第50話 ファンシーステッキ
攻略直後俺たちは前と同じように外に放り出されたが、そこには俺達だけでなく多くの冒険者たちが存在していた。全員追い出されるんだからそりゃそうか。金策中だったら悪いことしたわごめんな。
なのでみんなでこそこそ逃げることにした。もしかしてロンドの連中これわかってたから俺にコア壊させたとかないよな? あいつらの名前が石板にでてたら一瞬で顔われるから俺にやらせたとかじゃないよな? こっちをみろ。
「お前ら貸しだからなまじで」
「すまんすまん、ギルド報告してやるからそう怒るなって。俺たちが必要なときはいつでも呼んでくれ」
彼らはそういってギルドの中に消えていった。これでダンジョン攻略したことが公になるだろう。そして俺の名前が書かれていたことも他の冒険者たちから伝わる。
誰かが気づいていれば屑鉄のダンジョンも俺がやったとわかるだろう。ああ、ロンドの連中に言っておけばよかったか? いや俺から受付嬢に言って煽ってみたいからいいわ。
「ゴンズさんのところ行くんでしょ?」
「そういやクエスト受けてたな」
あかねが紙を俺に見せてくる。クエストの受領証だ。
この紙と納品物をゴンズのところに持っていけばそれで報酬が支払われる。武器のお願いもあるしちょうどいいな。ついでに武器の補充もしたいし。流石に十本も壊れたのはつらい。
「キミヒト、その、私の武器本当に作ってくれるの?」
「ああもちろんだ。聖銀で可愛いのつくってやる。種族的にだめとかあるか?」
聖銀で作ろうと思ったのはクロエが吸血鬼のハーフだと知らなかったからだが、吸血鬼って普通聖銀だめだよな。クロエもまずいのか?
「エルフの方が血が濃いから、それは大丈夫だけど……一緒に考えてくれるって言ってたじゃない」
「うん。片手でも振り回せるサイズで、先端はハートマークでちっちゃい羽がついてる感じにしようと思ってる」
「ファンシーすぎるんだけど!? なんでそんなのにしようとしたの!?」
なんか怒られてる。
「え、可愛くない? ハート形じゃなくて星形の方が好みだったかな。それとも棘つきのいかにもなメイスがいいとか?」
「いやどれもおかしいでしょ! 魔法使いっぽくないんだけど?」
「おねえちゃん、私のことディスってる?」
枝振り回してる子が非難してますよ。
「私なんて盾だけですが」
盾しか装備しない子も何か言ってる。
「ええと……」
「というわけでクロエも色物装備しようぜ」
「だから嫌なんだけど!?」
仕方がないじゃないか。俺たちのパーティに求められてるのは異常性だ。誰も求めてないけど俺が求めてるからそういうことにしておきたい。
「逆に聞くけどクロエだけ普通の装備しててみ? 仲間はずれ感ない?」
「それでいいんだけど!?」
「俺は嫌だよ。クロエ一人だけみんなと違うなんて。俺はみんなと一緒に同じ生き方をしていきたいんだ。クロエはそうじゃないのか?」
「感動的な話にしようとしてもファンシーステッキ持たせようとするにはおかしいと思うんだけど!?」
ち、だめか。じゃあもういっそのこと勝手に作ってプレゼントするか。大量のミスリルも手に入ったことだしぶっちゃけやっちまっても問題ないんじゃなかろうか。
いや魔石問題があったか。黒ゴブリンは実際強かったけどこいつの魔石じゃかっこ付かないしな。色も黒いしハートのステッキには似合わない。
その点強化スケルトンの魔石はピンク色してるからかなりいい感じ。
「わかったよクロエ正直に言う。俺はクロエが恥ずかしがりながら可愛いステッキ振り回すのが見たいだけなんだ」
「ぶち殺すぞ」
こわー。
久しぶりにワイワイしながら街を歩きゴンズの鍛冶屋につく。ここは人気店なのだろうかと本気で思うくらい毎回人いないな。
「やってるー?」
「誰じゃいってもういいわ。やっとるわ」
受付で何か仕事していたっぽいゴンズに声をかけるといつものように返してくれる。うむ、これはリピートしたくなる対応だ。
「注文の品お届けにあがりました」
「なんじゃいお前らやってくれたのか。ミスリル結構な量だったが持ってこられたのか? お前たちランク低かっただろ」
「それは私の力でごり押しましたよ」
