第51話 当分遊んで暮らせる

 クロエの装備を新調する目途もたったし、ダンジョンも攻略できてルンルン気分だし良いこと尽くめ。あとは残ってるミスリルをギルドに投げつけて憂さを晴らしてフィニッシュだ!


 しかしギルドに向かうにつれて少しずつ人が増え、ギルドの中が人であふれかえっているのが見える。うん、なんかミスリルの洞窟の前でみた連中だな。俺達と一緒に追い出された人たち。


 あれ、これまずいのでは。しかしロンドの連中が先に行ってるからそこまで悪くはなっていないはず。姿を探してみると彼らは無事でテーブルで仲良く周りの冒険者と語らっている。


 どういう状況? 個人的には収入源壊したからめちゃくちゃ怒られると思ってびびっていたんだけど、あいつらの様子を見た限りそんな感じはなさそうだ。


 じゃあどうしてこんなに人が集まっているのか。


「お、来たみたいだぜ」


 イチロウかジロウかサブロウがガッツリこっちをみて周りの探索者たちに声をかける。そんなことをすれば当然視線はこっちに向き人が殺到する。怖すぎる。


 しかし敵意といったものを感じないので思わず接近を許してしまった。どうなるんですかねこれ。


「お前たちが攻略したってまじか!」


「ミスリルゴーレムとの戦い聞かせてください!」


「疾風のロンドとの関係性は!?」


 ものすごい質問攻めに合う。あれ、めっちゃ歓迎されてるんだけど。これはロンドの連中がうまくやってくれたのか、それとももともとダンジョン攻略が歓迎されているのか。


 あと最後の質問はどういう意味なのか。あいつらの恋人かなにかか。いや女の人の声だったから違うか。


「ちょ、ちょっとどうしたらいいんだこれ?」


 俺がもみくちゃにされながらなんとか声を発すると、ロンドの連中が笑っていた。あいつら面白がってやがるな。そして女性陣はギルドの外に出ているのも見える。逃げるの早すぎるわ。


「みなさん落ち着いてください!」


 そこへ女性の大きな声が響く。遠くから聴こえてきたので受付嬢の声だと思われる。それを示すように探索者のみなさんは俺に道を譲ってくれた。


 波が割れて受付に行けるようになったのでそのまま向かう。何故か後ろは包囲がされたままなので逃げることは出来ないがそれは別に良いと言うことにしておく。


「いらっしゃいませ、キミヒトさんですね?」


「はいそうです」


「ええと、ミスリルのダンジョンを攻略したとか」


「はいそうです」


 俺の受け答えに顔色を悪くしていく受付嬢。あ、この人俺の事覚えてますね。銀を受け取らなかったこともそうだし最初にステータス暴露したのもきっと記憶にあるわ。


 うむ、良い傾向だ。


「そ、そうですか。疾風のロンドの皆様方から聞いていたのですがまさかそこまでの実力とは……」


「屑鉄のダンジョンも攻略しましたよ」


 周りが聞き耳を立てているのでこれ見よがしに報告する。


「はい……今日、確認しました……」


 あ、知ってた? 受付嬢の顔色が最初から悪い原因がはっきりしましたね。ごめんね、根に持つタイプなんだ。


「それで、その、ドロップ品の納品はしてくれるのでしょうか……?」


「ミスリルの洞窟のですね、いいですよ」


「ええと、出来れば、屑鉄のもあったり……」


「受け取ってもらえなかったので別のところに持ち込みました」


 これも周りに聞こえるように言う。別に威圧するつもりはないけど正直に言っておかないとね。大丈夫、最後にちゃんとフォローしてもらうから。


 ちなみに銀はまだ持ってる。持ち込んだとは言ったが全部渡したわけじゃないから嘘は言ってない。


「すいませんでしたあああ! 私が! 受付としての業務を全うしなかったばかりにキミヒト様にご迷惑おかけいたしました! 私の首でよければ差し上げます! 街の事を嫌いにならないでください!」


 土下座しながら床にガンガン頭をぶつけながら全力で謝られた。怖い。


「いや、ちょ、怖い怖いやめてください! 血が出てますよ!」


 これフォローいらんわ。異常なほどのケイブロット愛が伝わってくるから周りに悪い印象はそこまで残らないだろう。こんなに盛大に謝れる人というのも誠実さがあるし。狙ってやってるなら相当だが。


