My Love Your Love. 6
天ノ宮の制服に着替えた恵は、ブラウニーの制服をロッカーに入れる。
もうこの制服を着ることはない。
「……さよなら、恍さん」
小さく呟き、奥の部屋からカウンターに出た。
みんながそこにたって待っていた。
「……チーちゃん、これ……」
英美は晶に押されるように前に出ると、赤い包装紙でくるまれた包みを差し出した。
「クリスマス、プレゼント」
「あ、ありがとう、英美さん」
つつみを受け取り、恵は英美の手を軽く握った。
「頑張ってね」
一言そういい、手を離した。
そして光達にも握手をしていった。
「光さん、頑張ってね」
「恵さんも……」
「聖美さん、いろいろありがとう」
「こっちこそ、チクリン」
「知見さん、ありがとう……」
「……チクリンさんも」
「晶さん、頑張って」
「う、うん。……恵」
「アイさん、いろいろとありがとう」
「…………恵さん………………さよなら」
一人一人しっかりと握手する。
手の温もり、温かな感覚、そして思いのこもった気持ち。
手を離すのが辛かった。
何をしているのだろうと自分に問いかけてしまう。
握手を終えたとき、手にはその感覚だけが残った。
最後に唯の前に立った。
彼女はニコニコして笑っていた。
「ゆ、唯さん……」
「別れがあるって事は、また出逢いがあるって事じゃん。……またね、チクリン」
「はい……」
哀しかった。
でもそれを口にしてもどうしようもなかった。
別れをすませると、恵は店内をぐるっと見渡した。
『PEACH BROWNIE』、素敵な少女達。
いろんな人達と会い、別れて、辛いこと楽しいこと、いろいろあったけど楽しかった。ここにこれて本当に良かった。心からそう思えた。
「恵さん」
その声に思わず顔を向けた。
奥の部屋から祐介が出てきた。
恵は目を合わすのを躊躇ったが、彼を見つめた。
「祐介くん、ありがとう」
恵は手を差し出した。
祐介はその手を軽く握った。
お互い見つめ合うものの言葉は交わさない。
二人の脳裏を様々な想い出が、浮かんでは消えていく。
彼の部屋でのあの事も……。
恵はその後、両親と共に店を出ていった。
店を出ていくとき最後に一言、
「…………さよなら」
と言葉を残した。
*
「人は子供という、もう一つの種を寄生させて生きる生物ね」
唯は寂しく呟いた。
晶は愛に抱きつきながら恵を見送る英美の姿を見て、自分も心の一部を持って行かれるような寂しさを感じていた。
光は、迷惑かけた分の思いを込めて、見えなくなるまで見送った。
聖美と知見はすぐに引っ込んでしまった祐介を追いかけ、奥の部屋に入った。
「祐介君、告白したの?」
知見の言葉に彼は背を向け、手首を振った。
「どうしてあの時言わなかったのよ! だいたい祐介がそんなんだからあの子は行っちゃったのよ!」
聖美の罵声も、今の彼にとっては何も意味のないものだった。
「……もういいよ、聖美さん」
「もういいって……何が! 好きなんでしょ、好きなら自分のものにしないの! 男でしょ、あんた」
思わず襟首掴んで殴りそうになる。
知見はそんな聖美を必至に止める。
「やめてよ、キーヨ」
「で、でも!」
「…………恵さんはものじゃない。恍でもないよ」
ポツリ呟いた言葉に、聖美は手を離した。
その時、自分の中にいた恍の偶像を恵に重ねていた自分に、聖美も気がついた。
恐らくみんな心のどこかで、意識しないところで恵を恍と重ねてしまう自分自身があったに違いない。
「あの子を行かせたのは私達みんなのせいね。私達の我が儘が、恍にただ似てただけの恵を大事にしなかった。それが……彼女に寂しい思いをさせてきたのね。馬鹿よ、私達……ほんとに……」
項垂れる聖美。
祐介を前に知見は、俯いてその場に立ちつくした。
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