僕と黒剣

暗黒星雲

謎の美少女

第1話 消えた黒剣

黒剣こくけん、どうしたんだ黒剣」


 僕の目の前で急に倒れた黒剣。

 彼女はいったいどうしたのだろう。


 僕は彼女を揺さぶり声をかける。


「……」


 彼女は返事をしなかった。

 僕は彼女の手首に指を当て脈を探った。何も感じない。


 まさか、死んでいるのか?


 科学部の部室で突如起きた突発的な事故。先生を呼ぶべきか、それとも救急車を呼ぶべきか。頭が混乱していて、どうすればいいのか分からない。


 そこへ、顧問の槙田先生が入って来た。


「どうしたんだ」


 槙田先生は異常に気づいたようだ。


「黒険が倒れたんです。息もしてないし脈もない」

「分かった、すぐに救急車を呼ぶ」


 先生は携帯を取り出し、救急に電話をした。

 程なく救急車が到着した。僕と槙田先生は表に出て救急車を出迎える。そして、救急隊員を部室へ案内した。


 その時、僕の心臓は凍り付いてしまった。

 そこに倒れていたはずの黒剣がいなくなってたんだ。


「困りますね。いたずらですか?」


 救急隊員に睨まれる。僕はどうしていいかわからず、その場で俯いたままだった。黒剣。君は何処に行ってしまったんだ。そして、これは一体どうなっているんだ。


 僕は、黒剣の脈がない事を確認していた。それは確実なんだ。


「申し訳ありません。確かに女子生徒が倒れていたのですが、元気になって何処かへ行ったようです。後ほど私の方できつく叱っておきます」


 槙田先生が謝罪している。その横で僕も頭を下げた。


「ごめんなさい。倒れていたのは本当なんです。でも、皆さんを出迎えていた間に何処かへ行っちゃって……」


 僕たちの謝罪に救急隊員の人も納得したみたいだった。


「気を付けてくださいね」


 救急隊員はそう言い残して救急車へと戻り、そして帰っていった。


「黒剣と何をしていたんだ?」


 先生に聞かれた。


「何も……いえ、少し、議論をしていたんです。ダークエネルギーの正体は何かって」

「ダークエネルギー?」

「はい。現在の科学でも謎とされているエネルギーの事です。重力に反する作用をすると言われています」

「それは知っているが」

「黒剣は10次元以上の高次元エネルギーがフォトンベルトに現れていることで確認できるとか、非科学的な訳の分からない事を言うもので……」

「それで熱くなって議論していたという訳か」

「はい」


 僕は頷いた。そう、確かに議論はしていた。


 その最中に、僕は黒剣に対して僕の気持ちを伝えようと思ったんだ。彼女の事が好きだって事を。


 その時、黒剣は薄ら笑いを浮かべながら目を閉じ、そのまま床へと倒れた。

 何が起こったのだろう。僕は黒剣の脈がなかった事を確認している。でも、黒剣はいなくなった。


 死んだと思ったけどそうじゃなかった。どんな方法かは分からないけど、黒剣は僕を騙した。そして姿を消した。


 何故?

 何の為に?

 何も思いつかない。


鳴田なりた。もう帰りなさい。黒剣を見かけたら私のところへ連絡するように伝えてくれ」

「はい、分かりました」


 黒剣こくけん


 勿論愛称だ。本当の名前は黒沢くろさわつるぎという。こんな名前でも女子生徒だ。男じゃない。


 日本人離れした褐色の肌をしているエキゾチックな美少女。僕はそんな彼女が気になって仕方なかったんだ。そんな彼女が科学部に顔を出したものだからとんでもなく驚いた。


 それでこの事件だ。


 部室に鍵をかけ、学校を後にする。

 自転車に乗って川沿いの道を走る。真冬の冷たい空気が頬を刺すのだけど今は気にならなかった。消えてしまった黒剣の事が気になって仕方なかったからだ。


 翌日、僕はいつものように自転車に乗って登校した。

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