 いじり倒そうと思ったけどこれはいじっても謝り倒されるだけだしもはや気が済んだくらい。でも情緒不安定な振る舞いは怖いからこれからはやめてください。


「許してください! 私の首で! さあ!」


「なんですかそのごつい剣は!? やりませんて! 許しますから! 死のうとしないで下さいよ!」


「許していただけるんですか!? 御心に感謝いたします! ではミスリルの洞窟のドロップ品を確認させてください」


「変わり身はやいね」


 受付嬢は何事もなかったかのように受付に戻りカウンターで業務をやりだした。頭から血が流れているのも全く気にせず。


 というわけでドロップのミスリルを……いやここで出したら面倒なことになるわ。投げつける勢いで大量に出そうと思ってたけど収納持ちなのが周りにばれてしまうな。


「量が多い感じですか。それならこちらへいらしてください」


 さっきまでの醜態が嘘のように華麗な対応をされる。俺の反応を見て何か隠したいことがあるとわかったのだろう。通常営業なら優秀な人なんだろうなこの人。頭おかしいだけで。


「ではこちらにどうぞ」


 そこは倉庫のような場所で、奥の方では他の職員たちが荷物の整理や持ち出しなどを行っていた。一時預かり所みたいな感じだろう。


「じゃあ遠慮なく」


 どばーっとミスリルゴーレムの残骸を出す。ダンジョン探索中に集めていたミスリルでも充分な量があるため、ゴーレムの残骸は邪魔でしかなかった。


 スキルが強化されて容量オーバーのMP減少効果が止まっていたのが幸いだが邪魔なものは邪魔だ。鉄よりは軽いとはいえ十メートル近かった魔物だからなぁ。


「ちょちょちょ、ストップストップどんだけあるんですか!」


「いっぱいです」


「はい、ここまで受け取ります。今日納品されなかったミスリルの分がこれで足りそうなので非常に助かりました」


 俺が止めた瞬間紙に何かを書き始めそれを俺に渡してくる。ドロップ品の預かり証で、査定は後日確定するとのことだった。この量だもんね、すぐに査定は出来ないよね。もう受け取らないという強い意志を感じる。


「ではギルドマスターより話もありますので、こちらへどうぞ」


 ギルドマスター? ダンジョンクリアした人には何かあるとかそういう感じだろうか。そう思って連れて行かれた部屋にはロンドのメンバーもいた。


「よう、お前ら」


「おうキミヒト、ちゃんと火消ししといたぜ」


「それはありがたいんだがどうやったんだ?」


 その質問の答えを聞く前に扉が開き、壮年のおじ様が登場した。顔に傷があるが、怖いというよりも頼もしい印象を受ける。


「俺がギルドマスターのジーギスムンドだ。今回はダンジョン攻略ご苦労だった」


 ジーギスムンドはそういって椅子に座る。そしてかなりの金額が詰まっているだろう袋を渡してきた。


「これが屑鉄のダンジョンの報酬だ。あそこは長らく放置されていたから助かったよ。これでいいドロップになれば街はもっと栄えるだろう。屑鉄以外に何か落ちたか?」


「それなら銀がドロップしましたよ。採掘箇所はありませんでしたが」


 正直に伝える。どうせ後でばれることだし隠す必要もなければ喧嘩を売る必要もない。印象通りの話し方なのと、ロンドのメンバーが何も言わないので信用できる人物というのもわかる。


「銀か! そいつは良い。今銀が不足しがちだからな! そこだけはドロップが変わらないことを祈ろう! ああそうだ、うちの受付が粗相を働いたらしいな。その節は本当にすまなかった」


 部下の失敗を謝れる上司は良い人物だと勝手に思っている。好感度上がっていくなこの人。そしてロンドのメンバーは熱い視線をジーギスムンドに送っている。君たちそれ目当てでここ来たの?


「しっかり謝ってもらえたのでこちらとしてはそれで充分ですよ」


「そういってもらえると助かる。あいつは優秀だがたまにやらかすからな……それでこっちがミスリルのダンジョンの攻略報酬だ」


 またドンとでかい袋を渡される。あの、これ金額やばくないですかね?


「ダンジョンはドロップが変わることも多いが、その時入っている人の量によってはドロップが良くなるだけということもある。経験則でしかないが、切り替わってもミスリルは前より落ちるだろう。そしてそれ以上の物も落ちるかもしれない。だからこれは正統な報酬だ」


 うーん、マイホームが買えてしまいそうだぞ。勇者問題片付いたらどこかに腰を落ち着けてみんなでいちゃいちゃ生活をするための資金が出来てしまった。夢が膨らみすぎる。


 それにゴーレムの方でも報酬入るし……当分遊んで暮らせるなこれは。

 

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