第14話 好きだよ、そういうのも

 二人との距離も縮まって少し嬉しい気持ちになった俺たちは宿に戻った。出発の準備のためにやることはもう何もない。しかしどうしても言っておかなければならないことはあった。


「今更で悪いんだけど、二人は俺の旅についてきてくれるのか?」


 俺が意を決して二人に尋ねるとすごい間の抜けた顔をされてしまった。いやそうだよな普通に考えて今言うことじゃないよな。


「ええと、うん、そうね。むしろ私たちの方から聞くわ。私たちと一緒で本当にいいの? 言っておくけどマジで狙われてるからね?」


「キミヒトが嫌なら、私たちは……」


 クロエ達はさっきの話含めて自分たちが危険な状況にいることを理解している。リーベンの奴隷商から逃げ出したこともそうだし、元勇者からもう一度何かしらあるかもしれない。


 そんな状況を俺が助けて無理やりひっぱりまわしているような状況だ。逃げる隙なんて与えないようにギルド行ったり人数分のアイテム買ったり装備買ったりもした。全部そろえてしまえば一緒に来てくれるだろうという打算もあった。


 本当に嫌なら最初の脱獄時点で離れ離れになっているはずだし、あんな話も聞かせなかっただろう。それに俺の事を気遣ってくれることからも一緒にいてくれそうだ。打算ばっかりの俺よりも二人はちゃんと考えているのかもしれない。


「俺としては可愛い女の子と旅が出来るってだけで嬉しいよ。それに二人とも俺よりもはるかに強いし」


「いやあんたね、私の魅了防いだりとか普通じゃないからね? 盗賊のお頭も倒すくらい実力あるし私たちの助けなんていらないくらい強いじゃない」


「いいや、俺の能力はあんまり使い勝手はよくないんだよ。場合によってはかなり使えるのは確かだけど、勇者パーティから外されたくらいだからな」


 俺の能力は攻撃に関してはかなり歪なものになっている。守りに関してはほとんど鉄壁みたいなもんだけど一人じゃどうしようもないことが多い。特に魔物に関しては武器が通らなかったらそれだけでお手上げだ。止まっている相手ならどんなに硬くても倒す自信はあるが。


「キミヒトは、私たちが必要?」


 俺が折れなさそうなところを見るとイリスが聞いてきた。自分たちに引け目を感じていながらも、それでも一緒にいたいという気持ちが伝わってくる。二人で旅をしていると言っても結構疲れていたのかもしれない。


 俺がいればその負担を軽減してあげられるかもしれないと、そんな風に思えた。


「ああ、俺にはクロエとイリスが必要だ」


 俺が二人をまっすぐ見つめて伝えると、クロエは驚いたような顔をしてから力の抜けた顔になった。イリスは嬉しそうに俺に抱き着いてきた。天国はここにあった。


「そういってもらえると嬉しいわ。ありがとう、これからよろしくね、キミヒト」


「キミヒト、私たちの事、よろしくお願い」


「任せておけ。俺はお前たちを裏切るようなことは絶対にしない」


 こうして俺たちはようやく、正式にパーティメンバーになったのだった。





「で……なんでこうなったわけ?」


「え? いやほらやっぱ挨拶って大事じゃん?」


 あの後普通に寝て早朝、孤児院にやってきていた。孤児院の活動は朝早く、院長先生にだけは挨拶してから行こうと思っていたら子どもたちも全員起きていた。俺は良い人で通っているようなので子どもたちにたかられた。


「ちょ、待って待って並んでほらって引っ張らないで!?」


 お菓子も毎回持ってきていたのでお菓子目当てだろうがそれでも嬉しいものは嬉しい。しかし今回は院長先生に会いに来たのとあんまり時間もなかったためクロエとお菓子配りを分担していた。イリスは魔法で作ったシャボン玉を飛ばして子どもたちに大人気だった。ロリと幼児の組み合わせ最高すぎない?


