第70話 フラフィー回収

「おいフラフィー、大丈夫か!」


 フラフィーは棒立ちしたまま動かない。周りに血まみれで倒れている盗賊たちがいるが、フラフィーがやったのか? フラフィーにはこんな攻撃力は無かったはずだが。


「おい、フラフィー! フラフィー? どうした大丈夫か?」


 どうにも様子がおかしい。こちらの声が聴こえていないのか全然反応する様子がない。近づいていき、肩に手を置いたことでようやくこっちに気付いた。


「キミヒト、さん?」


「ああ俺だ。良かった、無事か?」


 目の中に少しだけ理性の光が戻った気がする。しかしその瞳に映っているのは本当に俺なのかと疑ってしまう程遠くを見ているようだった。


「キミヒトさん、キミヒトさん。会いたかった」


「ああ、俺もだよ。本当に良かった」


 抱き着いてくるが今は良いだろう。というかこういうスキンシップをしてくるのは非常に珍しい。さらわれて心細い思いをしたんだろうし、盗賊に囲まれるのも恐怖だったに違いない。


 目的は達成できたことだしこんなところに長居は無用だ。フラフィーの無事も一応確認できたしあとは戻ってこれからの事を相談しなくちゃな。


「キミヒト、フラフィー回収したなら早く戻るわよ」


「ああ、今行く」


 クロエは扉の外で一応誰かが来ないかを見てもらっていた。イリスとフラフィーを襲ったと思われる奴はいなかったのでもしかしたら罠かもしれないと思っていたたためだ。


 しかしそんなことはなく俺たちの手元にはしっかりとフラフィーが戻ってきた。人質にするのが目的ならこんなに簡単に返すものだろうか。いやそもそも盗賊達を使っていたのもおかしいか?


「クロエ、さん?」


 俺が考え事をしていると、クロエの声に反応したのかフラフィーが扉の方を向く。何かやばい。


「フラフィー? どうしたの、大丈夫?」


 クロエが扉から中を覗き込んだ瞬間、フラフィーがクロエに向かって猛然と襲い掛かろうとした。


 嫌な予感がしていた俺はフラフィーの腕を強く握り、抵抗するのを無理やり抑え込んで床に倒す。


「なんでなんでなんで一緒にいるんですかおかしいです私が一緒にいられなかったのにどうしてあなたたちばかり一緒にいられるんですかおかしいですおかしいです」


 フラフィーはわめき散らしながら俺の腕から逃げようとする。凄まじい力だ。どういうことだ? 俺はフラフィーに鑑定をかける。


『フラフィー:猫獣人の少女。狂獣化のスキルの影響により理性が飛んでいる。また、魔法による強い洗脳状態も併発中』


 ……なんてこった。鑑定さん、君の情報はとても役立つけどとても不味いよ。スキルの成長を喜んでいたいところだけどこれはまずいだろう。


 洗脳状態。これが相手の目的なのか? クロエとイリスを捕まえるのが目的だとしたらこれは何の意味があるんだ?


「クロエ、フラフィーを眠らせてやってくれ」


「どうしてですかキミヒトさん! 私が、こんなにも、あああ……苦しい……辛いです……」


「……やばそうなのは理解したわ。スリープ」


 クロエの睡眠魔法によりフラフィーを一時的に無力化することに成功する。頭を抱えてうずくまっていたことから少しは洗脳に抵抗出来ているのかもしれない。しかしこの状態で宿屋に戻っていくのはまずいんじゃないだろうか。


「クロエ、この状態、何かわかるか? 狂獣化みたいだが……」


「狂獣化? それなら仲間には手を出さないはずだけど……とりあえずみんなと合流しましょう」


「そうだな……」


 フラフィーを背中におぶり、クロエと共に来た道を引き返す。フラフィーは洗脳状態にあると書いてあった。理性を失っているところに強い洗脳を受けたらどうなるんだ?


 それにさっきクロエが仲間には手を出さないというセリフ。俺には確かに手を出さなかった。しかしクロエには手を出そうとした。俺が何か関係していそうな雰囲気


「クロエ、フラフィーは洗脳状態にもあるみたいなんだ」


「そう……。それならあかねに頼んでみましょう」


「ああ……」


 あかねの解放のスキル。今は頼れるものがそれしかない。


 神頼み的に看病のスキルを使ってみたが効果はなかった。


 というか発動すらできなかった。もしかしたら何か条件があるのかもしれないが、洗脳を看病して解けるとかは流石にないだろう。病気とはまた違うだろうし。


 外に出るとあかねもイリスも無事でいた。正直フラフィーのこの状態を見ていたためイリスがものすごい心配になっていたが杞憂だったようで良かった。クロエも同じようにほっとした顔をしていた。


「フラフィーちゃん血だらけじゃない!」


「これは全部返り血みたいだ。とりあえず戻ろう」


 そのまま俺が担いで戻っていると門のところにロンドのメンバーの一人がいた。


「見つかったのか! そいつは良かった!」


 俺に朗らかな笑顔で声をかけてくるがこちらとしては何ともしがたい状況だ。しかし彼らには世話になったので状況と礼を伝える。


「助かったよ。お前らがいなかったらこんなに早く見つける事は出来なかったと思う。でもちょっと厄介なことになっていてな。また少しあかね借りてもいいか」


「ああ、構わないぜ。というか元はそっちの仲間だろ。俺達としてはこっちが借りてる立場だからそんなに気にしないでいい。それより何か他に手伝う事はあるか? 厄介事なんだろ」


「いや、今のところは大丈夫だ……。何から何まですまん。また何かあったら頼む」


 自分たちも大変だったろうにこっちを気遣ってくれることにとても心が温かくなる。フラフィーの事が無ければこのまま飲み明かすくらいの勢いである。


 フラフィーお前どうしてこんなんなってんだよ。


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