ユングの娘2 仮面(ペルソナ)の心理 Jung's daughter vol.2

kasyグループ/金土豊

プロローグ

怪物と闘う者は、その過程で


自分自身も怪物になることがないよう、


気をつけねばならない。


深淵をのぞきこむ時、その深淵も


こちらを見つめているのだ。




―――フリードリッヒ・ニーチェ






その人物はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの


「魔笛」を聴いていた。


それはお気に入りのオペラ曲だった。




決して高くは無い収入から、購入した高級コンポは


素晴らしい音を奏でていた。




できればヘッドフォン越しでは無く、別途取り付けた


40ミリウーファーから直接聴いてみたい衝動に


時々かられる。




だがそういうわけにはいかなかった。


集合住宅でそんなことをすれば、


近所から苦情が出ることは明らかだ。


しかもこんな早朝からだったら、なおさらだ。




2時間半に及ぶ楽曲を聴き終えると、


ヘッドホンをはずして、傍らのサイドテーブルに置いた。




彼と彼女は、ゆったりとした動きで


黒い革張りのチェアから立ち上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る