第4話 無様
やっと出られたと思ったら外は雨で空は暗い。
視線の先には私の傘を使っている男子と女子。どうしてこんな雨の中行かなきゃいけないんだ。私は雨の中を喜ぶ子供でもない。
握らされた何枚かの千円札と一緒に、雨の中近くのコンビニへ人数分の傘と飲み物と弁当を買わされに走らされ、傷と寒さでヘトヘトになりながら溜まり場まで向かって諸々を届けた。
その後何か買わされたわけではないけれど、勝手に帰ることは許されなくて、ただ話している奴らから解放されてやっと帰れると思って携帯の時間を見るとデジタルで20:12と表示されているのを見て、ここから歩いても最後のバスには乗れないことに気付き、諦めて歩きで四〇分くらいかかる道を歩いて帰ることにした。
それにボロボロの高校生がバスに乗ってきたら驚くだろうし、乗らなくて正解かもしれない。
折れて使い物にならなくなった折り畳み傘を通り道のゴミ捨て場に置いてきて、せめて野良猫達の雨宿りできる場所として提供してきた。
今日がたまたま金曜日だったから制服がずぶ濡れでも良かった。水たまりに反射して藍色の空と一緒に自分の姿が見えてなんて無様で汚いんだろうと思った。こんなのそこらの猫たちと同レベルだ。
こんな雨の中傘無しで下を向いて歩いてるのを、すれ違った通行人に二度見されてとても辛い。だが傘が無いものは仕方ない。
辛いからできるだけ人が通らない道を歩こうと思って入り組んだ道に入ろうとしたら急に目の前に壁ができた。
こんな所にあった記憶にないけれど、フラフラし過ぎて電柱にでもぶつかりそうになったかなと思い、雨で見づらかった目を制服で擦ってちゃんと見てみると、それはコンクリートではなく布に見えなくもない。
気になって上を向いてみると、街灯で微かに見える白くて長い髪、額から生えてるツノらしき物、コンクリートの壁かと思ったら、まるでタイムスリップしたみたいなちゃんとした着物で、こんな雨の日に何着てるんだと内心思う。
そこで何で人の顔をまじまじと見てるんだ失礼だと思い、ずっと立ち止まって通路を塞いでるのも兼ねて謝ろうと後ろへ下がったらぬかるんだ靴が滑って馬鹿みたいに後ろへ倒れた。
倒れて行く中スローモーションみたいにゆっくり倒れていく感覚で目の前の人と目が合った。その人の目は白目の部分がなくて黒一色、何より瞳孔が真っ赤でこの人ほど赤いのは初めて見た。もしかしたら人間じゃなくて幽霊かもしれないし、疲れ気味の痛い不審者かもしれない。
そして、無表情だったのに私を見て驚いた顔をしていた。こんな顔されるの嫌だから奥の道に行こうと思ったのに。
やってくる痛みに耐えようと目を瞑ろうとしたら顔というか頬に痛みがやってきて、見ると片手で私の頬をぎゅっと掴んでいた。
殴られた箇所をちょうど掴んでいて、すごく痛い。呻きながらジタバタすると顔が近くて、鼻と鼻が触れ合うくらい近く、じっと私の目を見ていた。
「ちょっ……!」
「やっと」男はにやりと笑いながら呟いた。
「やっと見つけた」
と言って背筋が凍りそうな気味が悪い笑みで私はを見下ろした。とてもじゃないけど普通の人間だとは思えないし、怪物だと言っても信じられるくらいの見た目をしているこの人の手を必死に振り払って尻から地面にぶつかったが、そんな痛みよりも命の危機を感じる。
「……」
尻餅をついた体勢から自分じゃ思いつかないくらいの速さできた道を戻って逃げる。今はとにかく逃げて、どこか身を隠せる場所にと、あまりにも冷静な自分の脳みそに従って入り組んだ道に飛び込んだ。
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