第123話 やばい薬

「しかしすごかったねこのお薬」


「もう二度と飲ませないからな?」


「えー、すんごい美味しかったから良いじゃん。それにどうせロリちゃん達にのませるんでしょ? 私に無理やり飲ませたって言っちゃうよ?」


「それはやめろまじで」


 看病スキルで正気に戻ったあかねを連れてダンジョンの奥へ降りていく。二人とも完全に元気になりもう怖いものは何もない状態、ぶっちゃけかなりのハイテンションになっていた。


 しかしその時の感情の高ぶりは残っているようで少し残念そうにしているのも確かだった。そのためさっきからロリ達に伝えると脅しをかけてくる。


 もう全部ロンドにあげたことにしているのに持ってたらあらぬ疑いをかけられるし悲惨な未来がまっているかもしれない。幸せに感じることも間違いないだろうがとてもやばい気しかしない。ロリといちゃいちゃしたいです。


 俺のスキルでは悪いもの、自分の感情に直結しない状態異常やなにかしらの操作をされているものははじけるが、テンションだけを盛り上げるものは悪い感情として処理されなかった。


 もともとテンションの高い俺達だから気にならないが、これは確かにやばい薬だろう。もしくは原液で飲んだからこその影響力の高さかもしれないが。そんな感じでテンションの壊れた俺達だから一気に三十階層まで来てしまった。


 こんなやばい薬を望んでいるロンドの連中も明らかに犯罪者よりだろ大丈夫かよ。こんな薬飲まされて色々吹き込まれたらノンケでもころっといっちゃいそう。こわい。


「おー、ちゃんと階層になってるね。何かあるかな?」


「前は扉だけだったからな。少し探しながら行くか」


 前回はこの階層でミスリルゴーレムと戦闘することになった。その時はでかい扉一つだけあり入ったらすぐに戦闘になった。戦闘になったと言っても相手は最初塊の状態だったからあの時に色々攻撃すればもっと楽だったかもしれない。


 いやどっちにしろ苦戦してないけど。


 しかし今回は扉はなく、やや薄暗い印象のある階層になっていた。さっきまではミスリルの輝きでかなり明かりが確保されていたが、この感じだと違う鉱石が混じっていそうだ。期待できる。


「キミヒト君、これは? なんか黒っぽいけど」


『ミスリル合金;ミスリルが九十%以上含まれている鉱石。残りはアダマンタイト鉱石や魔鉄など』


「おお。これだよこれ! アダマンタイトだ!」


「じゃあこれいっぱい集めればいいの?」


「ああ、進みながら集めよう」


 ミスリルのダンジョンが何階まであるかはわからないが、たぶんこの調子だと最終階ではアダマンタイト鉱石そのまま落ちてるんじゃない!? っていうか魔鉄ってなんだ!? すんごいかっこいい響きなんだけど!


 魔剣とか作るときの材料でしょこれは! 俄然期待がたかまってくるんだけど!


 なんて考えは甘かった。


「ボスかよ」


「ボスだねぇ」


 三十一階に降りたらそこはボス部屋でした。いや早い。ダンジョン一層しか増えてない。まじで言ってるの? 確かに難易度高いダンジョンだったけどたった一層ってやる気が感じられないんだけど。


 え、ってかこんな混ざりもののアダマンタイトで良い武器できるわけないでしょう。純粋なアダマンタイトが手に入るとは思ってなかったけどこれはほとんどミスリルだ。


 合金になっていたら加工もし辛いだろうしフラフィーの盾の代わりにはならないだろう。となるとやることは一つ。


「……覗こう」


「キミヒト君も好きだねぇ」


 危険は嫌いだけどフラフィーの武器というか防具のためだ。それなら多少の危険くらいは目をつぶってやるよ。頼むぜ。


 扉を開け、中に入ってみるとそこには真っ黒い大きなゴーレムがいた。すぐさま鑑定をかける。


『アダマンタイトゴーレム:物理無効、魔法無効。非常に動きが遅いがその重量から生み出される攻撃は並みの魔法の威力を凌駕する。超危険なモンスター』


 とりあえず扉を閉める。


「キミヒト君冷静だね」


「うん、命がかかってるからね。でもあれならたぶん持って帰れるぞ。倒すのは厳しいかもしれないけど」


「ほんとー?」


「まあ見てろって」


 俺は収納の中に入っている武器や防具などを一通り確認すると、扉を開けもう一度中に入る。いつかのミスリルゴーレムのように丸まっているので腕の当たりに向かって全力で走る。


 ここで遅れた場合反撃を受けるかもしれないが、鈍重なその巨体では起き上がるモーションすら非常にゆっくりだ。


 その隙に肩まで上り詰め、収納から剣を何本も取りだし透過を使ってむりやり刺しこんで行く。無難に指とか落とせればよかったんだけど流石に場所がよくわからないんじゃ出来ない。グーパーされたらそれだけで詰みだし。


 ということでわかりやすい腕を丸ごといただこうという作戦。剣を刺しこんでは解除して破壊し、刺しこんでは解除し破壊しを繰り返す。前はイリスの魔法によって熱したり冷ましたりして脆くしていたけど今回はそれもない。


 巨体だけあって異物が多少体内に入り込んでも全然気にせず立ち上がる。やべ。危険を感じたので一度飛び降りるしかなかった。腕を落とす前にゴーレムは立ち上がり、こちらを高見から見下ろす。肩には大量の剣の残骸。


 剣を刺してるときに思ったけどこのゴーレム、ミスリルゴーレムの倍はあるわ。デカすぎるし剣を刺してもそら腕取れませんわ。


「キミヒト君、大丈夫?」


「大丈夫だけど、どうすっか」


 ボス部屋のボスは、部屋の外に出ると追いかけてくることは無いが、回復をしてしまう。そのため逃げながら戦うという行動も封じられている。中に攻撃が届かないバリアが何かしているという説がもっぱら有力だ。


 つまり大量の武器を使った以上俺に逃げる選択肢はない。どうするもなにも腕を持って帰りたいからこのままひたすらに刺しこんで行くしかない。


 幸いにも敵の攻撃は物理攻撃。一発で潰されたりはしない限り俺が死ぬことは無いだろう。攻撃を誘って交わして腕に登って剣を刺してくる。たったこれだけだから楽勝だよな。当たれば死ぬかもってだけで。

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