第13話 黙ってたけどそう
武器屋でかなり安く装備を整えた俺たちの準備はほとんど終わったと言って良い。準備が終わったら結構日も暮れてきていたので食事をとることにする。というか二人とも捕まってた間に食事とかしてたんだろうか。
もしめちゃくちゃお腹すかせてたら本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。二人とも平然とついてきてくれるから完全に頭から抜けてたすまん。
「二人ともごめんな、ご飯食べに行こう」
「え、なんで謝られたの? でもうん、たしかにお腹すいてきたかも」
「キミヒト、私たち捕まってるときもちゃんとご飯食べたから気にしなくていい。それにそんな長時間捕まってたわけでもない」
「いや、それでも今まで気づかなかったからな。まじですまん。それじゃいこうか」
というかこの二人はいつから捕まっていたんだろうか。リーベンの奴隷商人に捕まってからベイルに捕まったって事だから、それなりに時間が経っている気がする。リーベンは奴隷をかなりひどい扱いするって言ってたけどこの二人を見るとダメージを負っている感じもしない。
この二人ならあれか、クロエの洗脳魔法みたいなやつで暴力とかは避けられるのか? 捕まった経緯とかそのうち話してくれるといいな。
そんな感じで歩いているとイリスが不意に声をかけてきた。
「キミヒト、あれ食べたい」
くいくいと袖を引っ張られる感覚、すごく好き。イリスが指差すのは肉を重ねて棒に巻きつけて焼いた食べ物だった。前の世界で言うケバブみたいな感じの食べ物だ。
「私はあれも食べてみたいわ」
クロエが指差したのは麺に肉とか野菜とか適当にぶっこんだ炒めたものだった。焼きそばに酷似していて味についてはソースとか醤油に変わるものがないため、塩と胡椒で味付けをしたさっぱり風味のものだ。
「酒場とか行こうかと思ってたけど、あれにするか」
もしかしたら俺がエルフと一緒にいることで何か言われるかもって心配したのかもしれない。あんまり自己主張しないイリスが言い出したのはその辺の配慮なのかな。普通にお腹すいただけかもしれないけど。
どっちの屋台も知り合いなので、可愛い二人を連れていることもあって少し多めにサービスしてくれた。一人の時は普通に雑談とかすることもあるけどサービスはなかったな。やっぱり可愛いは正義だようん。
適当な場所で三人で食べることにする。ケバブも焼きそばも薄っぺらいナンみたいなもので包んでいるためゴミは出ない。というか異世界の屋台で紙皿とか使ってたら科学の進歩にびっくりするわ。魔法があるからそのくらい簡単に出来そうな気もするけど。
やっぱり魔法が便利すぎてそっちの開発に忙しいんだろうか。科学技術を発展させるのは今が不便っていう考えが必要だからな。魔法があれば基本的に必要なものは全部魔法で済ませられるのが大きすぎる。
「おいしい。やっぱり食べ物は料理するに限る」
「そうね……エルフたちは素材そのままだものね」
「エルフって料理しないのか?」
二人の会話から食事事情にすこし興味を持つ。前の世界でエルフといえば自然と共に暮らすのが一般的だった。そう考えると料理という概念が焼くとか煮るだけとかなのか。
「ええそうよ。エルフたちは素材を生で食べるわ。肉なんて食べることもないわ」
「へー、じゃあ二人はどうして料理を知ったんだ?」
「昔ね、人間が料理を振る舞ってくれたことがあったのよ。里に迷い込んできて警戒されていたけど、その料理のおかげで仲良くなれたの」
食べながらクロエは昔話を始めた。
「エルフの里の食事が合わなかったもあったんだと思う。でもその男はエルフの食事を改善していったわ。最初は野菜を炒めたり、持っていた調味料を使っただけでこんなにおいしい食事に変わるのかってみんな驚いてたの」
「みんな食事に興味をもってなかったからねー」
エルフは自然を愛するあまりの山菜生食。調味料なし。焼く煮る無し。そら食欲もでなくなるわな。それが普通だったなら調味料という存在はかなり大きかったんじゃなかろうか。
「でもそんなある日、男は毒を盛ったわ」
……いきなりヘビーですね。
