第35話 ダンジョンクリア

 俺の凶行にあかねはこの世の終わりのような顔をする。こいつは顔芸担当としてやっていけると思うんだ。


「う、うわああああ!」


「どうせ戻ってこないしいいだろ。またゴミ屋敷作るだけだし」


 最初は反論しようとしていたが、ゴミ屋敷という単語でその勢いは急激にしぼんでいった。


「どうせ私はゴミ女だよ。家の中にゴミまき散らしてひきこもるしかないカスだよ。いいもんいいもん。キミヒト君にいっぱい責任とってもらうから」


 あかねがいじけ始めたがそんなもんなら可愛いもんだな。ナイフや包丁だして死のうとしないから安心だな。これがフラフィーだったらみんなもうちょっと危機感持ってる。


 俺からの生暖かい視線を受けてフラフィーは可愛く首をかしげている。いやお前いつもこれ以上にひどいからな? 何自分はこんなこと言ったことありませんみたいな顔してんだよ。


「しかし勢いで壊したけどこれ戻れるのか?」


 俺が疑問を口にしたと同時に謎の音声が聞こえる。こいつ、直接脳内に? ってやつだ。


<<ダンジョンが攻略されました。この部屋にいる生命体のスキルを強化します。その後ダンジョン内の清掃に移ります>>


 音声が聞こえたと思ったら俺たちは全員外に出されていた。そして入口の横にはそれなりに大きな石板が出現していた。


 そこには俺の名前が刻まれ、攻略した人物がわかるようになっていた。


 なんだろう、ゲームとかのランキングで表示されるあれみたいなもんか。なんていうかいきなり現代的でびっくりするわ。いやダンジョンなんてものがあるくらいだし別に不思議じゃないか。


 でもこんな機械的なアナウンスしてるとダンジョンが魔物説全く信じられないんだが。


「っていうか名前書かれるの俺だけなのか。なんかすんごい寂しいんだけど……」


「私はよかったわ。人目にさらされなくて」


「同意」


「私も目立つのはちょっと……」


「私の家が……」


 みんなから暖かい言葉をもらって探索者ギルドに向かうことにする。ドロップアイテムの納品とダンジョンクリアした報告もしとかなきゃいけないし。


 名前さらされた以上放置してると怒られそうってのが一番の理由だが。


「落ち込むなよあかね。お前はこれからボーイズハントするんだろ? 相手がお金持ちだったらもっと良い家住まわせてくれるよ」


「確かにそっか。ゴミで満たされてたし別にいいよね! よーしがんばるぞー!」


「私が掃除した意味はあったのでしょうか」


 急に元気になったあかねと対照的にフラフィーは落ち込んでいた。すまんなフラフィー、この街に来てから、いや出会ってから君が報われたことは一回もないな。


 きっとそのうち良いことあるよ。応援してる。


「なんだかキミヒトさんと会ってからずっと振り回されてる気がします……」


 気のせいだよ気のせい。それに友達も出来たし……友達かな俺たちは。友達っていうよりも仲間って感じだし上位互換ということで許してもらおう。


「私はフラフィーちゃんの味方だよ! その不憫な感じとっても安心するもの!」


「何も嬉しくないです」


 あかねは猫獣人にメロメロだ。いろんな意味で。友達っぽいねおめでとう。


 というわけで俺たちは探索者ギルドに来ていた。ダンジョンを出た時に朝になっていたのでギルドはかなり混んでいる。


 正直この中に入っていくのは嫌だな……。あかねなんか日の光に当てられてもう外に出たくないとローブとフードを完全にかぶり怪しさ満点の風貌になっている。


 というかこのパーティ俺以外みんなフードかぶってるわ。クロエとイリスはエルフだから耳が特徴的だし、フラフィーも耳がそうだし胸も大きいから注目される。


 あれ……もしかして俺のパーティ黒ずくめがひどいんじゃ……。いやでもこんなに人多くなければローブ着ないしな。この街は来たときはフードだけだったし。色んな種族いるし。うん、今だけ今だけ。


「じゃあ帰るか」


「帰るの!?」


「だって混んでて嫌だし……。とりあえずその辺でちゃんとご飯食べようぜ」


 みんな少し驚いた顔が見られたので俺は満足。でもお腹が空いているのは事実なのでだれからも文句は出なかった。


 そのまま食事処に向かうと、俺たちが屑鉄のダンジョンに行くのを心配していた給仕の女の子が働いていた。今は忙しそうだったので違う給仕さんに声をかける。


「生五つ」


「キミヒト君!? ここ居酒屋じゃないし日本でもないし通じないんじゃない!? 私未成年だし!」


 この国というかこの世界では子どもの飲酒はどうなんだろうか。聞いたことないけど。頼んだのは冗談だけど。給仕さんは慣れているのか知らない単語は華麗にスルー。正しい反応です。


