Walkin' girl in the rain. 2

 恵は変わった。

 明るくなった。

 そのおかげかは知らないが、お客も増えた気がする。

 今では本当の笑顔を見せてくれるのだ。

 亜矢達はもちろん、一番喜んでいるのは唯だった。

 だが恵について、なにも言わない。

 今までと同じように恵と接し、失敗すれば手厳しく叱った。

 それは親子のような優しさに似ていた。

 しかし、いい事ばかりでもない。

 亜矢、美香、神名、鈴と、立て続けに店を辞め、部活との両立に無理が出てきた聖美は辞めたいと言ってきていた。

 知見も部活動が忙しくなる理由でしばらく休ませてほしいという。


「人が去っていくのは、哀しみが減ったの証かしら。それとも心が癒えたのかな?」


 小さくため息をついて胸の中で呟くも、内心は嬉しい唯だった。

 暇なときには手伝いに来てくれるようお願いはしてはいる。

 現に、今日も美香と亜矢が働いてくれている。


 ……差し迫った心配事があるとしたら。

 

 唯の視線の先には、机に置かれた一通の封書。

 何気なく、手に取ってみる。


「差出人は市教育委員会……か」


 宛名には『朧月堅雪』と記されている。


「いつから届いてたかな? それにしても……どうするか……」


 腕組みをして考え込むが良いアイデアは浮かびそうになかった。



                   *



「恵さんの両親って、相変わらず仕事で帰ってこないみたいじゃないの」

「そうみたいですね」


 二階で客としてくつろぐ聖美と知見は、恵の話をしていた。

 ティーカップからは湯気が立ち上っている。

 聖美は紅茶に映る自分の顔をかき消すようにスプーンでかき混ぜた。


「けど、誕生日は家族で祝ってくれたみたいです。昨日、嬉しそうに話してくれましたから」

「ふーん、そうなんだ。最近、部活が忙しくてチクリンと全然会えないからな……私。けど、大人ってやっぱり勝手よね、子供ほっといて仕事って。よっちーもそう思わない?」

「生物学的にいって十五歳過ぎれば大人です。ホルモンの関係上もそうだし、肝機能の発達も。恵さんの御両親の考え方は、ある意味では間違っていないかも知れませんね」


 知見の言葉に腕を組んでしまう聖美。


「そういうもんかね。それより、あの子達……うまくいってんの?」


 聖美は紅茶を一口飲み、考え込むのを止めて話題を変えた。

 冷めかけた紅茶を飲み、口元が緩ませる。


「シスコンとブラコンのカップルって、うまくいくのかも知れませんね」

「うぅ~、それっていいのかな?」

「さぁ……」


 二人は腕を組み、それ以上何も言えなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る