第140話 フラグ

 みんなは俺達を守ってくれるというがその言葉に完全に甘えてしまうはちょっと違う。異世界に来て怯えて過ごし続けるのは嫌だし、みんなと一緒にいられないというのはそれだけでこの旅の目的を見失う行為でもあるからだ。


 隠れはする、逃げもする、だけど怯えるのはダメだ。なので今回は仕方ないのであかねと共に情報を集め、状況によってはストーカー勇者を諦める方針で動きます。


 あくまで目的は仲間になりそうな勇者を探す事なので、呪いの影響を受けていないんじゃないかと思われる王城をつぶした勇者を探してもいい。


 そいつは第一グループだから確実に強いしそいつがいれば他の勇者達も何とか出来るかもしれない。出来ないかもしれないけどそこは見てみぬふりをする。出来ないことは仲間になってから考えればいいからね。


 かなり良い宿屋に着いて部屋の空きを確認する。良い宿屋を選んだ理由はこっちの身元をばれない様にするのが一つ、女の子たちの安全を確保するのが一つ、あとお風呂が嬉しいのでこの宿屋です。


 魔法が盛んならお湯とか作り放題だからね。お風呂出来ちゃうよねって言う。耐水性を付与した大きい水桶作るだけだし。排水もどうなってるかわからないけど何とかしてるっぽい。流石高級宿屋と魔法。


「部屋は六人部屋で良いか」


「……賛成」


「安全上はその方がいいですよね」


 含みのある言い方をしているのは……そういうことだろう。確かにあれ以来全くしていないが、それはロリ達の牽制合戦が主な理由だ。


 俺が手を出してしまえば手っ取り早いというのもあるが、それは冗談じゃ済まされない雰囲気を感じるのでやめている。あかねなんて何も出来ないでいるからな。全てにおいて保留につぐ保留である。へたれではない。


 そりゃしたいよ? 可愛い子に囲まれてさ、そういう気分にならないわけないじゃん? でもさ、全員を一気に相手に出来るかと言われたら体力的に出来るわけないしみんな一緒にいないと危ないから離れるわけにもいかないしかといってたまに離れることがあってもその時間じゃ短いしなんだったら軽いいちゃいちゃの方が楽しいまであるし女の子たちの牽制合戦見てるのも楽しいと言えるしこれは逆に俺が焦らされてるんじゃなくて皆で焦らし合いしてると考えるとそれはそれでそういうプレイとして楽しめるからもうこれで行こうかなっていう気持ちにさせられているとも言えるからもうこのままでいく。そうしよう。という言い訳です。


「俺とあかねは基本的に宿屋待機、みんなは自由。以上です」


「キミヒト、雑」


「だってさ、やれることないんだもん」


 勇者に見つからないようにするならクエストを受けるのは正直まずい。受付嬢のセリフから勇者は結構な頻度でギルドを訪れているようだ。最初の訪問で会わなかったのは運がいいとしか思えない。


 そして忙しく魔物討伐に向かっているなら引きこもればそうそう会う事も無いだろう。宿屋が被ったりしない限りは。


 ……いかんなこれはフラグってやつじゃないだろうか。大丈夫だと信じておくしかないけど。


「せっかくだしみんなは観光してこいよ。ほら、通信機もあるし適度に連絡してくれればお互いに安全確認できるし」


「私はキミヒトとあかねを二人っきりにする方が安全じゃない気がするわね」


「ななな何を言ってるのかなクロエちゃんは!? 私とキミヒト君はそんなんじゃないよ!? 別にミスリルのダンジョンでも何もなかったし! ねえキミヒト君!?」


 あまりのテンパり振りにみんながジト目を向けだす。いや本当に何もないんだけどな。そういう言い方すると何かあったみたいに聞こえるからやめろ。今はという条件付きだけど。


 いつも余裕なあかねが取り乱すと現実性が格段にあがるからみんなの警戒度が一気に高まる。あとフラフィーだけはあかねじゃなくてこっち見てるのまじで怖いからやめて。


 棒立ちして目だけ見開いて直視されると怖いんだよ。なんなのこのプレッシャーは。


「気になるなら通信機つけっぱなしで行けば良いんじゃないか? 通信機の魔力切れてもクロエとイリスなら余裕だろうしこっちも魔力は持て余してるから大丈夫だ」


 視線が怖いので折衷案を無理やり叩き出す。正直無駄な魔力を消費させるのは戦闘になった時に支障をきたすからあんまりやりたくない。しかし今回のはそのあんまりに属する問題だと思うので良いと思います。


 そこまで消費が大きくないし良いという事にしておこう。


 それでもみんながジト目を全くやめないので仕方なくあの手を使う事にする。


「はぁ、仕方ないな。もっと落ち着いた時にでも渡す予定だったけど……。これ着て出かけてくるといいよ」


 そういって俺は収納から女の子たちの服を取り出す。当然ミカのいる店で買ってきた奴だが、冒険者じゃなく普通の町娘風の洋服だ。流石に色物コスプレ集団を俺の目の届かない所で披露させるつもりはない。


 冒険者用の頑丈な服も買ったが今回はこっちが正解だろう。それに俺がその服を着てる所を見たいと言えばみんな見せてくれる。そういう魂胆もあって今このタイミングで取り出す。


 俺がいなくてもみんなには休暇を楽しんでもらいたいよ。


「キミヒト……なんで私のだけこんなフリフリ多いの?」


「クロエはステッキ持ち歩かなきゃだめだからかな」


「ステッキ持ち歩いている女の子なんて見た事ないけど!? ただのキミヒトの趣味でしょ!? 特別扱いは嬉しいけどこういう時はやめて!?」


 普通のゴシックロリータ服を渡したら怒られた。ステッキに似合うと思ったんだけどな。ダメか。勢いで行けると思ったんだけどな。


 仕方ないのでクロエにも普通の服を渡す。


「……普通のもあるんじゃない」


「そりゃあるよ」


「最初からみんなと合わせなさいよ……」


 クロエは魔法少女になってから正直色々と特別扱いできるので楽しい。甘い空気にならずいじれるって言うのはとても強みだと思います。本人が楽しいかどうかは別としてって感じだけど。


 みんなに服を渡すとあかねがこっちをじっと見ている。何よ。


「あれ? キミヒト君、私のは?」


「ないよ?」


「なんで!? 私も現代を生きる女の子だよ!? たまにはおしゃれもしたいよ!?」


「部屋片づけられるようになったら買ってもいいよ」


「……」


「なんか言え」


 というわけで三人に洋服を渡して俺は部屋を出る。あかねは無言のプレッシャーを与えるために俺に付いてくるが無いものは無い。何せあかねにはそういう期待をしていなかったしサイズを知らないからな。


 三人の洋服はミカがサイズを知っていたから買ってきたものだ。サイズ知らない女の子の服買うのはちょっと無理だろ。だぼだぼの部屋着とか毛布みたいなパジャマとかならその限りじゃないけどそれは違うだろう。


 あかねと無言のにらみ合いを続けているとふいに声をかけられた。


「ねえあなたたち、ユウキの知り合い?」


「いえ知らない人です。人違いだと思いますので他を当たってください」


「……いいえ、その見た目で人違いはありえない。ちょっとついてきて。抵抗するなら無理矢理でもいいんだけど?」


 ……フラグだったな。

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