「このオーク肉のステーキと薬草のサラダ、クック鳥の串焼き人数分ください。あとミルク一つと果実ジュースを四つ」


「あとスライムフィッシュのフライもお願い」


 みんなでそれぞれ適当に頼みまくる。ぶっちゃけかなりお腹が空いている。ダンジョンに潜っているときは満腹にすると行動に支障が出るし、食料問題からもよろしくない。


 持ち込んだ保存食もあるが、流石に外に出ているのに食べるのは違うしな。盛大に飲み食いさせてもらおう。


 ちなみにオーク肉は普通の豚肉と同じような味。脂身が多い分ジューシーなため世界中で好まれている。


 クック鳥はその名の通り。焼き鳥盛り合わせみたいなもんだよね。


 薬草のサラダは普通のサラダとあんまり変わりない。通常の街だと薬草を料理に使うなんてことは考えられないがここはダンジョンの街。ドロップで大量の薬草があるからできる料理だ。


 保存してても劣化するくらいなら食べてしまおうという剛毅な人が作ったらしい。それがなかなかおいしいのと、薬草という健康によさそうな感じがみんなに気に入られ定番メニューと化した。


 スライムフィッシュはあんまり聞かないけど、骨のないぷりぷりした魚みたいな感じ。透明感のある魚の形したきくらげみたいな。


 水辺の生物と植生のもの比べるのはおかしい感じがするけど似ているのだから仕方ない。歯ごたえもそれなりにあるし、揚げてもとてもおいしくいただける。しかしゼリーみたいな触感の部分も多いためあんまりお腹にたまらない。


 ただ、今個人的に一番おいしいのはエルフ二人の食事風景だ。食生活が充実してなかったエルフコンビはどれもこれもおいしそうに食べるからとても幸せな気持ちになります。


 女の子の食事風景大好きなんだよね。なんかわかんないけど食べてる女の子見ると安心するというか落ち着くと言うか。ものによっては性的興奮を覚えなくもないけどそれはまれな出来事。


 食事中に性的な事考えるなよって思われるかもしれないけど可愛いものは可愛いのだから仕方がない。


 食事を運んできたのはあの女の子の給仕だった。あ、ちなみにミルクはフラフィー用です。


「あれ屑鉄のダンジョンに行くって言ってたみなさんですか? どうでした? やっぱり無理だったでしょう?」


 てきぱきと料理を並べながらそんなことを言ってくる。俺たちがクリアしたとは欠片も思ってないようだ。何年も放置されていたらしいしそらそうか。


「楽しかったよ。いい勉強になった。ちなみに俺の名前はキミヒトっていうんだけど君の名前は?」


「私ですか? ティティって言いますけど……こんなに女の子侍らせてナンパですか?」


 さりげなく名前を教えておく。名前を聞いたのはこっちから名前を教える以上聞いた方が自然だと思ったからだ。あと周りの連中に不審に思われないため。


 普通に名前聞くだけだったらフラフィーあたりが苦言を呈してくるだろうし名前を教えてもらえない可能性もある。フラフィーからかうのは楽しいから良いけどティティの名前を聞く目的を忘れてはいけない。


 名前を教えておくことで屑鉄のダンジョンがクリアされたことが知れ渡った時、俺がクリアしたことがわかるだろう。俺が教えたんじゃ信憑性ないし、あとから驚かれる方が楽しい。


 女の子の照れた顔が最高だというのは語った気がするけど、詰め寄られるのも悪くないよね。ティティがどんな反応するのか楽しみで仕方がないわ。


「来たの二回目だし何かの縁ってことで。それにティティには親切にしてもらったし名前を教えてほしかっただけだよ」


「そうですか、刺されないように気を付けてくださいね」


 そういってティティは給仕に戻っていった。もう刺されそうになってるんだよなぁ。っていうかなんか毒舌キャラっぽくてとても良いな。


「キミヒト、だれかれ構わずナンパする」


「女の敵ですよね」


「やっぱりスライムフィッシュは最高ね」


「えぇ……異世界の料理こんなにおいしいの……?」


 みんな好き勝手やりたいことをやっている感じだ。ちなみにクロエはスライムフィッシュがいたく気に入ったようでこの後何回か頼んだ。収納覚えたしダンジョン潜るときに大量に持って行ってもいいな。


 そしてあかねはひきこもりすぎて保存食ばっかりだったのか? 魔法のある世界でかつ材料もいっぱい新鮮に手に入るんだから料理はおいしくなるよ。というかあのゴミ屋敷のゴミはどっからきたんだよ。


 こうして俺たちは休息を楽しんで時間をつぶした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る