第69話 フラフィー視点 その二
かなりの急加速に意識が持っていかれそうでしたが、なんとか耐えて意識を保ち続けることに成功です。数分間の飛行でしたが、慣れない感覚のせいか少し気持ち悪くなってしまいました。
「これは人質ですが、計画には関係ないので好きにしていいですよ。後で捨てますし」
そういって私を連れ去った人はおもむろに私を投げて転がした。地味に痛い。全身をぐるぐる巻きにしているこの魔法は解いてくれないのだろうか。
「おいおい獣人かよ。つまんねーな」
「でも女なんだろ? なんでもいいだろそんなん」
「ちげぇねぇ」
聞きたくないです。最悪です。
「なあ魔族さんよ、この魔法解いてくれや。楽しみてえからよ」
「……人間は本当に趣味がわるい。良いでしょう。逃げられたら面倒ですし手だけ拘束しておきましょうか」
「お、話がわかるねぇ」
そして私はどこかに引きずられていき手を上向きに固定され拘束の魔法を解かれました。目の前には角の生えた細身の男。魔族と呼ばれていたようにとても強い力を感じます。
これは逆らったら死にますね。拘束魔法が解けなかったこともありますし逃げる機会をうかがうのが最善でしょうか。
「ほう、なかなかいい体してるじゃねえか」
「顔もまぁまぁだな」
そのほかには身なりがよろしくない男性が五名ほど。私の事をいやらしい目で見てきます。これは覚えがあります、私を襲おうとした冒険者と同じ目です。
あれ……私手を縛られて……これはあかねさんの言っていたやばい同人展開という奴なのでは。
「やめてください!」
「その威勢がどこまで続くか見ものだな」
一人が私の身体に触れようとしたとき、腕以外は自由なのでなんとか受け流しやり過ごすことに成功します。
「おいおい何やってんだよ」
「うるせぇ手が滑っただけだ」
とてもまずいです。一人だけなら何とかなるかもしれませんが五人は無理です。最悪です。キミヒトさんとする前にこんな奴らにいいようにされてしまうのでしょうか……。
いや、諦めるのはまだ早いです。クロエさんが言っていました。本気で念じればスキルが手に入ると。
キミヒトさんも言っていましたし、実際にキミヒトさんもあかねさんもスキルを手に入れていました。私は今までどうやってもスキルを手に入れることが出来ませんでした。
でも屑鉄、ミスリル、この二つのダンジョンを攻略して経験値の溜まった私にも何か起死回生の一手が手に入るかもしれません。お願いします!
必死に念じてみると、スキルの名前が一つだけ思い浮かんだ。今までこんなことはなかったのですが、初めて防御系統以外のスキルを見ることが出来ました。
『狂獣化』
……かなりやば目な予感がしますが、頼れるものはこれしかありません。頼りましょう。この知らない男たちにいいようにされるよりかはましなはずです。
私はスキルを取得し、発動させる。
体の内側から情熱にも似た破壊衝動が駆け巡っていきます。
「ぐるるるる……」
「なん……だ?」
「おいそいつから離れろ!」
魔族の言葉が飛びますが目の前の男は反応できませんでした。
私が思い切り足を振ると男の身体はひしゃげ壁に叩きつけられ血が飛び散りました。いつもの私の動きでは到底不可能な破壊力です。
ああ、人を殺すのってこんなに気持ちよかったんだ。
「てめぇ! よくもやりやがったな!」
もう一人の男が武器を持ってとびかかってきますが膝で受け流し、私の腕を拘束している魔法の鎖を使って首に巻き、体重をかけてへし折ります。
宙に浮いた状態になっている私に男たちは襲いかかってきますが、一発蹴るだけで簡単に壊れてしまいました。つまらない。
そこの魔族さんは私を楽しませてくれるのでしょうか? 軽く殺意を飛ばすと魔族さんは少し驚いたような顔をしていました。
「これは素晴らしい。思わぬ拾い物ですね。そのままその心を肥大させ、人間共といられなくさせてあげましょう」
腕の拘束が何故か解かれる。魔族に襲い掛かるが魔族は余裕の表情で私の腕を止める。そして不思議な言葉で魔法を唱えると、私の心は大きくかき乱された。
憎い。憎い憎い。
どうして私を一番に選んでくれないのか。どうして私ばかりがこんな目に合うのか。どうしてどうして。キミヒトさんは私を好きと言ってくれたのにどうして私を最初に選んでくれなかったのか。
どうしてどうしてと私の心が悲鳴を上げていきます。これは私が抱えていた嫉妬の心。しかしみんなを大切に思うから胸に秘めていた醜い嫌な私の部分。
それが魔族の言葉を聞いて一気に噴き出してきます。いやだ。こんな気持ち持ちたくない。いらないよ、やめてよ。
「はははは、これだからたまらない。負の感情がこれほどおいしい! やはり獣人は扱いやすくて最高だ!」
獣人は情が深いと言われている。家族の絆を大切にすると。それと同時に感情的になりやすい性質も持っている。私がすぐにキレてしまうように。
こんなにもキミヒトさんを欲しいと思うように。こんなにも私を苦しめた人間を殺したいと思うように。
ああ、私はもう元に戻れないのかな。こんな感情意識したくなかった。最悪だ。
クロエさんとイリスさんが大切だという感情が抜け落ちていく。ただただ嫉妬だけが私を支配して、二人からキミヒトさんを奪いたいと願ってしまう。
どうして、どうしてこうなってしまったのか。『狂獣化』は私の闘争本能だけを大きくしていた。理性という枷が外れて何かを壊したいという気持ちだけが私を支配しようとしていた。
でも今は破壊衝動と同じくらい嫉妬の気持ちも大きくなっていく。あの魔族はこのスキルをいじったの? 私の心を破壊したの?
イリスさんが目的だったのに、このままじゃイリスさんを殺してしまうのに。
ただただ楽しそうに笑っていた魔族はいつの間にか姿を消していた。計画はどうでもいい、そんな言葉も聴こえていた気がする。
そして私は狂おしいほどの嫉妬心を抱えながら茫然と立ち尽くすしかなかった。こんな気持ちを抱えたままキミヒトさんに会えるわけがない。
会いたい。会いたくない。会いたい。会いたくない。
いつまでそうしていただろうか、気づけば誰かがこの近くに来ている。誰でもいいや。別にもう、どうでも。
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