二月の雨と、三月の間。

由良

第1話 日常

この世界には魔法が使える者と使えた者がいる。元は皆平等であった。しかし時が経つにつれ時代は変わり、魔法を信じる者だけが使える世界となる。いや、少し言い方を変えよう。魔法を信じきれる者だけが使える世界、と。


空に文字が浮かぶ。俺達は会話をしていた。家が隣で部屋も向かい合わせで、小さい頃から一緒に遊んでた。いわゆる幼馴染みってやつ。彼の家は両親が共働きで家には大体彼1人だった。窓から身を乗り出して、向こうの窓から出てくる文字を読む。

「の・ど・か・わ・い・た…」

「あー、水?待ってろ。」

窓の向こうの幼馴染みは今、風邪を引いてる。馬鹿なのに…。“馬鹿は風邪引かない”なんて絶対嘘だ。階段を降りてリビングに向かう。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコップに注いだ。そして冷蔵庫に戻そうとして止める。片手にミネラルウォーターを抱え、片手にコップを持ち急いで階段を駆け上がった。

「しゅんー!みずー!」

そう言うと窓がコップ1つ入るくらいの大きさに開いて俺の手にあったコップが窓の奧へ吸い込まれて行く。

「おかわりあるけど…」

そう言うと空になったコップがすぅっと戻ってきた。窓から文字もふわふわ揺れながら飛び出してくる。

「お・か・わ・り…、りょーかい」

文字は俺が読んだ途端くるくる回って、パアっと消えた。

もう一回コップに水を注ぐ。冷蔵庫に戻さなくて正解だった。

「いいよ。」

そう言うと窓のところに置いたコップが浮いて、また瞬(しゅん)の元へ行く。

「まだいる?」

空のコップが返ってきてからそう聞くと、『もう大丈夫』って返ってきた。俺の家では基本魔法禁止だ。だからコイツみたいにむやみに魔法は使えない。外では何してもいいけど、家の中ではダメってルールになってる。めんどくせぇって思いながらも、ちゃんと自分の足で階段を降りて冷蔵庫にミネラルウォーターを返しに行った。リビングから出てきた俺を婆ちゃんが呼び止める。

「瞬ちゃん、まだ熱あるのかねぇ」

「あるんじゃねーの。頭とか喉痛ぇって言ってたし」

「そうかい。あ、喉が痛いのなら、のど飴がそこの棚にあるよ」

「どこ?この棚ー?」

「そうそう。そこの右から2番目の引き出し。」

婆ちゃんが示した引き出しを開けると沢山飴が入ってた。その中からのど飴を探す。

「えー、と…」

ガチャガチャと飴を探ってた俺に婆ちゃんは言う。

「今人差し指で触れたやつ」

えっ?って思いながらも掴んで出す。手のひらを広げると花梨のど飴って書いてある小さな包みがあった。婆ちゃんはすごい。なぜなら婆ちゃんは今も、俺から少し離れた机の上でせっせと編み物をしている。だから俺の手が婆ちゃんから見えるはずがない。こんなことが日常茶飯事ある。こっそり魔法を使ってる訳ではない。てか、婆ちゃんは魔法使えないし。何で?って聞くといつも勘だよって言われる。婆ちゃんの勘は侮れない。飴を持って階段を上がる。窓を開けて、瞬!のど飴!って言うと飴が吸い込まれて代わりに『雨水(うすい)Thenk You!』って文字が浮かぶ。スペル違ぇし…。

「あー、婆ちゃんからだわ」

『婆ちゃんThenk You!って言っとけ』

いや、だからスペル違ぇし…。

「ハイハイ…あ、それとお前熱ある?」

『39度8…』

「寝ろ」

『…おやすみ』

「おやすみ」

やっと瞬が寝た。俺の部屋のタンスを漁る。マフラーを引っ張り出して階段を降りた。婆ちゃんと目が合って、瞬がお礼言ってたと伝えると嬉しそうに目を細めている。そんな婆ちゃんの前を通りすぎて玄関へと向かう。手に持ってたマフラーと、コートを羽織って外に出る。ちなみに今は冬。二月。マジで寒い。それでも外に出なくてはいけない。今日は本を返しに行く日なのだ。本が勝手に目的地へピゅーンって飛んで行けばいいのに、学校には結界のようなものが張られてる。不審者の侵入を妨げるためだ。だから例え本を飛ばしても見えない壁にぶつかって学校前の道路に投げ出されるのがオチだろう。仕方なく学校へ向かうため、傘に跨がる。空を飛んで行く人は多い。鞄に乗ってたり、俺みたいに傘に乗ってたり、箒に乗ってたり様々だ。絵本にあるみたいに、絨毯に乗ってるやつはいないけど。皆身近にあるものを飛ばす。だから乗ってるものによってその人の生活が少し分かったりもする。例えば斜め前にいる、マイバックを持ったおばさん。箒に乗ってるんだ。いつも玄関の掃除をしてから買い物に行く。だから箒なんだろう。そんなこと考えてると、おばさんは下降していく。スーパーに着いたみたいだ。ということは、あと10分くらいで学校に着く。空を飛ぶメリットは曲がり角がない。だからわざわざ遠回りする必要がなくなる。そして見通しが良い。だがデメリットもある。寒い。とにかく寒い。上に行くほど寒いからいつもより低めのとこを飛ぶ。マフラーを鼻まで覆って必死に寒さに耐えた。

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