Le temps paressenx. 3
足音が近づいてくる。
三人は恵の後ろに逃げ込んだ。
彼女達の前にやってきたのは唯だった。
三人はどうしていいのか分からず恵の方を見るが、恵にもまだ唯とは面識がなく、動揺していた。
「あら、恵じゃないの。友達、連れてきたの?」
「あ、あの……貴方は誰ですか?」
恵の後ろに隠れるようにしている三人は小声で〝貴方も知らないの?〟とか言っている。知るわけがなかった。小さく頷き、唯の顔を不安げに見つめた。
「そっか、まだ初対面だったか。私はこの店の主人で美浜 唯、よろしくね」
美浜?
よく聞く名前。街の名前と同じだ……。
「来るのが遅いわよ、みんなもう来て待ってるのよ。友達のみんなも一緒に上がった、上がった!」
唯に言われるがまま、みんなは二階に上がる。他にそうするしかなかった。
階段を上がるとそこには亜矢達が席に着き、恵が来るのを今か今かと待っていたみたいだった。
「遅いぞチクリン! 先に食べちゃう所だったんだから」
「……はぁ」
亜矢に言われて呟く恵だが、状況が飲み込めない。
そこには部長や会ったことのない男の人、そして祐介達もいた。
「姉さん! 店に来てるならどうして僕に取りに来させたんだよ」
「お姉さん?」
後ろからした声に振り向くと、さっきの男の子と美香が何やら口論していた。
その様子に、目を丸くさせて驚いている由香達。
「そう、姉さん。さっきから違うって言ってたろ」
「弘明、何かあったの?」
美香は暢気に首を傾げてみた。
とにかくみんな、それぞれの席に座らされた。恵は祐介の隣が空いていたのでそこに座らせてもらった。
「美浜君も……来てたんだ」
「まあね」
辺りをグルッと見渡してみた。
テーブルには大きなケーキにサンドイッチやクッキー、スコーンが並び、花瓶には綺麗な菖蒲が生けられてある。店で一番高いティーセットにチェックのクロス、可愛いケーキ皿が目に付いた。そして何本かボトルが置いてあった。
「ほんじゃまぁー、みんな揃ったし、美香の十七歳の誕生日パーティーでも始めましょうか!」
亜矢はそう言って、ボトルの栓を引き抜いた。
「誕生日……で店を」
「そういう事みたい。僕も誘われちゃった」
祐介はそう言って、恵のグラスにシャンパンをついだ。
「ところで彼女達、竹林さんの友達?」
春香達二人を指さして小声で尋ねてきた。
恵は頷けなかった。
よく分からない。友達と言うよりはただのクラスメイトだと思う。
祐介には軽く首を振って見せた。
「そうなの? 早く友達が出来るといいね」
「ここにいるみんな以外は……欲しくない」
彼から目を反らし、そう答えた。祐介はチラッと辺りを見渡し、自分を指さして言った。
「僕も入ってるの?」
その問いに彼女は答えようともしなかった。
唯はケーキを切り分け、神名と鈴はみんなのティーカップに紅茶をついで回る。
ガラスで出来たティーカップにはもちろん、アイスティーが注がれた。
由香と春香はお互いを見合わせ、この状況にどうしていいのか分からなかった。
そんな彼女達に気付いたのか、明と航治が話しかけてきた。
「楽しいんじゃえばいいよ。折角、美味しそうなケーキに美女揃い……いやいや、素敵なパーティーに誘われたんだからさ。ちなみに俺、牧野 明、よろしく」
「そうそう。僕は神谷航治と言います、よろしく。素敵なお二人さん。良かったらお名前を教えてくれません?」
……ナンパだ。
二人はそう思ったが、顔はまあまあだし、性格も悪くなさそうだから彼らと楽しむことにした。
「私は高千穂由香。よろしく」
「私は広小路春香と言います。よろしく」
二人は彼らとグラスを軽くぶつけ、高音を鳴らした。
「まあまあ、美香さん。十七歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう、亜矢」
二人はグラスを持ち上げて乾杯をした。
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