第16話 身代わりにはちょうどよさそう
「びえええええごめんなさいいいいい」
「はいはいもう泣かないの。私も急に魅了かけて悪かったからお相子ってことで、ね?」
フラフィーの魅了を解いてからずっとこの調子だった。ひたすらに泣きまくるフラフィーをクロエがたしなめながら頭を撫でている。
「もう埒が明かないわね。キミヒトなんとかならない?」
「泣いてる女の子を泣き止ますスキル持ってたら冒険に出てない」
「それもそうか」
「そこで納得するの!?」
ひでぇ。いや言ったのは俺だけど素直に肯定されるとそれはそれで悲しいものがあるというかなんというか。
それにしてもどんだけ不安だったんだよこの猫獣人は。冒険者に騙されてさらにはオオカミの魔物に襲われてそして俺たちに殺されそうになったくらいで……うんそりゃこわいわ。
聞けば俺たちと同じく王都で冒険者になったらしくなんとか一人でやりくりしていたそうだ。獣人と組んでくれる人がいないとこそこそと依頼を受けたりしながら過ごしているうちに騙されてしまったと。
数か月王都にいたのに通りで気づかないわけだ。冒険者ギルドでは人間ばっかりだったし獣人を見かけたことは一度もなかった。それだけ巧妙に隠していたって事だろう。
柄の悪い冒険者も結構いたし俺も目を付けられてもいたから関わらないようにしてたしな。王都でBランク以上の冒険者は結構いるけどそういうのは絡んでこないし、Cランク以下の冒険者なんて普通に返り討ちにできるし。
伊達に女神様から転生能力もらってないぜ。通常の身体能力の向上に加えてスキルももらえるし王城で訓練もされるとか完全にチートでしかない。
俺はその中でもそこまで強いほうじゃないけどちゃんとBランク相当の強さはある。
「巨乳、黙る」
「ひゃ、ひゃい!」
イリスが殺意のこもった目で見つめるとフラフィーは嘘のように泣き止んだけど、今度は別の意味で涙目だった。黙ったことでまともに会話が出来るようになった。
「それでフラフィーはこの後一緒にケイブロットに行くのか? それとも王都に帰るのか?」
さっきは俺たちを狙っていたから一緒に行くと言ったから実際はどこに向かうのかわからない。
「ええと……できれば……私もパーティに入れていただけたらと……」
「……」
俺たちは顔を見合わせる。
「いや俺たち、結構危ないよ? 半分くらいお尋ね者みたいなものだし」
俺達はリーベンの奴隷商から狙われていたことや、エルフと共にいる事でさらに目を付けられることを説明した。
フラフィーはそれを聞くと目を輝かせていた。
「やった! じゃあキミヒトさん達の情報を売らないので私も一緒に行動させてください! っていたいいたいいたい!」
こいつしたたかすぎだろ何言ってんだ。強めにアイアンクローをかけて体を持ち上げる。
「いやすいませんほんとごめんなさい言ってみたかっただけなんです嘘です冗談です助けてくださいほんとすいませんごめんなさい」
バタバタと暴れるので離してやる。
「ごめんなさい……なんか友達が出来たみたいで嬉しくて……」
「友達っていうか、ペットじゃないかしら?」
「巨乳死すべし」
「お前らな……」
なんだかんだで仲良くなれる気がしている気がしなくもない。俺はもともと冒険者になりたくてなったわけじゃないし、フラフィーがやれることが多いなら問題ないっちゃない。
「しゃあない、悪い奴じゃないみたいだし二人はこいつ連れて行ってもいいか?」
「うん、別にいいよ」
「身代わりにはちょうどよさそう」
「ひどい!?」
というわけで俺たちに新しい仲間が増えた。
その後は何事もなくケイブロットに到着した。町並みは王都よりも小規模かと思ったがもしかしたら王都よりもでかいかもしれない。ダンジョンで栄えている街は伊達じゃないってことかな。
物価に関しても安めだったりなんでもお店があるような感じだ。武器屋や防具屋といった冒険者御用達の店だけじゃなく鍛冶屋もあった。どうやらダンジョンからとれるアイテムを加工してくれるところらしい。
「先にこっちに来てたらひきこもることもなかったんじゃなかろうか」
俺がそう思うくらいにはこっちは異世界だった。これからダンジョンに潜る冒険者たちは奇抜な恰好をしているし、まさにゲームで見かけるような装備もたくさんしている。
王都では落ち着いた格好も多く、あまりゲームっぽい装備をした人が少なかったけど理由でもあるんだろうか?
