第93話 あかね視点

「あかね、あれで本当によかったのか?」


「あかねはこう見えて奥手だからな」


「欲望に忠実なくせにこれだからな。おかげで俺たちは助かってるけど」


「うるさい」


 キミヒト君たちと急に出会ったから少し緊張してしまった。この前フラフィーちゃんを助けるのに必死だったキミヒト君を見てからなんだかドキドキする。あんなロリコンに恋してるのかもしれないと思うと複雑だ。


 でも大切な人のためにあんなに一生懸命になれる人って全然見ないからドキドキしても仕方ないと思うんだ。普段はふざけてるくせに真面目になるとかっこいいとか本当にずるい。


 よく考えると私の時もかなり丁寧に呪いを解いてくれていたんじゃないかと思う。いきなり呪いを解かれてたらもう少し苦しい気持ちになったんじゃないかと感覚的にわかる。


「あかねが恋する乙女モードになっちまったぞ」


「これでまた同志が増えていくな」


「普通の男ならこんな子みたらテンションあがるからな」


「否定はしないけどあんまり茶化さないでくれると嬉しい」


 ロンドのメンバーと行動を共にすることになったけど私の役目は基本的に移動と情報収集。主にBL方面の。


 ロンドに憧れを持っている青少年たちの情報をひたすらに集め、この腐りきった欲望を彼らと共有し楽しく過ごすのだ。


 彼らはまず最初に仲良くなり普通に友好を築いていく。そして行けそうなら懇切丁寧に手ほどきをしながらスキンシップを図り嫌がらないなら少しずつスキンシップを深めていく。


 普通の友情から恋心に変わっていくさまはとてもいいものだ。特に男と男の恋愛は、いけないことだと思いながらもロンドのメンバーに攻められ新しい世界に足を踏み入れていくその過程が素晴らしい。


 私という女の子が側にいながらアブノーマルな世界に墜ちる男の子を見るのは普通のBLよりも濃さを感じさせる。


 そんな腐った思考を持っている私がまさか普通の恋愛に興味を持つことになるとは思わなかった。貴腐人と呼ばれたこの私が!


「でも今日の悩み方は結構深刻だな、どうした?」


「うぐ……」


「あーわかった。これはあの猫ちゃんとしちゃった感じだな」


「あれだけ熱心に探してて洗脳解いたんだろ? そりゃなぁ。精力剤っていうのももしかしたらそういうことかもな」


 キミヒト君がロリコンだったのは知っているけど一線を越えるの早すぎない? 倫理観を一回壊されてるから忌避感が薄いのはわかるけどまさかあんな幼い女の子たちに手を出すなんて。


 いやでも私も男同士の恋愛好きだし手助けしてるからあり得ない話でもないのかな。それにエルフだから合法ロリの匂いがするしフラフィーちゃんも良い体してるし普通の話か。


 くそー自分の恋愛感情じゃまくさーい。あと精力剤の話は聞かなかったことにしたいから言わないでほしい。


「私はいいの。みんな幸せならそれで! BL見てるだけで楽しいし!」


「そういえばあかねは彼氏が欲しいとかそんな話を聞いた気がするな」


「キミヒトがこっそり耳打ちしてたやつだな!」


「彼氏という単語に俺たちが反応しないわけがない」


 こいつらは生粋すぎて身の危険を感じたことは一度もない。同じテントで寝てても安全しかないというのは女子としてちょっと悲しくなる時もあるけど危険よりは全然良い。


 これが普通の男性冒険者だったなら私も色々と考えるところなんだけど居心地が良すぎる。あー、見た目だけなら彼らの方が全然良いのにどうしてキミヒト君なのだろうか。


 ドロップアイテムの換金を終えてロンドの家に戻る途中で変な少女を見つけた。ちょっと過激な服装をしているのでなんかサキュバスとかそういった方面をイメージさせられる。


「ねえあれなんだろ」


「幼女だな」


「キミヒトが好きそうだ」


「キミヒトは幼女ならなんでもよさそうだよな。あ、あかねごめん」


 謝らないでほしい。ロリじゃなくて悲しいとかそういう感情持ちたくないです。しかし急いで逃げている風なのが少し気になるところだ。


「た、助けてください! ロリコンの人に襲われてたんです!」


 へぇキミヒト君以外にもロリコンがこの街にいたんだ。意志疎通で検索かけてもロリに執着してる人なんてキミヒト君ぐらいだったのに珍しいこともあるもんだ。別にキミヒト君を探すためにロリを検索したことがあるわけじゃないよ。


