第82話 神の鍛冶師

「やってるー?」


「誰じゃいってキミヒトか。お前さんすごい噂になってるな」


「一躍有名人だぜおっちゃん。俺がここ御用達にしてるって宣伝しておくから色々と安くしてもらえない?」


「はっ、言ってろ」


 俺の軽口におっちゃんは渋い感じに返してくる。なんだこのイケオジ、めちゃくちゃ素敵じゃないですか。こういうやりとり憧れてたから本当に嬉しい知り合えてよかったよゴンズのおっちゃん。


 あまりにかっこよかったので目線の位置で手を握りかわすという男の握手をしてしまった。ゴンズも普通に握り返してきたから俺たちは何かが通じ合っているのかもしれない。


 主に小さいものに対して愛情が深いと言う意味で。


「お前さんまた何か勘違いしとるだろ」


「本気です」


 あきれ返るような視線を投げかけてくるが勘違いで済ませてはいけないのでこちらの意見をしっかり伝えておく。小さいものが好きなのが勘違いなわけないだろうドワーフのおっちゃんや。


 あなたのお嫁さんは絶対背が小さいと俺は確信を持って言えるぜ。なにせドワーフは身長が高くても百五十しかないって話だからな。うちでいうとフラフィーと同じくらいだ。


 平均的に考えると百二十ほどしかないらしい。実物をこの目に見たことはないけどぜひ見てみたいと思わざるを得ないこの情報である。ちなみにクロエとイリスは百四十くらいです、日本でいうと小学五年生の平均くらい。


 背徳感しかない。


「まあいい。装備の受け取りにきたんだろ? 出来てるぞ」


「ひゃっふー!」


 俺のハイテンションをロリ達は後ろで遠巻きに見ている。はたから見たら軽い変態に見えるもんなわかるよ。全くやめる気も自重する気も一切ないしファンシーステッキが手に入る喜びを抑えるのも無理です。


 あのクロエのなんとも言えない表情とかほんと刺さる。好き。


「まず最初にこれを渡すが……作っといてなんだが本当にこれでよかったか?」


「注文以上の可愛さです。おっちゃんが作ったとは誰も思うまい」


「こっちとしてもそう思わざるを得んわ」


 ゴンズが最初に取り出したのは見事に俺の注文通りのファンシーステッキ。小さい女の子が憧れるような見事なフォルム。ミスリルと銀の合金ということもあって白く輝きまるで純白で穢れのない乙女の様だ。


 長さは六十センチ程度で魔法少女が持つにふさわしい感じになっていて殴るにも適したサイズ感となっている。さらにその大きさでありながら重さを全く感じさせない不思議仕様。


 注目すべきはその形。俺が注文した通りに先端部分はハート形になっていてちっちゃい羽がついていてやたらとファンシー。そしてゴンズの粋なはからいもあって先端部分のやや下には赤い宝石とリボンが付いている。


 完璧すぎる。さてはゴンズ魔法少女大好きだな?


「完璧すぎる。完璧すぎるよ。やはりゴンズは神の鍛冶師」


「お、おう。喜んでもらえて何よりだ」


 今の俺の表情はきっと理性を手放しかけてるやばい感じに見えると思うけどそんなこと気にしてる場合じゃあない。俺は早く見たい、クロエがこれを持つ姿を!


「クロエ!」


「うわキミヒトさんやばい顔してますよ」


「フラフィーお前あとで覚えとけ。あれ? クロエは?」


「お姉ちゃん外に逃げた」


 シット! 俺から逃げるとはいい度胸だこれはそのまま仕立て屋に行って服装ごと魔法少女にしろって言ってるんじゃないだろうかそうなんじゃないか!? 待ってろよクロエ、すぐに魔法少女にしてやるからな。


 あとフラフィーはちょっと複雑そうな顔していたしイリスは自分じゃなくて良かったってほっとした顔していた。


 クロエで堪能しまくったらイリスにも持ってもらおうと思ってるからにげきれないからな? たぶんクロエも協力してくれるよ? だから安全な場所なんてないから覚悟しといてね?


 外に出るとクロエがめちゃくちゃ嫌そうな顔でこっちを見ていた。


「キミヒト、本当にあなたという人は……。でも私も良いって言っちゃったし覚悟を決めるときが来たようね」


 溜息をつき嫌々ながらも俺の手元にあるファンシーステッキを見つめる。しかしその出来栄えは本当に素晴らしいの一言に尽きるのでぜひ使ってほしい。見た目だけでなく性能もな。鑑定結果はこちら。


『聖銀の杖:ミスリルと銀の合金。性能が強化され大幅な耐久力向上に加え出力の安定感が上昇。魔法、打撃共にアンデット属性に特攻』


 この性能をクロエも感じ取っているようなので見た目以外は認めていると思う。だからこその覚悟を決めた表情だろう。少女が魔法少女になるとき、それはいつでも覚悟を決めた時。


 少女が大人になるように、自分という殻を破り新しい自分になるように、魔法少女はいつだって未来を暗示する素敵な存在になるんだ。


 そしてクロエはファンシーステッキを握り、魔法少女になった。


 いや待てよ。この世界って少女が魔法使えるからみんな魔法少女なのでは? いや違う、魔法少女には可愛いステッキがないといけない。これは鉄板だ。もしくは少女に合った何かでもいい。


 たとえばイリスなんて枝だけどなんか様になってるからそれでおーけー。フラフィーは魔法を使っていないから別物。あれはただの盾持ちの少女。


 でも自分より大きいもの持ってる少女って結構良いよね。大型のマシンガンとか所持してる少女とか結構ぐっとくるものがあるよ。武骨なデザインと可愛い少女はミスマッチに思わせて地味にマッチするから困る。


 なんていうかロマンの詰め込まれたものを少女に持たせるというのが心に響くんだと思う。じゃなきゃあんなに認知されるわけがない。


 ……さて現実逃避はここまでにしようか。


「な、なんで無言なのよ。どう? 似合ってるかしら?」


 クロエがファンシーステッキを持ったことにより俺は死にかけている。可愛すぎるし似合いすぎるし照れた顔がドストライクだしツインテールも拍車をかけてくるし銀髪と銀色のステッキのマッチングも素晴らしすぎるしもう何が何やらわからない興奮で俺の心は満たされてしまっていた。


 雑念を交えなければ決して理性を保つことなど不可能。それほど似合っている。


「最高」


 俺はその言葉をつぶやくだけで精一杯だった。


 

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