Piece of cake.
Tea Party Melts Our Heart. 1
映画に例えて言うならば、コーヒーはハードボイルド。
ほろ苦さとその匂いは朝日に似合う。
緑茶はホームドラマ。
その温もりと静けさが心を和ませる。
紅茶はラブストーリー。
香りと水色に魅了され、ときに渋みもいい思い出となる。
ハーブティーは歴史物語。
先人達の教えを学ぶような味わいがある。
ケーキはメモリアルヒストリー。
おいしい味と匂いは懐かしさと思い出を見せてくれる。
それぞれ体験を重ねていくと人生が豊かになる点で共通している。
それらは世界史の重要な場面でよく登場している。
スケールの大きさと、その役割の重要さにも共通した一面がある。
こう考えると毎日の何気ない一杯、何でもないケーキが、大切なものへと変わっていく。
それはどんなものでも同じ事。
私たちの心にも言える。
人は生きているから〝つらい〟に出会う。
〝孤独〟に誘われ〝愛しい〟に捕まる。
〝迷い〟や〝悩み〟に襲われる。
そんな気持ちに追い立てられ、押し潰されそうになる時がある。
そんな時、『大丈夫だよ』って言って上げたい。
『空は飛べるよ』と伝えたい。
『負けない勇気』を送りたい。
温かいお茶と有り触れたケーキのあるお茶会の中で……。
*
駅前近くにある小さなケーキクラブハウス『PEACH BROWNIE』。女子中高生達には有名な店で、相変わらずの繁盛ぶりを見せている。
今日はPEACH BROWNIEはお休み。
小人達は日頃のがんばりを自分達で誉めてあげようと、お茶会を開くことに決めた。
テーブルの上にはおしゃれなブレックファースト・テーブルポットを中心に、白いティーセットが七つ、それぞれの席の前に置かれてある。
ケーキスタンドにはいろんなケーキが詰められてある。
彼女達はそれぞれお互いの席にケーキを並べ、ティーカップに紅茶を注いだ。
カップからは湯気と一緒に素敵な香りが立ちのぼっていく。
「それでは、ピーチブラウニーの、ささやかなお茶会をはじめましょう」
鈴はティーカップを軽く持ち上げて言い、みんなのカップが上がったのを確認してから一口飲んだ。
みんなも後に続くように口を付けた。
「いやあー、やっぱりお茶は作るより飲んだ方がいいよな!」
「亜矢はがさつなだけ。自分で精魂込めて作って飲むお茶がおいしいんじゃないの」
「うるせーな、お前はケーキが食えればいいんじゃねーのか、この食いしん坊のみみみさん。また太るぞ」
美香と亜矢はいつものように口げんかをはじめた。
彼女らにしてみれば挨拶みたいなもの。
みんな、別に気にしてはいなかった。
「二人とも相変わらずね」
神名は微笑みながら紅茶を一口飲んだ。
そんな彼女に気づいた二人は振り上げた拳をそっと引っ込めた。
「ははは……。そうだ神名さん、受験頑張って下さいよ。やっぱ、あたいみたくバカとは出来が違うから心配はないけど」
「バカなあんたと比べるのは神名さんに失礼でしょ! 頑張って下さいね」
「神名さん、頑張って下さい!」
またもめ出す二人をよそに、他の子達は嬉しい話に喜びを感じ神名に賛美を送った。
みんなから拍手を受ける神名は妙に照れていて恥ずかしそうだった。
はにかんだ笑みを彼女はみんなに見せてくれた。
「あ、ありがとう。そんなに頑張れ頑張れって言わないでよ。だって私、バイトばっかりしていてろくに勉強してなかったんだもん。弥生と陽一君の二人にびっちり絞られて大変なのよ」
「大学受験か……。懐かしいわね」
ティーカップ片手に遠くへ目線を向ける鈴は、思い出に酔いしれていた。
そんな姉に亜矢は茶々を入れる。
「思い出を振り返るほど年取ったんだね、姉貴は」
「うるさいわねー、まだ十代よ。いずれあんたもそうなるのよ」
「そーだ、そーだ」
美香は舌を出して亜矢に見せた。
「ったく! 美香は同い年じゃないか。それにあたいより誕生日早いから、先に歳取るだろ」
「うっ……いーだっ」
相も変わらない二人の様子に少し呆れながらみんなは笑う。
笑いながら聖美は紅茶を一口飲んだ。
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