第77話 魔法打ち込む

 というわけでフラフィーを置いて水のダンジョンにやってきた。昨日誘拐されたというのに何故放って来たかって? 


 簡単な話だ。


 甘い空気を放たれるのが嫌だったんだよ!


 なので置いてけぼりをかましたあとに愚痴られることをして色んなことをうやむやにしようという最低の行動をぶちかましていこうと思った。あいつ絶対調子乗るからな。


 反省も後悔もしていないのでフラフィーに会うのが楽しみだ。


「綺麗な所ね」


「流石水のダンジョン」


 ロリ二人は幻想的な雰囲気のダンジョンに感動している様子だった。森から森へ、人を避け魔物を避けながら旅をしてきた二人にとってこういう風景は格別なのかもしれないな。


 俺から見てもかなり幻想的で美しい場所だと思う。ダンジョンというよりは広い洞窟という感じで、青白い光が階層全てを満たしている。まるで立っている場所すらも水の中なのかと錯覚してしまう程。


 しかしそうじゃないと思わせるのが本来の水の綺麗さだった。どこまでも透き通るような透明感のある水だが、魔力が混じっているためかこちらも薄く発光している。


 ドロップアイテムもそんなに美味しいダンジョンじゃないので人もまばらだ。アトラクションのダンジョンじゃなくてこっちがデートスポットに向いてると思います。敵がでてくるけど。


「来たわね」


「私に任せる」


 それなりの警戒心を持って進んでいると水の中からワニっぽい生物が出現してきた。一応鑑定をかけてみる。


『クリーンアリゲーター:綺麗な水に住む魔物。温厚だが人型の生物を見ると襲い掛かって来る』


 つまり動物とかが迷い込んでもこいつは襲わず水の中の魚たちとも上手くやっているということだろうか? なわばりに入ってきた奴を襲うとかでもなさそうだし魔物は不思議な生態をもっているな。


「ファイアボール」


 イリスが呪文を唱えるとクリーンアリゲーターは黒焦げになり死んだ。ダンジョンの魔物は一定時間経つとダンジョンに吸収されドロップアイテムを落とす。


 その時間はそこまで長くはないが一瞬というほどでもない。そのため今回依頼されている柔亀の全身は消える前に回収して持っていく事になる。本来のドロップアイテムは『柔亀の血』というアイテムで、強壮剤の素材として重宝されている。


 柔亀はドロップ品を納品した方がお金になる事が多いのでこの依頼は人気が無かったのだと思われる。ちなみにダンジョンから持ち出した魔物は消えないため余すとこなく素材になるが、ギルドでの受け取りは不可。


 何故なら外からの持ち込みが可能になってしまうので、ダンジョン産という保証が出来ないからだ。そのため素材を持ち運ぶ手間、解体してドロップ品を捏造する手間を考えると普通にドロップ品にしたほうが手っ取り早い。


 クリーンアリゲーターのドロップ品を拾って俺達は柔亀が出てくるのをひたすらに待つことになった。奥まで進んでいっても良いが、その場合は攻撃を受ける盾役がいないので少し危険になる。


 一応最初は俺が片手剣スタイルでヘイトを取っているので安全と言えば安全だが、でかい魔物が出た時はめんどくさいことになるかもしれない。フラフィーを置いてきた弊害ともいう。


 仕方ないから次のダンジョンに行くときは連れて来てやろう。全く仕方のない猫獣人だぜ。


「キミヒト、あれなに?」


「どれだ?」


 イリスが湖の中の一点を指さしているようだが何も見えない。


「あれあれ。おねえちゃんはわかる?」


「私にも何も見えないわね。それなら精霊とかじゃないかしら?」


 どうやらクロエにも見えないらしい。俺とクロエに見えなくてイリスにだけ見える。確かに精霊だったら素敵だけど何で水の中にいるのよ。


「魔法打ち込む。ロックランス」


「え」


 イリスは精霊なんじゃ? という問いに対して攻撃魔法をぶち込むという謎の回答を見せる。なんでそういうことするん?


「あ、あたった」


 どうやら当たったらしい。あ、なんかすんごい光が近づいてくるけどこれ怒ってるんじゃないですかねイリスさん。


 予想通りというかなんというか、結構大きめの人魚みたいなやつが飛び出して来た。水の上にプカプカと浮きながら明らかに怒ってます状態でこっちをにらみつけてくる。俺じゃねえよ。


「なんですか誰ですか! 私に攻撃魔法打ち込んだのは! お前か人間! 死ね!」


「ロリ専なもんでそれ以外からの罵倒はNGでお願いします」


「なめてんのか人間! ロリが好きだからってそう簡単に罵倒してくれるロリがいるわけねえだろが! ふざけんな!」


 何に怒られているのかさっぱりだが結構俗世に染まってらっしゃる感じがしてとても好感が持てる。あとおちょくっても大丈夫そうな予感あるよこれ。なのでノリに任せてこっちも言い返す。


「ふざけんなはこっちのセリフだよ! 水の精霊っていえば頭に花の輪っか付けてカーテンみたいな簡素な服着てるのが王道だろうが! なんで人魚なんだよ!」


「うるせぇ! 武器とか防具落としてきたらそのスタイルで出ていくんだよ! 攻撃魔法をピンポイントで当ててきたから本来の姿で登場だよ文句あるか!?」


「ごめんなさい」


 どうやら攻撃魔法を食らったせいで驚いて飛び出して来てしまったようだ。これは完全にこっちが悪いので怒鳴ったことも含めて謝罪をする。


 というか落とし物してきた人に対してはわざわざ姿を変えて登場するんだね。あと森の中じゃないのにそういう活動してるんだ。


「な、なんだよ人間。わかればいいんだよわかれば。ってなんで攻撃魔法打ち込んだんだよ。見えないだろあたしの事」


「見えたよ」


「そんなわけ……え、森の精霊様……?」


 水の精霊はイリスを見て呆然としてがくがくと全身を震わせ始める。どうやらイリスを構成する精霊の部分に反応しているようだがめちゃくちゃビビってるなこれ。


「私が攻撃魔法打ち込んだ。ごめん」


「いえいえいえいえいえいえ! そんな森の精霊様が謝られることなんて何一つもございません! どうぞ好きなだけ攻撃魔法を打ち込んでくれて構いませんよ! どうぞどうぞ!」


「アイスランス」


「ちょ!? イリスやめてやれ!?」


 てんぱった上に攻撃してほしいとか言い出した水の精霊にイリスは躊躇なく魔法を打ち込んだ。ごめんからのアイスランスは中々にインパクトのある光景だ。


 水の精霊はまさか攻撃されるとは思っていなくてめちゃくちゃビビっていたが間一髪で攻撃を回避することに成功していた。イリスの攻撃をかわすあたり結構強いと思われる。


「本当に精霊だったのね」


「そうみたいだな……」


 クロエは冷静に状況をみて精霊を注視していた。警戒というよりも好奇心が刺激されているという感じだろうか。イリスの行動に驚かないあたり初めてじゃなさそうな感じである。


 他の精霊に会ってもこんな事してたら結構な問題になりそうだけどな。


「大丈夫よ、イリスの精霊の力は強いから。全属性の魔法つかってるでしょ? ほとんどの精霊の上位存在だからみんな従順になるわ」


「まじかよ」


 どうやらイリスまじで最強種族らしい。魔法の扱いに長けていると言われるエルフ、そして存在が魔法みたいな精霊の良いとこどりとかやばくないですかね。


 そしてイリスは水の精霊をじっと見つめてビビらせ続けて遊んでいた。まじでやめてやれよ。

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