Walkin' girl in the rain. 1
朝から降っていた雨は午後にはすっかりと止み、気持ちのいい青空が顔を出した。
傘を片手に持って帰りを急ぐ人、バスに乗って駅に向かう学生達。
雨上がりの街の風景である。
その風景にすっかりとけ込んでいる、全身真っ白い制服姿の少女。
その瞳には光が満ちていて、足取りはどことなく軽い。
何処にでもいるような女の子だった。
彼女を遠ざけたり、指を指したり、冷たい視線を向ける人はいなかった。
雨は恵
嬉しいから泣く
楽しいから泣く
喜ぶから泣く
だから泣く
泣ける自分がここにいる
少女は歩きながら節を付けて歌っていた。
そして自分の心を抱き締めた。
彼女が四丁目の交差点に来た時、信号が赤に変わった。
人々は歩くのを止めたので彼女も立ち止まった。
人は時に希望し、我を見つける事がある。夢に満ち、心が満たされる時がある。
その時、誰もが今の幸せがいつまでも続いてくれることを強く願うものである。
*
美浜市、美浜駅前近くにある小さなケーキクラブハウス『PEACH BROWNIE』は女子中高生達の間でちょっとした有名な店で、この店でケーキを食べ、お茶を楽しむ者は素敵になれると噂され、連日店内は彼女達で占められている。
店は繁盛していて、ケーキを食べる女の子達の顔には笑顔が見られた。
唯は店に出て、洗い物をしている。
その後ろで美香と亜矢が立ち話をしながら紅茶を作っていた。
「何で亜矢がここにいるのよ!」
「お前こそ辞めたんじゃないのか?」
「自分の小遣いくらい稼ぎたいの。亜矢はなぜ? 良晃君の所で働いてるんでしょ? 時給高いんじゃなかった?」
「みんなといると楽しいからさ」
ウインクしてみせる亜矢。
美香もまた同意見だった。
「姉貴じゃなくて、チクリンみたいな妹が欲しかったな」
「恍と話してるときも、妹がほしいって言ってたね。うちの弟の弘明なんか、背は私よりも高いし生意気だし。私も妹が欲しいな」
「あたいのだからな」
「ずるーい、私だって欲しい!」
お互い睨みあって一歩も譲らない。
「あたいとやろうってのか。百万年早いぜ」
ニヤついて亜矢は指をポキポキと鳴らす。
「おばあちゃんになるまで生きてるつもり?」
涼しげな顔でい言い返す美香は台の上にティーポットを置いた。
「店の中で暴れられると、困るんだけど」
二人の肩に手をおいて、唯はニコニコ笑いながら声を掛ける。
つられるように、亜矢と美香は笑顔を浮かべた。
「やだなー、店で暴れるわけないじゃないですか」
「軽い冗談ですから、ちゃんと働いてますよ」
「だったらいいんだけど。奥に行ってくるから、あとお願いね」
唯は店を二人に任せ、カウンター奥の部屋へと入っていった。
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