「へいお嬢ちゃん、どんなロリコンだったか教えてくれるか? 俺たちはこう見えて顔が広いからな、力になるぜ?」


 相変わらずのイケメンスマイルと警戒心を抱かせない絶妙な距離の取り方。大人も子どももおねーさんも彼らの前では警戒心がぐっとさがる。そういえばキミヒト君も最初簡単に捕まってたね。


「三人もロリの女子を連れてましたわ! 危険人物です!」


「ほう?」


 イチロウが私に目配せする。うん、わかるよ。三人もロリ連れてるってなるとキミヒト君しか思い浮かばない。他にもいたら話題になってる。つまりこの幼女に問題がある可能性が非常に高い。意志疎通を対象をしぼって発動する。


 ……なるほど。黒だけどギリギリセーフだったって事かなこれは。キミヒト君があの子たちに危害を加える存在を見逃すわけもないし、悪意という感情がかなり薄いねこの子は。それにマジでサキュバスだし。


 みんなに問題はあるけど特に問題はないというサインを送る。私たちはこうやって意思の伝達を図っていることが多い。なぜなら口に出すと男たちが逃げてしまうから。


 こっちに対して悪意のみを持っている場合はバツの合図を。悪意を持っているけどどうにか出来そうな場合は丸を。ノンケだけど落とせそうな場合も丸、最初からゲイの場合は花丸だ。


 つまりは基本的に彼らに不可能はない。相手が男の場合は。しかしこの子はどうにか出来そうとキミヒト君が踏んでいたので丸の合図だ。


「そうか、じゃあ俺たちが安全な場所に連れて行くよ。ギルドに向かおうか? それとも行く場所があるかい?」


 イチロウが手を伸ばし幼女がその手を握り返す。すると幼女は豹変した。


「かかりましたわね! サキュバスの力をなめてもらっては困りますわ! さあさっきの男へ復讐を……ってなんで言うこと効きませんの!?」


「馬鹿言っちゃいけねえよお嬢さん。俺たちは紳士だ。ノンケには手をださねぇ」


「そういう復讐は望んでませんわ!? ちょっと痛めつけるだけでいいんですのよ!? え、私の魔法きかなすぎ?」


「ふ、効いたよ。だが俺達には女に対して恋愛感情を抱けないたちでな。タチだけに」


「うるさいですわ!?」


 どうやらロンドのメンバーに魅了か何かをかけて従わせようとしたみたいだが効かなかったようだ。なんにしろ見た目幼女だもんね、ロリコン以外にはそりゃ効かないよ。


「は!? そうか、この姿だからですわね!? 変身!」


 幼女は何かに気づき一瞬煙が立ったかと思うとその姿は幼女から大人の女性に変化していた。正直目のやり場に困るのでもうちょっと服をどうにかしたほうがいいと思う。男受け悪そうすぎてやばい。


 露出してればいいとかいう女は死ね。相手の好みをよく知ろうとしないでそんな考えだからビッチとか言われるんだよよく考えろ! いやサキュバスだからそれであってるのか。難しい。


「これなら……ってですわよねー」


「女に興味ないからな俺達」


「インキュバスだったら危なかったな」


「でもインキュバスは男じゃなくて女にしか魔法効かせられないんだろ? もったいねぇ」


 魔法が効かなかったのでサキュバスお姉さんは座っていじけ始めた。ああ、残念な人なんだな。キミヒト君はこういうところ見て放流したのか。でも私はちょっといじらせてもらおうかな。


 リーベンの話をキミヒト君からお願いされてたのにこの子がここにいるし、申し訳ない気持ちもある。別に役に立ったことで見直してもらおうとかそういう浅ましい考えがあるとかないとかそういうのじゃない。


 それに魔物だとわかれば容赦をする必要もないだろう。この子は非常に意思が弱い。それこそ私の意志疎通で言うこときかせられると確信できるくらいに。ダンジョン攻略で強まったみたいだし。


 私の意志疎通は相手の意識を邪魔しない。元からそういうものだったという刷り込みを行うだけのものだ。そのため意思が強かったり大切なものがありすぎたりすると効果が薄い。


 なので人間だったり意志の強い魔物には効かないが、この子は人間でもないし意志が強いわけでもないので効く。さらに魔素を吸い上げて弱らせてしまえばこっちに頼らざるを得ないと言う寸法よへっへっへ。


「今解放してあげるからね」


「もう諦めましたわ好きにしてくださいなんでこの街にはサキュバスに魅力を感じる男性がいないんですのおかしいですわ」


 どうやらプライドがズタズタになったらしい。出会った人たちが全部悪かったねどんまい。

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