第87話 目的を忘れないでください
俺はゆっくりと水の中に入っていく。自分に透過の能力を使い足以外は完全に外からの干渉をカットしてサクサク進めるようにする。壁の中とは違い目に透視効果を付けても周りを確認できるようだ。
というかもしかしたらスキルが強化されたから無意識で光をうまく取り込めるようになったのかもしれない。害がないものとかそういう感じで。便利すぎるわ。
「でも全然見えねぇわ」
水はかなりの透明度だが、魔素が濃すぎて透視を使ってみるとかなり見えづらく非常に疲れることがわかった。それなので透視を切って肉眼で水の中の魔物たちを確認することになる。
まさか透視切った方が視界が良くなるとは思いもしなかったぜ。そして視界が良くなった途端に俺は一度ダッシュで階段の上に戻る。
「はぁはぁ」
「どうしたのキミヒト、何かあった?」
クロエが心配して聞いてくるが何かあったなんてものじゃない。この水のダンジョンは確実にここで攻略が止まっているということに確信が持てるほどの事態が発生していた。
「モンスターハウスだわここ」
「キミヒトなら問題ないでしょ? さあアリゲーター……じゃない柔亀を取ってくるのよ」
「キミヒト、ごーごー」
「がんばってくださいキミヒトさん! 料理はしますから!」
こいつら食欲しかねぇ。みんな俺の心配を全くしてないのがちょっと悲しいけどそれは信頼の証ということで許してやろう。それに実際に戦わないなら問題ないしな。
目の前に三メートル級のワニが数十匹泳ぎまくっててそれよりもでかい魚というかサメみたいなのもいっぱいいてかなりの速度で密集してるくらいだ。どの魚も大きくて人を丸呑みするレベルで凶悪だし牙もいっぱい。
その中に単身突撃してって目当ての魚に剣くわせてくるだけだからな。
うん全然余裕。
絶対無理的な意味で。
「ふざけんなまじで」
「キミヒトがそんなにビビるなんてそんなに多いの?」
「俺が中に入るじゃん? 四方八方からワニやらサメやらに襲われるじゃん? 俺透過してるから食われないじゃん? ってことは無限に襲われ続けるじゃん? 怖すぎるんだが?」
というわけで俺の想いをみなさんにお伝えする。なんだろうな水の中にいるデカい生物を見た時のあの根源的な恐怖は。水の外に出てしまえば全然怖くないんだけど水の中にいるときだけ異常に怖い。
これが人類の根源に刻まれた何かなのかもしれないと現実逃避したくなるくらいにはおぞましい光景だった。数匹だったらこうはならなかっただろう。
水の中のモンスターハウスとかどうしようもないよマジで。
「仕方ないわね。イリス、キミヒトとちょっと行ってくるわ」
「お気を付け」
「クロエさん大丈夫なんですか?」
「いけるわよね、キミヒト?」
つまりこういうことか。俺がクロエを引き連れて水の中に入りクロエが直接アリゲーターと柔亀を魔法でとっ捕まえると。どんだけ食いたいんだよこいつらはよおおおお!
「いけるけど、暴走とか大丈夫?」
「そうしたらキミヒトに助けてもらうから大丈夫」
「お、おう。頼りにしてくれ」
そんなこと言われたら頑張っちゃうよ。ロリに頼られたら絶対に断ることはしないし俺のパフォーマンスは何倍にも上昇するだろう。任せとけ!