あかねがゴンズに依頼書を渡す。きちんと処理できていることを確認してゴンズは納得した様子だった。
「ほう、Aランクとは大したものだな。あまりみない顔だが」
「武器屋で買っちゃいましたからね私は。それにあまり派手に戦闘もしないので手入れも最低限で済みますし」
「変わったやつもいるもんだ。それでミスリルはどこだ?」
ゴンズが欲しいと言っていた分のミスリルをその場に出して受領印と報酬をもらう。これでクエストは達成だ。あとはこっちの用事だけ。
「そういやお前さん、聖銀の武器作るとか言っていたがこれだけあるなら出来るぞ」
「ぜひ頼む、あとミスリルならそれ以上にあるからついでに防具も新調したいんだけど頼めるかな」
「いいぞ、急ぎの用事もないし数日くれれば作ってやる」
「よっしゃ助かるぜ。じゃあデザインはこんな感じで」
こそこそと紙にデザインを描いてゴンズに渡す。しかしそれはクロエに取り上げられてしまった。
「キミヒト、一緒に考えるって約束だったでしょ!」
「だめか?」
「だめ」
「どうしてもだめか?」
「だめ」
「あの形が一番クロエの魅力を引き出すと思うんだけど」
「さっきの発言忘れてないんだけど?」
くそ、どうしたらクロエにステッキを持たせることが出来るんだ! 魔法少女のように可愛い武器、そして変身機能のついた魔法装備も欲しい……! このパーティで一番魔法少女性能高いのはクロエなのに!
一見ツンツンしてるキャラはなんだかんだ魔法少女に選ばれる気がするんだよ! 次点でフラフィーだけどフラフィーは自前の猫耳があるから俺の個人的理由で却下。変身前から猫耳ついてるのはずるい、反則です。
いや誰が魔法少女似合うかじゃなくてどうしたらクロエに魔法少女的なステッキを持たせられるかだ。考えろ、今考えないでいつ考えるんだ!
「キミヒトがすんごい馬鹿みたいなこと考えてるのはわかるわ」
「馬鹿だと? 俺は大真面目だよ! 大真面目にクロエに魔法少女になってもらいたいんだよ!」
「馬鹿なの? ねぇ、馬鹿なの?」
「何故だ……何故わかってくれない……こんなにも、こんなにも魔法少女として完成しているのに! クロエほど魔法少女が似合う可愛い女の子はいないというのに!」
「何がキミヒトをこんなに駆り立てるのか小一時間問い詰めたい」
すがりついて涙ながらに訴える俺の姿を見てクロエの目の光がどんどん消えていく。もう少し、もう少しだ! こうやって馬鹿なことを言い続ければクロエならいつか絶対に折れてくれる。俺は詳しいんだ!
「小一時間? 一週間くらいかけて語るからお願い魔法少女になって! 僕と契約して魔法少女になってよ!」
「一週間は長すぎるし契約しても魔法少女にならないしキミヒトは一体どこの誰なの」
「絶対クロエ魔法少女にさせるマン」
「絶対クロエ魔法少女にさせるマン」
俺が真顔で宣言するとおうむ返しに返答がある。うむ、あきれ返って思考を放棄し始めている兆候が出ているな。もうひと押し。
「クロエが魔法少女になってくれないと嫌! 魔法少女になってほしいんだよおお!」
「ちょっとキミヒト、わかった! わかったからただこねるのはやめなさいよ!」
「やったぜ」
「こいつまじでどうにかして」
秘技泣き落とし。プライドなんて捨てた。幼女に魔法少女ステッキを持たせる理想に比べたら他のものを捨てるなんてたやすいたやすい。俺の勝ちだな。
「お前さんも大変だな」
というわけでクロエ魔法少女計画は成功した。俺がガッツポーズをとって慟哭をあげているとクロエからはめちゃくちゃ蔑んだ目で見られたけどとても興奮するから色々とやってよかったという感想しかない。
「ああそうだ、これ出来とるぞ」
「あ、まじで? さんきゅー」
ゴンズが十センチ四方の箱を渡してくる。俺はそれを丁寧に受け取り代金を支払う。今日はクロエの装備を作るのが第一目標だったが、このアイテムを受け取るのも非常に大事な目的だった。
「キミヒト、それって」
「そ、この前のやつ」
腐食竜の指輪だね。
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