Azure pinion. 1

 空の青さ、海の蒼さが、山を、大地を、辺りを碧く染めていく。

 私の心も染めていく。

 ブルーに青く、深く染めていく。


 空がまだ、高く高く手の届かないくらい高くにあった時。

 明日の風をうけて白き翼で羽ばたいていけると思った。

 強い雨に打たれても飛んでいけると感じていた。

 どこまでも行けると思っていた……。

 時に青く、赤く、紅く、

 そして黒に色を変えて、

 彩を移ろえて翼は空色に染まる。

『夜明けの街は空色に染まる海に似ている』とあの子は教えてくれた。

 数え切れない人の波間に私は飲まれていく。

 私の全てをどこか遠くへさらっていく。

 私がとけていく……。

 

 誰も本当の私を見てくれない。

 誰も本当の私を聞いてくれない。

 誰も本当の私を思ってくれない。

 誰も本当の私を知ろうとしない。

 誰も…………

 本当の私って誰?


 友達が思ってる私、

 パパやママの思っている私、

 私が思っている私。

 みんな違う、どれも違う本当の私。

 ……私って誰なんだろう?

 孤独の深さで染まった空色の翼は空の真ん中で迷子になっていた。



                    *



 秋晴れの空、朝寒な今日この頃。制服も合い服から冬服に替わり、街も冬支度に色を染めつつある。

 駅前近くにある小さなケーキクラブハウス、『PEACH BROWNIE』は最近特に客入りがよく、まだ仕事になれないブラウニー達にとってはお祭りのような忙しさだった。

 そこで唯は助っ人を用意した……。


「よっ、チクリン元気してたか?」

「元気そうね、恵さん」


 髪を真っ赤に染めた亜矢と、以前より少し綺麗になった美香がカウンターに顔を出した。

 紛れもなく、共に働いていた彼女達だった。


「……亜矢さん、美香さん久しぶりです。……元気そうで……」


 何かこみ上げてきてしまい、思わず目が潤んでしまう。

 何で泣くんだろう……嬉しいのに……。


「何、かしこまってんだか、この子は。たかだか一ヶ月とちょっと合わなかっただけじゃないか。何、涙ぐんでるんだよ」


 恵は亜矢に抱きしめながら笑われた。けどそれでも恵は嬉しかった。何故ってそれは……一緒に働いてきた仲間だから、優しい先輩達だから。


「亜矢ばっかりずるい! 私だって恵に会えるの楽しみにしてたんだから」


 美香は亜矢から恵を奪い、抱きしめた。

 見上げるとそこに美香の嬉しそうな顔があった。

 ウェーブしてる黒くて長い髪、口元は優しく微笑み、その瞳は潤んでいた。


「美香さん……綺麗ですね」

「ありがと。……少し背が伸びたんじゃない?」


 二人は姉妹みたいにみえた。

 亜矢は腕組みして少し美香に嫉妬した。

 晶と英美はその様子をただ呆然と見、愛は寂しそうにしていた。


「再会を楽しむのはこれくらいにして、仕事しよっか」

「は、はい」


 美香に促されるようにして恵はみんなに仕事の分担を言った。

 今日は英美がお茶作り。

 晶がカウンター内の仕事。

 美香と亜矢はそこでサポートしてもらい、愛と恵はオーダー運び。

 ブラウニー達は今日もせっせと働きはじめるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る