セツコ先生と僕と…
Aska
拓也編
第1話
大学生の最後の夏休み前くらいに、そこそこの商社からの内定を貰い、受諾しようか迷っている折に、僕は松井先生の研究室に呼び出された。
松井助教は、テレビに出ている女優並の容姿で、こんな美しい人が大学教授などをやっているなど、信じられないような人だけれど、僕にどんな用事なのだろう。初めて授業で会った日から、気になってはいたのだけれど、実際に2人っきりで話すとなると、とても緊張する。
僕は意を決して、研究室のドアをノックした。
「どうぞ、いらっしゃい。」
入ると、授業でいつも見ていた、透き通るような白い肌の、赤メガネの、茶髪の、ロングヘアーの、黒いスーツの、先生が居た。
「金村拓也君ね。そこに座って。紅茶でいいかしら。」
僕は先生に言われるまま、席に座った。先生の香水の甘い香りがほのかに漂う。僕はその香りで、ますますどきどきしてしまった。
先生は、うふふと笑って、僕の顔を覗き込むなり、話を始めた。
「拓也くん、先日のテストの回答結果見事だったわ。君は正直私の研究室に来て貰いたいくらいの逸材なの。だけれども、拓也君は確か就職希望だったわよね?」
もし、僕に金銭的都合がつくのなら、迷わず松井先生の下で院生になりたいと思っただろう。
「はい。理由は特に経済的な理由が大きいですが、就職するという選択肢以外僕にはありません。お気持ちは嬉しいですが、大学院に進学するということは、難しいと思います。」
僕が大学に入る頃、父も母もこの世には居なかった。
だから、僕は大学を卒業した後は、働くという選択肢しか無い。
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