第129話 場所取り状態

 ギルドに着いて告げられたことは衝撃の一言だった。


 やることないってよ。なんでよ。見張りしろとか言ってたやんけ。


「今回は場所がほぼ確定しているからな。若い探索者達が安全に経験値を稼いだり敵を倒す練習にもなるからな。お前らは必要ないだろうということで決まった」


 とのことだった。気になるなら薬草のダンジョンの付近に行ってみれば現状がわかると言われたので向かってみたらお祭り騒ぎだった。


 具体的には空き地が作られ魔法使い部隊と、ダンジョンに魔物が出たらすぐ知らせる事ができるようにと斥候部隊が作られ配置されていた。あの受付嬢もたぶん斥候部隊に割り振られているのだろう。


 そしてそれを眺めるかのような結構離れた位置に屋台が組み立てられてご飯とかお酒とか配られてる。お祭りかよ。


「なんだこれ……」


 今から魔物の大量発生とは思えないほどの平和感。ネトゲで例えるなら大規模イベントが始まる直前の盛り上がりとでも言おうか。


 何日前からいるんだこいつら。


「おうキミヒト達も来たのか」


「この感じだと今夜辺りらしいぞ。楽しくなるから今のうちに休んでおけよ」


「俺たち攻略組とランカーは教える側だからな、主に見学だな」


 心配して損したわ。スタンピードって普通街の存続を脅かすとか思うだろうにロンドの連中も爽やかだわ。無駄に危機感煽られてたのにこの肩すかし感よ。


 どおりでショウ連れてきたときも何も言わないわけだよ。既に戦力過多だからあんなにのんびりしていたんだな。ロンドはギルドで注目株の稼ぎ頭だしよく簡単に捕まったなとは思っていたけども。


 いや発生場所がわからないなら完全警戒状態になるからこんな平和になるわけがないか。数十年前に起きた時は結構やばいみたいに言っていたし。ノリだけで薬草のダンジョン攻略したけど結果オーライすぎたってことにしとこう。


「キミヒト、あれ食べたい」


 イリスに服をくいくいされる。俺がこれ好きなの絶対わかってるよな。お互いに需要があるから何度でもやってほしい。クロエはやってくれないしフラフィーはなんかしらんが恥ずかしがるからな。


 遠慮してるのかもしれないけど。フラフィーもガンガンに甘えてくれば良いのに変なところで嫉妬するしどうしたもんかね。包丁持ってるときは強気の癖にな。


 イリスのご所望だったのでみんなの分の串焼きも買ってきつつお祭り騒ぎを眺めていた。ちなみにサッキュンはばれるとまずいのでまた外に逃がしておいた。


 流石にギルドに連れて行くわけに行かなかったので水のダンジョン出た時点からいない。ロンドの連中にはばれてるみたいだったからスルーしたけど流石にサキュバスを使い魔にしてたら怪しいだろう。


 あかねが実際にしてるから何も間違っちゃいないが面倒は少ないほうがいい。この街テイマーとかもいないみたいだし目立つ行動は避けたい。ロリコン戦士としてめちゃくちゃ目立っているのはこの際置いておく。


「しっかしほんと暇だなこれ」


「ゲームみたいだね」


 あかねも俺と同じような感想だった。ネトゲを知っているならその光景しか思い浮かばないだろうなこれは。もしくはお花見の場所取りとかそんな感じの状態。


「今夜って言ってたしちょっと寝るか……。フラフィーにたたき起こされて眠いし」


「それは……はい、なんでもないです」


「フラフィーが来なければもうちょっと色々出来たのに」


「ここは人数も多いし寝てていいわよ。膝枕くらいならしてあげるけど」


「まじかよやったぜ」


 というわけでいつものようにテントをつぶした状態で地面においてその上にみんなで座る。まじでただの場所取り状態でしかないけどそんな中でクロエの膝枕を堪能できる。勝ち組すぎた。


 他の女性陣からの視線と周りの探索者の視線がやや気になるが膝枕が予想以上に気持ちよかったので気づいたら寝ていた。


 そして夜、爆音で目が覚めた。


「あら、キミヒト起きた?」


「ああ、おはよう。膝枕ありがとな。っと始まったのか」


「ええ、ついさっきちょっとばたついてたけどご覧のとおりよ」


 クロエの膝枕が最高すぎて全く目を覚まさなかった。良い匂いするし適度に柔らかいし最高のひと時でした。本当にありがとうございます。


 時間的に夜で暗くなってはいたが、魔法使いたちの使う炎の魔法によって瞬間的にものすごく明るくなっていた。基本的には赤とかオレンジの炎が見えるが、たまに青い炎を撃っている魔法使いもいる。


 っていうか薬屋の魔女子さんだなあれ。ドロップアイテム落ちるなら結構素材になるし出張してきたのかな。探索者以外は戦闘に参加しないのが普通だし。それに青い炎って相当火力高そうだしやっぱエルフなんじゃないのあの人。


「ってか綺麗だな……」


「幻想的……ちょっと背景があれだけど」


「あと焦げ臭いですね」


 風景は森の中の開けた場所、色とりどりの光が舞い踊り暗闇の世界を明るく染めていく。そんな感じだけど実際にはダンジョンから出てくる植物系の魔物をひたすらに焼き殺す大量殺戮現場。


 でもこの燃える匂いが花火のような懐かしさを感じさせる。屋台が並んでみんなで食事しながら見る花火は綺麗だな。もし本物の花火があるならこの子らにも見せてやりたいくらいだ。


 頑張れば似たようなの再現できるかもしれないけども。


 魔法使いの人たちは入れ替わり立ち代わりで魔物を焼き払って行く。魔力の消費が結構あるようだが、それ以上に交代要員の多さも中々だ。本来こんな派手に炎魔法使う機会もないだろうしみんな張り切っているのかもしれない。


 そして朝ごろには事態は落ち着き、スタンピードは収まっていた。


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