第34話 一応探索者らしいことも

 それから少ししてあかねが起きてきた。当然ながら顔は青ざめて何も信じられないという表情を作っている。


「キ、キミヒト君……。あれはなに……? これは本当の事なの?」


 弱弱しく吐かれるつぶやきに俺は安心した。どうやら理性はしっかり残っているようだ。もしここであいつら許さないぶっ殺してやる! とか言いながら出てきたらやばかったところだよ。


「あぁ、本当の事だよ」


「本当に……? じゃあどうしてキミヒト君は平然としてるの……?」


「さっきも言っただろ。俺は大切にしたいものがあるから頑張れるんだ」


 俺が真面目な顔をして言うとフラフィーが驚いた顔をしてこっちを見ていた。そういえばフラフィーの前であんまり真面目してないな。それに今フラフィーも含め全員見たし。


 いつも扱いひどいけど大切な仲間だよ。意外そうな目で見るのやめろ。


「それだけで、そんな平然としてられるの……? だって私たち人を見捨ててるんだよ!? 一緒に召喚された仲間たちを!」


「そうだな。あの場にいて何もできなかったのは事実だ。その罪は決して消えることはない。だけどな、いやだからこそだな。そいつらのためにもしっかり生きなきゃいけない」


 今にも消えて無くなりそうな悲痛の表情をするあかね。


「私は……そんなに強くないよ……」


 そしてそのままへたり込んでしまう。そうだよな、普通はこうなるよな。やらされていたとはいえ、仲間が死んだとしても弔うことも出来なかった。さらには拷問に近いこともされた。


 俺はスキルの力もあるだろうがクロエ達がいることで落ち込まないで済んだ。鍛冶屋のゴンズや王都の孤児院の院長、様々な人たちとのつながりがある。


 その人たちを助けるためにも俺は自分を奮い立たせることも出来た。


 だがあかねはこっちに来てから頼る人もいない。唯一の仲間たちも自分の手でやってしまったようなものだ。


 立ち直れと言うほうが無理かもしれない。でもそのままじゃだめなんだよ。


「あかね、良いことを教えてやる」


「良いこと?」


「あかねのスキルを使えば、他の勇者を助けることが出来るかもしれない」


「私の……?」


 あかねは自分の手を見つめながら茫然とつぶやく。


「あぁ、出来るかどうかはわからない。でもやらなきゃ何も始まらないんだ。死んでいった仲間たちのためにも、今苦しんでる仲間のためにも、もう少しだけ頑張ってみないか?」


 優しく諭すように声をかける。へたり込んでいるあかねの肩に手を置きまっすぐに目を見つめる。あかねが何を考えているかはわからない。


 普通の少女だったのならショックを受けて当然のことをされた。そして俺はそんなあかねに立ち上がれと言う。


「出来るかな……?」


「あぁ」


「でも……私には生きる支えがないよ」


「そんなもん、俺がなってやるよ」


「本当?」


 すがるような目つきに俺の中の何かが警鐘を鳴らし始める。この目は、依存だ。俺は支えにはなるが依存させるほど出来た人間じゃあない。


 というか依存したらフラフィーと衝突して流血不可避だからまじで危ない気しかしない。返答ミスったかー?


「でもなあかね、やりたいこととかないのか? 異世界に来たんだからやってみたかったこととかあるだろ?」


 なので逃げ道を用意するために他の事に考えを向けさせる。やりたいことがあるならそれを支えにしてほしいと言う願いを込めて。


「彼氏が欲しかった」


 やっぱあかねと行動するの無理かもしんない。


「ど、どんな男がタイプなんだ?」


「強くて、かっこいい、そして家事が万能で私を甘やかしてくれる人。あとお金持ちかな!」


 あー、大丈夫だこれ。俺の事見えてない。話の振り方がセーフを引いたようだ。そして途端に元気になったな。大丈夫かこいつ。


「よしじゃあ理想の彼氏、探しに行くか!」


「うん!」


「ってちがうでしょ!」


 俺とあかねが良い笑顔で握手してこれからの行動を決めるとクロエが突っ込みを入れてきた。今いいとこなんだけど。


「いやキミヒトがそれでいいならいいけど……」


 クロエが引き気味なのって珍しいかもしんない。初めて魅了食らった時以来じゃないか?


「おうよ。とりあえず勇者たちの誰かをとっつかまえてみるか?」


「あ、私年上にしか興味ないんで」


 ……なるほど。勇者は守備範囲外と。


 そうなるとこの世界で探す必要が出てくるわけだけど何かいい案はあるだろうか。出来れば勇者を助ける方針にしつつ望みを叶えられるような。


「年上、お金持ち、甘やかす。キミヒト?」


「いや俺こう見えて家事万能じゃないし」


 なんでイリスは修羅場作ろうとすんの? 俺に恨みでもあんの? フラフィーも殺気出し始めてるしここでどうしても流血沙汰起こしたいの?