「ちょっとキミヒト、とりあえず探索者登録するんでしょ?」
「ああ、悪い悪い。なんだか活気があって驚いていたんだ」
「そうですか? 王都も似たようなものだと思いますけど」
フラフィーからしたら似たようなものらしい。結構にぎわいかたというか人々から感じる雰囲気が違う気がするけどそういうもんなのかな。
「探索者ギルドはあそこか」
ケイブロットではダンジョンに潜るには冒険者登録は関係なく、探索者としての登録をする必要がある。冒険者ギルドと同じく探索者ギルドがあり、システムはかなり似通っている。
冒険者ギルドも存在はしているがこの街ではあまり需要はない。遠くの街に行くときとかの護衛依頼だったり、対人関係の依頼が主な仕事になっていた。
それ以外の物資の調達はほとんどがダンジョンで済んでしまうらしく、分けることになったらしい。肉も野菜も金属も植物も何もかもがダンジョンでドロップするためこの街は栄え続けたらしい。
つまりこの街で生活する人たちなら冒険者をやるよりもダンジョン探索してお金を稼いだ方が効率も良いし実入りも良いと言うことだ。
「こんにちは、ダンジョンに入りたいのですが」
「いらっしゃいませ。ケイブロットは初めてですか? それでしたらこちらにご記入ください」
探索者ギルドで受付をしている人に言われたままに書類に必要事項を書いていく。記入欄は名前や職業、あるならば冒険者ランクと簡素なものだった。スキルを書く必要がないのは少し驚いた。
そうした俺の表情を見て取ったのか受付嬢が話しかけてくる。
「スキルを書く欄がないのが気になりますか? 実は最初の方はあったみたいですが、隠す人が多かったので取りやめになったそうです」
「なるほど、それなら嘘を書く人も多かったとか?」
「ええそうです。嘘を書いた場合は罰則を設ける程度で済むんですが、隠した場合はわかりませんからね。自分の情報をさらして死ぬのはこちらとしても運営にかかわりますからね。なのでパーティを組む際には全て自己責任になっています」
確かにスキルとかばれてたらだまし討ちもやりたい放題か。悪いこと考える人がいなければ合う職業同士の人たちをマッチングさせたりとか出来るだろうし、メリットも多かっただろうな。でもデメリットがありすぎて消したと。
相変わらずこの世界は殺伐としているなと改めて感じるわ。
というわけで職業は無難に俺は剣士、クロエはヒーラー、イリスは魔法使いにした。
「フラフィーは何が出来るんだ?」
「私は一応タンクです……。盾すら今はありませんが」
この見た目で盾か。すごくバランス良いじゃんこのパーティ。
「はい、受領いたしました。ではお一人ずつこちらの水晶に触れてください」
異世界お決まりの能力値測定みたいなものが出てきた。
「この水晶はスキル込みで人の能力を判断することが出来ます。ダンジョンで偶然見つかったアイテムです。これがあればスキルを書く必要もないと言うことで記入が省かれたという経緯もあります」
なるほど、確かにこれならスキルを隠したうえで能力をちゃんと把握出来るな。ギルドとしては登録した人の能力をちゃんと把握していないっていうのは問題にもなるし便利だな。
というわけで順番に受けていくが最初から問題が起こっていた
「ええ……イリスさん、このステータスは」
「守秘義務」
「ええと……クロエさんも……」
「言う必要はないわね」
どうやら非常に高いステータスらしい。うすうすわかってはいたけどやっぱりそうだったんだなと受付嬢の反応でわかった。クロエは能力の分を加味している可能性が高いか?
「まさかフラフィーさんも……あ、普通でよかったです」
「全然良くないです……」
イリスクロエとやばいステータスが続いたからフラフィーも警戒されていたがいたって普通のステータスだった。うん、オオカミに囲まれて逃げてたくらいだからね。そりゃ普通だよね。
「最後は……えと……なんですかこれ?」
「普通です」
「普通じゃありませんよ! Bランクって嘘じゃないんですか!? どう見てもA級超えてSランクですよこんなの! 冒険者ギルドでも仕事してたことありますけどこんな数値見たことないですって!」
怒られてしまった。いやまぁ正直勇者ですので。伊達に修業させてもらっていませんので。スキルも神様から直接もらったものだし自分でも性能高いと思うけどそんなにか……?
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