The apple of her eyes. 1
歩きながらため息を付く姿がショーウインドウに映る。
子供が無邪気に笑って通り過ぎていく。
まだ、夢が夢だった時代。
人混みの向こうに思い出すあの懐かしい日々。
あの頃は同じ鞄を背負って笑っていたね。
ふざけ合ったり、慰め合ったり、泣いたり笑ったり……。
涙で枕を濡らした時もあったよね。
哀しいこと、辛いこと、嫌なこと、たくさんあったよね。でも笑いあえたあの頃。
同じ空を仰いで、同じ空気を吸い込んで、瞳に映る君はいつも私を励ました。
夕凪のてろてろに流れていた時間の中、夢がまだ夢の時代。
どんな夢を見てたのかも、今は思い出せない。
今の虚言だらけで塗りたぐった夢は見たくない。
あの時いっしょにいた瞳達。
今も同じ空を見てるの?
あの日の空を見てるの?
風の吹く空を。
時間と社会に削られていく世界、あの日の気持ちを私は言えるのかな?
あの頃はどんなふうに前を見て、どんな夢を見てたのだろう。
思い切り、心から笑いたい。
楽しい事って、何だろうね。
あの頃見た夕日は何も教えてくれない。
今見える夕日も何も語らない。
みんな、どこに消えたのだろう……。
空は今日も風に吹かれていた。
*
林檎学園高等部、一年五組の教室。
「……ったく、いい加減にしてよね!」
「待ってよー、晶ちゃんたら」
藤澤晶は鞄を背負うと、三つ編みを踊らせながら教室を出ていく。
髪を頭の上で左右二つに分けて束ね、赤いリボンで結ぶ森原英美は少し距離をとって後ろを歩く。
「なんでそんなに怒ってるの? 晶ちゃん。ひょっとしてアノ日? ザブトンあげよっか。ザブトン一枚! ナンチャッテ」
「英美、馬鹿なこというのはやめてよ! ボクが怒ってるのはそんなんじゃないの。そもそも英美のせいもあるんだかんね」
笑って言う彼女に怒鳴り散らし、晶は駆け出した。
小さくなっていく晶の背中をポケーと眺めたまま英美は動く様子もなかった。
「……廊下走ると先生に怒られるよ、晶ちゃん。……聞こえないかな?」
あくまでマイペースな英美。
そのうち戻って来るだろうと思いその場に座り込んでしまった。
靴箱前でふてくされている晶を見つけたのは、教室を出てから猶に一時間を過ぎていた。
のんきな英美は靴に履き替えて彼女に近寄った。
「晶ちゃんみっけ!」
「遅い! あんた、ボクを追いかけてたんじゃなかったの! 教室からどんなにゆっくり来ても五分しかかかんないじゃないの。どこで何してたのよ」
「そんなに怒ると血管切れちゃうよ。きっとカルシウム不足だね。晶ちゃん嫌い嫌いって言って牛乳飲まないでしょ。だめだよ、そんなんじゃお肌ツルツルになんないよ。次、晶ちゃん鬼だから、二十数えてから追いかけてね。これからエーミ、逃げるから」
「まてーい、誰が鬼ごっこやっとんじゃい!」
「えー、やってくれないのー」
「くーっ、あんたって子は」
「食う? って晶ちゃん何か食べに行くの? おごってくれるの? ありがとね」
ニコニコ顔の英美を前に晶は、いい返す気力がない。
どうでも良かった。
いつもの調子で振り回されてる晶は彼女のせいでおごるはめに陥っていたが、英美はそんな彼女の苦労など気付くわけもなかった。
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