「でもスープおいしかった」


「あれは誰でも出来る。それに俺はロリコンだから」


「でもキミヒト君なんだかんだで面倒見てくれそう……」


「みんな、こいつはもうだめだ。帰るぞ」


「うそうそうそ! 置いてかないで!」


 俺があかねを放置してみんなを外に押し出していくとあかねがすがりついてきた。仕方がないので相手をする。


「置いてかないけど真面目にやらないなら置いてくからな?」


「どの口が言うんですかキミヒトさん」


 フラフィーが何か言ってるが知らない。


「仕方ないな、わかったよキミヒト君。とりあえず一緒に行ってあげるから私の彼氏探しよろしくね」


「やっぱ置いてくわ」


「らめぇぇぇ」


 どうやら落ち込んでいた気持ちはどこかに行ったみたいだ。こっちの世界に来た時にメンタルも多少強化されたってことだろう。あの疲れた女神様にちょっと感謝しておこう。


 こんな殺伐とした世界に放り投げだされて日本にいた時と同じメンタルじゃ持たないと思ったのか、この世界に合うように言葉とか常識とか一緒にメンタルもあわせてくれたんだろうか。


「だがまぁ当てはまるのは冒険者、この街なら探索者がメインだろうな。地上に行こうか。ダンジョンコアから戻れるんだっけ」


「うん、すっごく便利だよ。ちょっと待ってね」


 あかねはそう言って床板をいくつか外し隠し階段をあらわにする。え、良く見つけたねこれ。


「こんなところに……」


「やっぱダンジョンはコアだよなーって思って探しまくったよ。この階層どこにも階段なかったから」


 どうやらただひきこもっていただけじゃなく一応探索者らしいこともしていたらしい。少し見直したわ。


「でもボスがいなかったのが意外かなぁ。ダンジョンと言えばボスって言うし」


「ダンジョンは別にボスがいるのが確実ってわけじゃないわ。ダンジョンにはまだまだ秘密が多いみたいだし。もしくはこの小屋の持ち主だったとか?」


「あーそっか! 人が勝手に作ったと思ってたけど魔物が作った可能性もあるのか!」


 全員で階段を下りながら適当に話して進んで行く。そこは小屋と同じくらいの広さで真ん中にポツンと水晶玉みたいなものがおいてあった。


 あれがコアか。不思議な輝きを放っている。ついでに鑑定でもかけてみるか。


『ダンジョンコア:壊すのもあり』


 ……面白そうなことかいてくれるじゃねえか。てっきりダンジョンのコアって表示されると思ってたから驚かされたよ。


「なぁ、このコア壊したらどうなるんだ?」


「やめて!」


 俺が提案するとあかねが吠える。今まで大人しかったのにどうしたと言うのか。発作でも起こしたのか。


「びっくりしました。どうしたんですかあかねさん」


 フラフィーが近づこうとするがあかねが警戒しだす。え、情緒不安定なの?


「こ、これを壊すなんてとんでもない」


「じゃあいいけど」


「え?」


「ん?」


 俺が壊さないと言うと驚いた顔になる。いや別にそれ壊しに来たのが目的じゃないし。というか過去の勇者の残したもの何もなかったな。


 この小屋の持ち主とかだったらわからないけど、この小屋誰が作ったかあかねはそれも知らないみたいだったしこのダンジョンにもう用はない。


 お金稼ぎの観点では独占という意味でありだけど、同じとこ行きつづけてもつまんないしな。勇者助けるにしても実力足らんし力をつけなくちゃいけない。


 あかねの能力次第だが、あの呪いを受けているとスキルに制限がかかるような気がする。俺たちはこれから新しいスキルを覚えつつ鍛えて、制限のかかった勇者たちと渡り合わなくてはならない。


 彼らも一応交渉できるくらいの感情残ってると良いなぁ。


「こ、こわさないの?」


「うん」


「な、なんで?」


「なんでって、あかねが嫌がるからだろ」


 俺としてはそれで充分な理由だがあかねは納得できないらしい。やらないって言ってるんだからそれでいいじゃん。何が不満なのか。


「だってこれ壊したら探索者として有名になれるよ!? ダンジョン攻略者としてお金もいっぱいもらえるよ!? 壊すと中身変わるんだけど、ここ使われてないダンジョンだから作り変えられたら感謝もされるよ!?」


「じゃあやるか」


「らめぇえええ!」


 これは振りだっただろうに。というかそんなに恩恵があるならどうして今まであかねは放置していたのか。


「ひきこもる場所が……」


「ああそうね……」


 俺はあかねに安心しろと笑顔を向けて、ダンジョンコアをぶっ壊した。

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