というかこのロリは俺がビビってるのに全くビビらないイケメンっぷりを発揮してくれるからもう俺も頑張るしかないよ。この余裕ぶりからすると暴走も本当に心配なさそうだしな。
「よし、んじゃちょっと試すぞ」
「ええ」
俺はクロエの手を握り、クロエを体の一部と認識することでクロエごと透過していく。ああ、ロリと一体になってるこの感じ幸福感ぱないわ。
「これで大丈夫なの?」
「何かに触ろうとしてみ」
クロエは透過してるのかわからないので壁に触れようとしてみる。しかしその手は見事にすり抜け何事にもならない。不思議そうに眺めていたが納得したようだった。
「楽しいわねこれ」
「結構慣れが必要だけどな。ちなみにクロエは全身透過してるからまともに歩けないと思う。だからこうだな」
クロエに抱え上げお姫様だっこを慣行。本日二度目です。
「おねえちゃんばっかりずるい」
「イリス。あなたもしてもらったことあるのよ?」
「……ほんと?」
確かに俺はクロエとした夜に薬盛られて意識失ったイリスをお姫様抱っこで運んだ。クロエもばっちり覚えていたのはしてほしかったからなのだろうか。だから抵抗少なかったのかな。
「私は!?」
「フラフィーはペット枠だから……」
「だからなんでですか!? 私にもそのうちしてくださいよ!」
「肩に担ぐタイプならいつでもしてやる」
「お姫様の扱いじゃないですしペットでもしませんよそれは!」
とか言ってるけどフラフィーは二回おんぶしているから密着率で言えばかなりのものだったりする。不遇の扱いを受けているだけあって意識がない時は優しくしている。
だから許せ。見えないところで俺はデレを発揮してやるからごめんな。
「じゃあ行ってくる」
「いっぱい釣ってくるわ」
「いってらっしゃー」
「うぅ……いってらっしゃいです」
俺はクロエを抱え再び水の中に潜っていく。二人とも息を止めて進むとモンスターハウスが見えてくる。相変わらずのおぞましい光景だ。
「バインド」
水の中だが声を出すことは出来る。それは透過しているが体の中の空気はそのままで、水の中だが水の中に声を出したわけではないからだ。逆に外の空気を取り入れることも出来なくなるが、どっちにしろ水の中ではそれは出来ない。
なので魔法を使うことは普通に出来る。息を吸えなくても息を吐ければそれで問題はない。違和感ばりばりだがそういうものだと割り切って使う。わかんなくなったら使えなくなるとかあってもいやだしな。出来るもんは出来る、それだけだ。
俺がいつも透過しているときは必要な部分のみなので呼吸は普通に出来るし目が見えなくなることもなかった。やばかったのは全身透過させた壁ぬけの時くらいだ。それも今や解消されたようなので汎用性が異常だぜ。
クロエの魔法はいつも足元にできるが今回は真正面に展開された。それそういう位置指定出来るんだ、間違いなく拘束魔法だな。バインドっていうと縄のイメージあったけどこれなら正しくバインドだわ。
水の中に生み出された紫の空間に触れた生物たちは少しずつその移動速度を落とし動きが鈍くなっていく。そして剣の先に結び付けていたロープを何本も生み出しアリゲーターやらなんやらを捕えていく。
なんかエサに群がってる魚を網で一網打尽にしてるみたいで面白いかもしれない。獲物がでかすぎるという点を除いてだが。
というわけで第一陣の獲物を引っ張っていく。本来であればクロエが上にいて引き上げるだけだったが、今回は一緒に来てるので合図も特に必要なく限界まで弱らせて持っていく。
「大漁大漁」
「ざっとこんなもんよ」
「ごはん、いっぱい」
「スモールシャークも!? これも美味しいですよ!」
フラフィーの言葉にロリ達はかなりテンション高く会話をしているが肝心の柔亀がいないのですよ君たち。目的を忘れないでくださいお願いします。
とりあえず全部に止めを刺して収納に入れまくって保管する。俺の収納食料ばっかなんだけどこれいいのか? 納品してだいぶ減ったとはいえ三十階まで探索したミスリルより増えそうなんだが。
素材集めよりも食料集めしてるからこれ探索者って言うより探食者って感じがするんだけどもういいか。そういうパーティだよ俺たちは。まともなやつなんて一人もいないんだよ。
そして二度目の水中探索でなんとか柔亀を発見し水のダンジョンの探索は終了した。階段も探してみたらまだあったのでここが最後じゃなさそうだった。
そのうちこのダンジョンも攻略してみたい感じはするよな。息が続かない問題が解決できなければ無理だけど。
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