第81話 腕の中の温もり

 仕方ないので扉の鍵を開けてフラフィーを招き入れることにした。クロエもイリスも少し疲れた様子を見せていたのにフラフィーは元気を持て余している感じがする。


 というかベッドに縛り付けられてたのに平然と抜けてきたのかこいつは。なかなかにすごいポテンシャルを秘めている。


「どうしていつも私だけ置いていくんですか! しかも縛るなんてやりすぎですよ! 断固抗議します!」


 入ってくるなりかなりヒートアップしている。仕方ないので俺とロリ二人はさっきと同じポジションに戻り両手に花の状態になる。


「落ち着けフラフィー、こんなに可愛いクロエとイリスがそんなひどいことするわけないだろう?」


「冗談ですよね? どう考えてもしないわけがない側の人たちですよね?」


「もっと頑丈に縛っておくべきだったか」


「ほら! こう言ってますよ! 真実をちゃんと見てくださいよ!」


「俺はロリが正しいと信じている。真実はそれだけで充分だ」


「何を信じたのかは不明ですがキミヒトさんはそういう人でしたね……」


 どうやらフラフィーは自分に非があると認めたようだ。正確には俺たちが全く自分たちを悪いと思っていないと言うことに気づいて仕方なく折れたというのが正しいが。素直な子は好きだよ。


 そしてちゃっかりあいている俺の正面、足の間に体を滑り込ませ体重を預けてくる。猫獣人という名前に恥じない俊敏な動きで懐に入られた。


「私も混ぜてくれればそれでいんですよ?」


「フラフィーにはずっと不憫なキャラでいてほしいからだめかな」


「なんでですか! というかそんな理由で拒まないでください!」


 静かでまったりした朝だったがフラフィーの襲来で少し騒がしくなってきてしまった。これではロリ達との甘く楽しい日常を謳歌出来ない。少し現実を教えてやるか。


「よし、フラフィー床に座れ」


「な、何故?」


「巨乳、床」


「早く座りなさい?」


「な、何故お二人まで……?」


 俺たちの謎の圧力により何故と言いながらも素直に床に座る。正座じゃないがこの際良いとしよう。というか異世界的に正座させたら足腰痛めそうだからその辺は気にしない。


「何故床に座らせられたかわかるかフラフィー」


「全くわかりません」


 うん、俺も現実を見せてやるかと思ったけど別に床じゃなくても良かったわ。真顔のフラフィー見てたら少し俺が馬鹿なことしてる自覚を持ってしまったよ。


「巨乳、キミヒトとのちゅーの邪魔した。許せない」


「そ、それはごめんなさい」


 フラフィー、素直。良いのかお前はそれで。座らせた俺が言うのもなんだけども。


「昨日は私が発情状態にさせたのもあるけど、激し過ぎよ。大変だったんだから」


「そ、それもごめんなさい……」


 少し照れくさそうに謝るのは普通に可愛い。顔赤くしてるのもポイント高いところだな。というか二人ともちゃんと理由があるのに俺だけ理由なく座らせてごめんなという気持ちが若干沸いてくる。


「フラフィー、反省したか?」


「ええと、たぶん?」


「じゃあ今日はこの後ダンジョンで盾してもらうからみんなでご飯いこっか」


 だからと言って謝ることはしないがな。みんな良い感じに頭が冷えたという意味ではフラフィーグッジョブというところだがイリスとちゅーしたかったです。キスじゃなくてちゅーって言うところが正直ぐっと来てしまった。


 いつものようにティティのいる食堂でご飯を済ませダンジョンに行く準備をする。そういえばフラフィーの装備返しておくか。


 軽い防具やらも包丁とかと一緒に収納空間に放り込んだままだからな。でもその前に聞いておかなければいけないよな。 


「フラフィー、お前包丁なんのために持ってるの?」


「え? 今さらそれ聞きます?」


 何を言ってるんだろうこの人はみたいな目線を俺に投げかけてくるが全く意味がわからない。俺を刺す以外の用途見たことないんですが?


「……返さなくていいか?」


「予備もあるので問題ありません」


 一体誰がこの子に入れ知恵したんだろうかと思わないでもない一途っぷり。その狂気に満ちた行動さえなければたぶんもうちょい優しく出来る。


 全く保証はしないけど。


「今度は何本持っていくんだ?」


「秘密です」


 まじやべえなこいつ。


 と、そういえば昨日は保留にしたけどファンシーステッキ出来てるんじゃないか!? フラフィーに構ってる場合じゃねえ!


「クロエ、武器取りに行くぞ! あともろもろの防具も!」


「え、ちょっと!?」


 俄然テンションが上がってきたのでクロエをお姫様抱っこして外に飛び出す。奇異な視線を浴びるが全然気にならない。


 この腕の中の温もりと横にいるロリが今の俺の世界と言っても過言ではない。今度は鍛治屋じゃなくて仕立屋にいくしかねぇな!


 フリフリのピンクの魔法少女にしてやるぜ! スク水ベースにしてリボンとかオプションの着いたロリロリなやつも良いよなぁ!


「キミヒト! 嬉しそうなのは良いんだけど降ろして!?」


「絶対に断る」


「なんで!?」


 何故かって嫌がる幼女を抱き締めるのが楽しいからです。嫌がりながらも本気の抵抗してこないこの感じ大好きです。


「お姉ちゃん、羨ましい」


「よーし、イリスも今度街中でやってやるぞー!」


「それはいや」


 乙女心の難しさは俺には理解できないけど楽しそうなので正解ということにしておこう。お姫様抱っこ以外だと何が楽しいだろうか?


 肩車したら普通に喜んでくれそうだしめちゃくちゃ微笑ましいし肩車するしかねぇわ。


「キミヒトさんて本当いつも楽しそうですよね……」


「おうよ、めちゃくちゃ楽しいぜ!」


 だってみんながいるからな。フラフィーがさらわれた時とか生きた心地がしなかったけど安心してその反動もきてる。


 本人に伝えたら喜びそうだから絶対言わないけど。クロエとイリスもそれがわかってるから俺に便乗して口をつぐんでいる。


「なんで私だけいつも蚊帳の外感あるんでしょうね」


「特別扱いだ。嬉しいだろう?」


「全く」


 困ったような笑顔を見せつつ俺の服をつまんでくる。


「でも、助けてくれて本当に嬉しかったです……遅くなりましたけど、ありがとうございました」


 その目には狂気の光は一切無く、理性的で優しさが溢れていた。


 ああ、本当に無事に済んで良かった。この笑顔が守れただけで全て報われたような気持ちになった。

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