「完全に男の料理にやられていた里のみんなはその毒にやられて昏睡状態になっちゃったの。そしてみんな捕まってどこかに連れて行かれちゃった。元からそういう計画だったんでしょうね」
エルフは見た目が良い人たちが多いと言うのはこの世界でもそうだったはずだ。人間はエルフを毛嫌いしている者が多いけど、エルフはほぼ無関心らしい。エルフの里には様々な富があると言う噂もあって、それを狙って人間が戦争をしかけたと歴史にはあった。
でも人間は少数のエルフに魔法で滅ぼされてしまってから恨むようになったのだとか。完全に逆恨みにしか見えない歴史だったけど、国が二つくらい滅ぼされたからそこまででもないか?意外と好戦的な種族なのかもしれない。
そんなエルフを捕まえて憂さを晴らそうとする人間たちもいる。もう過去の話でその時を知っている人たちはいなくても、歴史だからと鵜呑みにする人間も多いからな。
圧倒的に戦力で負けているなら毒を使ったりするのが効果的だったってわけか。
「でも私たちは……ある事情で食べなかったから逃げられたわ」
二人はとつとつとその時の状況を俺に話してくれた。里の住人は全員連れて行かれ、さらに村は焼かれてしまったらしい。二人はなんとか逃げ出すことに成功し、旅をしながら生きていた。
「でも少し前、変な恰好をした女が現れたの。そうね、雰囲気はキミヒトに似ていたかもしれない」
「そいつに私の魔法全部効かなかった。私が捕まって人質になったからお姉ちゃんも何もできなかった」
イリスは申し訳なさそうにうなだれる。そんなイリスの手を握りながらクロエは励ましていた。そんな時に俺には思い当たることがあった。
「俺の雰囲気に似ていたか。黒い髪で長さは肩口くらいのやつじゃなかったか?」
「知ってるの?」
ああ、そうか。召喚された勇者の一人は悪い方向に走ってしまったか。
「知っているというか、元同僚と言ったところかな。これを話すとかなり長くなるからまたあとで教えるけど、この街から追放されたお尋ね者だと思ってもらっていい」
勇者の中には修業についていけず途中で自分から逃げ出した連中もいる。自分の能力を過信しすぎるあまり修業をおろそかにしたやつらだ。王宮の人たちは気にしていない様子だったが、そいつらは全てしっかりと指名手配していた。
「でも、ギルドにそんな人載ってなかったよ?」
「よくそんなとこまで見てたな」
「目的の一つ。やられたらやりかえす。旅の流儀」
なるほど、やり返したかったからギルドに行きたかったのか。少し含みのある言い方してたのはそういうことだったのね。
「だから私たちはキミヒトを助ける。命救われた、だから命預ける」
「そんな気負わなくていいって。俺が助けたかっただけなんだから。それでギルドに手配されていない理由って言うのがあってな」
否定しているときりがなさそうなので話を戻して進めることにする。イリスは何も考えていないようで結構頑固なところとか負けず嫌いなところがあるのがわかったな。
「その俺の元同僚は勇者なんだ。そして他の勇者たちにはそいつらの討伐命令が下されている」
「え……?」
「ええと、つまりキミヒトって勇者なわけ?」
「うん、黙ってたけどそう」
二人は驚いているようだったけど納得がいったようだった。というか鍛冶屋とかで勇者うんぬんの話してたけど冗談だと思われてたのかな。
「だから変な技を使えたのね。鉄格子壊したり私の魅了をレジストしたりわけわかんないと思ってたけどそれなら納得。ちなみに鍛冶屋とのやりとりは冒険者流の冗談だと思ってたわ」
顔に出てたか。
「そういうことだから、そいつはすぐ捕まるよ。今王宮で訓練してる勇者たちはガチの化け物しかいないしもうすぐ活動開始すると思うから」
王宮が求めてるレベルの戦闘力を持った勇者たちは、俺たちが王宮を後にしてからもずっと鍛えられていたはずだ。途中から会うことがなくなるほどにハードな訓練をしていると説明を受けていた。
王宮としては勇者がしでかした悪事を何とかしたいけど、ギルドに頼むと世界的に知れ渡るからなんとか隠したい気持ちもあったんだろう。だからガチの勇者が出撃したら最初のターゲットは間違いなくそいつになるはずだ。
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