序章 全てが終わった日
序章 全てが終わった日
「なるほど、お話は分かりました。……最後にお会いできて嬉しかったです、『赤き魔法使い』ディートリヒ。では、いただきます」
生家より拉致されてきたばかりのメリールウ・アセンブルは、ペコリと頭を下げて不老不死の秘薬(仮)を飲み干した。豪奢なベッドの上に、崩れ落ちた彼女の長いハニーブロンドの髪が広がっていく。
「おい、聞け小娘、最後などではないわ! 理論上、目覚めるまでに最低でも数十年はかかるだろうが、私たちは必ずまた会う!! 最高の術者が最高の実験体を使えば、最高の結果が出るのは当然だろうが!!」
メリールウより濃い金髪を振り乱し、自慢の美貌を歪めて何やらゴチャゴチャとまくし立てる声は一応聞こえてはいた。しかしながら、彼には悪いが他の実験体同様、絶対死んだと思っていた。それでいいのだと、思っていた。
「さよなら、お母様。……さよなら、お父様」
これで満足してもらえますか?
アキレスク歴千六百年、三月の最初の光精の日の話である。
※
「あなたの父親のことを格別に憎んではいませんよ、ヴィクトール。私とは違う、温もりを持った優しい人だった。違う出会い方をしていれば、本当に好きになっていたかもしれない」
父の葬儀が終わった直後、本当に憎しみのない、憎しみすらない理性の塊のような声で母は言った。
「ですが、私にもプライドがある。ええ、分かっています、悪いのはあなたたちサンロード一族ではなく、逆恨みの呪いを残したディートリヒという魔法使い」
冷静な声がわずかに揺れる。ヴィクトールの期待とは異なり、それは夫や息子への情ゆえではなかった。
「だけど、呪いによる結婚も出産も私の意思ではなかった。ここでの暮らしは、今となっては悪い夢としか思えないの。さよなら」
ぎこちなく息子の頭を撫で、彼女は去った。振り返ることはなかった。風の噂に、別の男性と再婚したと聞くまでに数年もかからなかった。
スーテラ歴百十二年、十一月の三度目の月精の日の話である。
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