「キミヒト君、おはようございます。いつも子どもたちにありがとう」


「いえ、やりたいからしているだけですので気にしないでください。それと今から遠出するので挨拶にと思って」


 院長先生は俺とは違ってマジの良い人だ。子どもたちを養いながら自分の仕事もこなすなんて俺には真似できない。ただ、そこに物資を提供したり脅威を取り除くお手伝いくらいが関の山だ。


 後ろでは子どもにたかられまくって悪戦苦闘しているクロエがいる。あんまり表情豊かではなかったクロエだが、子どもたちの純真すぎる行動に困惑した表情をしていた。イリスはもみくちゃにされているクロエとは違い要領よく子どもたちと遊んでいた。


「そうでしたか……。子どもたちも寂しがります。どうか、無事に過ごしてください」


 冒険者が街を後にすることは珍しいことでもない。今までたくさんの人に支えられて孤児院を経営してきた話も聞いた。そういった人たちもこうやって次の街へ行ったりしたのだろう。寂しげな表情とその行動は堂に入っていた。


 その後ろでは子どもたちに倒されてお菓子を強奪されていくクロエが見えてとても微笑ましい気持ちになると同時に、若干エロい妄想を始めてしまいそうな気持になった。


「ええ、俺も子どもたちからたくさんの元気をもらいました。先生もどうかお気をつけて」


 院長先生は子どもたちと一緒にお見送りをしてくれた。旅立ちの時に送り出してくれる人たちがいるってとても心が穏やかになる。正直これだけでも仲良くしててよかったと思える気がする。


 ちなみにクロエは子どもたちにたかられまくってボロボロだった。


 そして俺たちは街を出て森に向かうことにした。


 しばらくたったころクロエと違い元気なイリスが俺に聞いてきた。


「キミヒト、変な人たちはいいの?」


「ああ、あいつらか」


 俺は昨日、貴族と出会い早朝に会う約束をしていた。しかし思いとどまってそのまま旅に出ることにした。理由は簡単だった。


「いまいち信用しきれないってこともあったけど面倒事に巻き込まれそうな予感があったんだよね」


「あんたね……」


 子どもたちにめちゃくちゃにされたクロエは疲れたようにつぶやいた。


「そうだなぁ、理由をしっかり言うなら信用できたことかな」


「どういうこと?」


「あんなタイミングで出てきたら普通は疑う。それなのに俺は警戒し続けることが出来なかったんだ。三文芝居かのようなやりとりは素だったとしても、どうにも違和感がぬぐえなかった」


 そう、ムバシェと呼ばれる男が来てからはあの二人に対する警戒心が確実に一気に下がった。モンスターみたいな見た目の人間とイケメンの教育係。警戒心が下がる理由なんてどこにも見当たらないのに何故か信用させられていた。


「俺にはどうにもあの二人を信用しすぎている自分を信用できなかったんだ。なんていうか、こうもやもやした気持ちにさせられたって言うか」


 その後わざと警戒させるようなことを言ってきたのも、少し手の内をさらすためにわざと言っていたんじゃないかと勘繰ってしまっていた。最初に警戒できなかったことに徐々に違和感を持ち始めたから、逃げ出したわけだ。


「私は別に最初から興味なかったからいいわ。任せるって言ったし気にしても仕方ないし」


「でもわかったってキミヒト言ってなかった?」


「あの時はそういったけど、もし危険なことになったら俺じゃ二人を守りきれないからな。つまりわかったけど良いとは言っていない。理解したけど約束はしてないっていう言葉回しになるわけだな」


「キミヒト、クズ野郎」


「いきなり罵倒された!? いや何も間違いじゃないけどさ!」


 俺を罵倒したイリスはそう言いながらも良い笑顔だった。楽しそうだからきっと本気で言ったわけじゃあないんだろう。たぶん。あとロリに罵倒されるのは思ったよりも心地いいかもしれない。好きだよ、そういうのも。


 ちなみにもらった宝石は宿屋を出る前に主人に渡してきた。俺を訪ねてくる貴族か使いが来たら返してもらうように。流石にそのままパクっていっても何のメリットもないからな。売るのは足が付いたり何か問題があると面倒だったのでその選択も無し。


「というわけだから、気にせず冒険を楽しもうじゃないか」


 二人も気にしていないみたいだし俺も気にしないことにして森の中を進んで行った。




 その頃宿屋ではムバシェがキミヒトの予想通り宿屋を訪れていた。キミヒトは場所を教えていなかったが、宝石が発信機代わりとなり常に場所を特定していた。


「僕の魔法にかからなかったのか……強力なレジスト装備でも持ってるのかな?」


 宝石を眺めていたムバシェはそうつぶやいて宝石を握りつぶした。

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