第9話 そうか良かった
「私が知ってるのは人じゃないことくらい。人形だっていうのも人じゃないならそれ以外にないでしょう?」
たしかにそうだな。人型で人じゃないって分かってるなら人形以外に例えようがないか。それにしてもわかってる風だったが言いたくないってやつだろうか。
「そうか、それならまあいい。この人形についてはこっちで預かる。それで俺が呼び出されたわけだが、実はベイルについての情報が昨日更新されてな、それの確認がてらって事だ」
クエストの危険度というかランクが上がっていたのはそのせいか。ちょっとした更新情報ならそこまで上がったりはしないがこれは面倒ごとの予感しかしない。俺は何も考えたくないから簡単そうなやつを選んだというのにまずいのに手を付けてしまったかもしれない。
というか、このロリータ関連じゃないだろうか。
「隣の街のリーベンってとこから連絡が来てな、どうやら新しい奴隷を盗賊に連れ去られたらしい。二人の銀髪の子どもだそうだが、心当たりはあるか?」
うん、だよね。
「質問に質問を返すようで悪いんだがギルドマスター、その連れ去った盗賊ってのがベイルなのか?」
このギルドマスターは友好的な関係を築いているとは言え街と街の問題について何かあった場合、俺の味方になってくれるとは考えにくいだろう。立場のある人間とは情だけで動くことは出来ないだろうし。
お国柄としてかなり平和な場所だし奴隷制度に対しても懐疑的で、奴隷を不当に扱った場合罰せられるくらいには色々と整っている。だから異世界を満喫したいと出ていった元勇者が多いわけだが。
「ああ、少し前に襲われたって話だ。どこに行こうとしていたのかは知らないがうちの国の近くを通った時にやられたから連絡をよこしたらしい。かなり高い奴隷だったらしいから是が非でも取り返したいと言って来ててな、奴隷を取り返した場合の報酬額が跳ね上がっている」
そういってギルドマスターが提示した額は通常の三倍くらいする値段だった。
「で、知っているのか?」
ギルドマスターがこっちの目をじっと見てくる。結構なプレッシャーを感じるが俺はポーカーフェイスを決め込む。横にいるクロエとイリスはギルドマスターから見えない様に俺の服を強く握っている。
「いや知らないですね」
俺がベイルを倒したことを知っててもどうやって倒したかまではわからない。俺の情報を詳しく知るには、俺達を鍛えた王国の兵士に聞くしかないし、兵士たちは国家機密となる情報を漏らす事はない。
つまり俺がベイルを倒したという情報があっても、巣の中を完全に探索していないと言えば信じるしかないだろう。
「そうか良かった」
「良かった?」
「ああ、リーベンの奴隷商は嫌な奴でな。特に若い奴隷を高値で売りさばいている。今回のもそうだ、遠い国に運んで売りさばいて利益をもらおうって考えなのさあいつらは。人さらいと何も変わらん」
……なんだ。良い人じゃんギルドマスター。
「それにキミヒト、お前がお金に目がくらむような奴じゃなかったのもよかったよ」
「というと?」
「実はロゼッタがな、『キミヒトさんが銀髪の幼女連れてるって話が聴こえてきました。たぶん例の奴隷です。でもキミヒトさんならかばってくれると思うので正直に話した方が後々面倒がないですよ』と言っていたんだ。その通りだったな」
ああ最初からばれてたのね。確かにいきなり奴隷商とかが襲ってきて返せって言われても対応に困るからね。最初から知っておけば全力でかばえるよね。
そしてロゼッタさんの俺に対する評価が高くて普通に嬉しいわ。
「ていうかロゼッタさんに聞いていたのならお金のくだりはいらなかったのでは……」
「それはほら、冒険者なんてお金目当てになるもんだろ? 何年ギルドマスターやってると思ってるんだ。試すような真似して悪かったな」
「いいですけど。それでその話を聞いたからには俺は何をすればいいって事になるんですかね」
普通に考えて国絡みの問題がただで済むわけがない。ギルドマスターも俺もこの二人を助けると決めてしまった以上は行く気がないにしてもリーベンに行くのはかなり危ない。そしてリーベンの連中がこの街に来てクロエとイリスを見てしまったら問題になる可能性がある。
ああ、何も考えたくなかったのに嫌な予感しかしない。
「察しが良くて助かる。国も俺もお前をかばう気だが強行手段に出られた場合どうしても守るものがあるから旅にでてもらいたい。それにこの国に元勇者でクエストしてないのにランクの高い冒険者っていうのは悪目立ちするからな……」
そうか、まあそうだよな。街の人たちはあんまり気にしてないけど、冒険者からしたらいきなり高ランクで仕事出来るってだけで妬みの対象になるもんな。かといって冒険者ランク隠すのもこの街だと顔が知られ過ぎてる。
「わかりました。どこに行けばいいとかありますか?」
「すまないな。場所の候補はいくつかあるが、何がしたい?」
ギルドマスターはそう言っていくつか街の候補を教えてくれた。その中でもどうせ平和でいられないならよくあるダンジョン攻略でもやるかと思いその街を選んだ。
「その街ケイブロットは冒険者としてはかなり住みやすいはずだ。ギルドとはまた違った施設もあるがシステムは大体同じだ。力になれなくて本当にすまん」
「良いですよ。そういうつもりで助けましたし。目的があるっていうのも元勇者として活動してるって感じにもなります」
正直言えば寂しくもある。滞在期間は長くはないしあまり多くの想い出はないが知り合いも多くできた。
それでも俺は一向に構わん。
だってそもそもの目的は女の子といちゃいちゃしたいっていうものだったんだから。
二人と一緒ならどこに行ってももう問題ない!
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