第85話 やってみたかった
さくさく進んでいた俺達だったが異変は三階層についたあたりだった。今まではそれなりの湿度だったが、この階層からは霧がかかっているくらいの湿度に満たされていた。
「これは……進み辛いな」
「鉄装備だったら錆びちゃいそうですねここ」
難易度はCランクのダンジョンだが、そりゃ全然人がいないわけだ。こんな湿度の高い場所でずっと狩りをし続けるなんて普通に考えて辛すぎる。装備の手入れもめちゃくちゃ大変だし、濡れるというのは想像以上に体力を奪う。
さらにいつもと違う環境というのは非常にストレスがかかり判断力の低下やミスが起こりやすくなる。このダンジョンの最終階層はいくつかは知らないが最後まで行くのは今は無理そうだな。
あと服が張り付くので場合によっては目のやり場に困ったりもするだろう。
「それに敵も少し変わってきたか」
今まではクリーンアリゲーターだけだったが、この階層では水の中から奇襲のように水鉄砲が飛んでくる。魔物はその名の通り鉄砲魚で水の中から出てくることはなくうざすぎる事この上ない。
しかしこちらにはイリスがいるので飛んでくる水鉄砲を片っ端から撃ち落とし、クロエもステッキを手に入れたのでイリスの打ち漏らしを叩き落としていく。俺とフラフィーのほうは盾で防ぎ全員が難なく突破していく。
俺は敵の位置が見えるしフラフィーはそもそもの反応速度が桁違い。後ろのロリたちは戦いなれしている感じだろうか?
「でもこのままなら五階層までなら何とかなりそうだな」
順調に進んで行き階層を超えたが、四階層でその思いは砕かれることになった。そこは水で満たされていてぽつぽつと陸地があるだけの変な地形になっていた。
「ひざ下まで水あるんですけど……」
ちょっと進んでみると俺のひざ下まで水がある。これではまともに戦闘することは無理なのではないだろうか。少なくとも受け流しには体重移動や盾さばきをする必要があるから自由に出来ないだろう。
さらにイリスは火の魔法を完全に封じられてるし水魔法も効果が薄い。そして氷魔法はで狙撃しようにもやつらは速く当たらないし範囲攻撃をするとこっちまで巻き込まれる。
そうとうきついんじゃないだろうかと思ったがイリスにはどうやら秘策があるようだった。
「キミヒト、私に任せる」
イリスは俺たちの足元に向かって風魔法を発動させる。するとその部分だけ水が避けて足場が現れる。ざばざばと音を立てながら出来る足場は不思議な光景だ。でもこれ相当消費激しいんじゃなかろうか?
「これで進める」
「イリスありがたいけどそれ大丈夫か?」
「数時間はなんとかなるけど攻撃は厳しいと思う」
確かに四人分の足場を風魔法で作り出すのは相当な荒業だと思う。そこに足場を作ると言うことは階層の全ての水を押しているのと一緒だ。足場を作るという意味なら凍らせるというのはどうだろう。
「このダンジョンの水は魔素が流れてる。魔法の効果で凍らせてもすぐに溶けちゃうからこっちの方がまだ楽」
とのことだった。正直どっちも相当大変だとは思うがイリスに任せることにしよう。その分俺たちがしっかり守ってやらなければならない。
「水の中に魔物が結構いるもんな……。イリス、すまないが頑張ってもらうことになる。疲れたらすぐに言うんだぞ」
「おっけー」
「魔力足りなくなったら私のあげるから頑張って」
イリスの魔力は無尽蔵のように思えるがクロエから見ても消耗しそうに見えるのだろう。ロリ達の魔力の受け渡し方法がすごく気になって仕方ないがイリスの疲れた顔は見たくないのでとっとと行こう。すごく気になるが。
というわけで無理やり足場を作り出し進んで行く。ありがたいことにこの階層はそこまで広くなく、一応陸地もあるのでそこで休憩をはさみながら行くのが無難なところだ。
というかイリスの性能のやばさがかなり際立つな。いくら透視で水の中の魔物が見えて伝えたとしても俺たちの反応速度を上回る速度で四方八方から攻撃されたらどうしようもなかった。
足を攻撃されもし倒されでもしたら死亡コース間違いなしだからな。その奇襲を完全に防げるのはかなりでかい。そらこのダンジョンは攻略されないだろう。クエストが余っていた理由もよくわかるよ。収納持ちもそうそういないし。
マジックバッグみたいな収納付きのアイテムもあるみたいだがわざわざこんなクエストに使う人もいないだろう。というか精力剤のためにここまでの危険を犯させる依頼主に文句言っても良いと思う。
「……こないな?」
「そうね。もしかしてそういう階層なのかしら」
俺たちが水に触れていないためかわからないが、攻撃されることなく進んで行くことが出来る。一応陸地で休憩しつつ周りを警戒するが、そこでも攻撃を受けることはなかった。
敵の影はかなりいるが、本当に水の中にいなければ安全だったようでかなり拍子抜けだった。そして次の階層に行くときに陸地にのぼったがそれらしき階段が上の方にある。具体的には十メートル近いとこ。
「高いな……」
「バフかけても無理な所ね」
「魔法で打ち上げる?」
「死ぬんじゃないですかそれ」
しかし打ち上げるか。それだけだと無理な気がするが、これはいっちょやってみたかったあの合体技を使ってみようかな。フラフィーのでかい盾を見た時から実はずっとやりたいと思っていたんだ。
「フラフィー、ちょっとこの辺で盾こっち向きに構えて」
「こうですか?」
「そうそうおっけー。んでクロエは俺にバフちょうだい」
「いいけど、どうするの?」
クロエは言われたように俺にバフを強めにかける。気持ちが少し盛り上がってきたのでちょっと準備運動をして体の具合を確かめていく。気分は金メダル級のアスリート。
「フラフィー、上向きに受け流し出来るよな?」
「できますけど……。あ! そういうことですか!」
「そ、んじゃいくぜ!」
崖下のところで盾を斜めに構えたフラフィーに向かって俺は全速力で走る。バフがかかっているのでかなりのスピードで走り、片足で踏み切ってフラフィーの盾に両足で乗り上げる。
「いきます!」
俺が着地したと同時にフラフィーが叫び俺を上方向へ受け流しながら飛ばす。それと同時に俺もジャンプをすることでかなりの勢いで打ちあがる。上向きに感じる浮遊感は奇妙な感覚だが一つわかることがある。
「あ、これやべ」
絶妙に足りない気がする。思いっきり踏込みタイミングもばっちりだったが流石に十メートルは高すぎる。大体三階か四階くらいのビルの高さに匹敵するところをこんなアクロバティックな登り方はなかなかに難しいものがあったか?
ゴールが近づいてきたから確信を持って言えるけどこのままだと少し足りない。壁に激突して落ちるしかないかと思ったがイリスの声が聴こえた。
「ういんどしょっと」
ギリギリ届かないかと思ったところで下からふわっと体が持ち上げられる。おかげで俺は無事に次の階層の入口に登りきることが出来た。
「イリスサンキュー」
「おういえー」
魔法の威力をかなり弱め、それで上に進む俺を少し後押ししてくれた。正直めちゃくちゃ楽しかったからまたやりたい。建物に侵入するときとかかっこよさそうじゃんねこれ。
そして収納から長めのロープを取り出しみんなを引っ張り上げて次の階層に無事に進むことが出来た。
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