかあかねとサッキュンが若干テンション高そうなのが不安要素でしかない。


 出て行こうにも微妙にタイミングを見失った感。


「近寄らないでください」


「まぁまぁそんな事言わずに話だけでもどう? 獣人の可愛い子なんて珍しいしそっちの話も聞いてみたいな」


 獣人差別はこの辺やっぱないんだな。というか今まで獣人差別あったの王都だけなんだけどどうなってんだマジで。王都は人間以外の種族を基本的に認めてないからそういう思想に全員染まったんだろうか。


 エルフに関しても本当はもう差別対象じゃないんじゃないかと思うくらい。クロエとイリスが街中では必ずフード被るようにしてるから何とも言えないけど、誰もそんな話をしているのを見たことがない。


 あとフラフィー、ナンパに対して反応すると相手はしつこくなるからやめたほうがいいぞ。あとで伝えておこう。


「まぁまぁフラフィーちゃん、ここは私たちに任せておいて。お兄さんたち、楽しい事してくれるんですか?」


 ものすごく嫌そうな顔をしているフラフィーをなだめてあかねが男たちと相対する。その横にはサッキュンも配置され、他の女の子をかばうように立つ。これだけ見ると優しいお姉さんって感じだが……。


「お、君はノリノリだね? 君も可愛いね、どう? これから一緒にクエストでも」


「クエストもいいけどぉ、私はもっと違う事がしたいかなぁ」


 あかねは微妙に甘えた声を出し、その目はとても濁りきっていた。なるほど一度一人で王都に行っていた時はこんな感じでナンパをあしらっていたのか。


 あかねペースで話は進んでいくがうちのロリ達は傍観。フラフィーは少しテンパってるけどクロエとイリスのスルーっぷりはまじぱない。構って欲しい時にスルーはちょっときついよね。


 前世で居酒屋か何かのキャッチにめちゃくちゃ話しかけられて歩調も変えずスルーし続けてたら「僕の事見えてます?」って言われて吹き出しそうになったことはある。インパクトって大事だよね。


「もちろんいいとも! どこ行きたい? 食事でも何でも連れてっちゃうよ」


「そうだなぁ、お兄さんたち宿取ってる? そこでお話ししようよ。サッキュンもいこ」


「もちろんお供いたします」


「まじかよ積極的だな。じゃあ行こうか」


「おっけー。私たちだけでいいよね? それじゃみんなすぐ戻るね。あ、今触るのはやめて」


 男たちはすぐには帰さなさそうな顔をしているがたぶん本当にすぐ戻って来るだろう。盗賊の時みたいに問答無用じゃないのは相手が一応友好的に話しかけてきたからだろう。


 そして宿屋への道へ曲がった瞬間あかねだけ戻ってきた。


「あれ、キミヒト君見てたの?」


「おお、みんなただいま。あかねの邪魔しちゃ悪いと思って」


「キミヒトさん見てたなら助けてくださいよ……」


 フラフィーはたまに乙女チックな事を要求してくるが、今回は俺が出しゃばったら色々と面倒な事になりそうだったから許してくれ。それにあかねだけ戻って来たってことはサッキュンの栄養補給だろうし。


「私は気づいてた」


「うん」


 クロエとイリスはどうやら俺の事に気付いていたらしい。隠れていたつもりだったがばれていたのか。いや実際隠れる必要なかったから問題ないっちゃないけども。


「あの人たちはサッキュンが穏便に片づけてくれるからスルーして大丈夫だよ。それでキミヒト君、ギルドはどうだった?」


「ああ実は……」


 ギルドで聴いた話をみんなにも話す。


「え、それまずくない? ……うわほんとだ。噂になってるけど……なんだろ、全員が勇者じゃないっぽい? 街の人たちは知ってるけど黒髪の人を見てはいないってかんじだね」


 俺とあかねはフードを被りながら状況を確認する。あんまり人目に付くのもよろしくないので全員で路地裏のような場所に入り込みこそこそと話し込む。どうみても怪しい集団です本当にありがとうございます。


 しかし勇者パーティで全員が勇者じゃないとなると……考えられるのはガチで勇者になりたかった奴でもいたんだろうか。仲間を集めて大冒険したいという欲望だけで活動してるならありえる話か。


 もしくは目撃情報が嘘で全員勇者のパーティ。この場合は逃げる一択になるな。俺たちの事を聞き込みしている感じでは無いようだし本当に旅をしているだけなんだろう。


「キミヒト君、本当に一週間ならどこかに引きこもっているのも手じゃない? 勇者の情報も調べられるし」


「それもありだが……俺とあかねはともかく街を巻き込む可能性があるのがな」


 ショウが呪いの影響を受けていた時は街に魔物を連れて攻め込んできていた。どうやって俺達を見つけたのかはわからないが、見つかった場合他の勇者も問答無用で場所を考えずに攻撃してくる可能性もある。


 そして相手が全員勇者だった場合、街の損害は計り知れないものがあるだろう。みんなを守り切れる自信がないのがとても辛い。


「その時は私たちも協力して見つからないようにするわ。あと気配遮断のスキルは持ってても使わない方が良いわ。街中で使ったら逆に目立つから」


 おおその手があったかと思ったがそうか。もし勇者が気配を感じ取れるスキルを新しく取っていたら気配薄いのは逆に目立つのか。危ない、取って使う所だったわ。さすクロ。


「キミヒトとあかねは外に出ない事。今回は私たちが守る。キミヒト、私たちのために体張りすぎ。たまには休む」


 イリスにまで心配されてしまった。実際に戦う力はこの二人の方が上だし、そんな二人を守ろうと前回死にかけたからな。当然と言えば当然か。


「そうですよ。私も新しい盾ありますし守りはまかせてください!」


 どうやら俺のパーティメンバー達は相当勇者に対して警戒しているらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る