また逢えて 2
「だいたいさ、ひろえの隣のあんたのポジションは、もともとあたしのポジションだったんだからね」
駅前の通りに出る途中をショートカットした公園で、急ぎ足の美緒は傍らの良樹を横目にマシンガントーク。
いまそれいう? と思いつつ、良樹は顔に出ぬように慎重に視線を合わせない。
「ショックだよ、あたしの知らないうちに、あたしのひろえが、まさか〝年下の男の子〟を掴まえてたなんて──」
美緒はブツブツとお構いなしに、並べ立てていく──。
良樹は内心で溜息だ。
かみさま、よりにもよって今日この日に、なんでおばちゃん女子の愚痴を聴かされなきゃいけないんですか……
でもそんな美緒を、良樹はキライじゃなかった。
むしろ良くできた姉のような、そんな存在になっている。
そして、とても感謝している。
病院でのあの日、中里宏枝が
高杉美緒が強硬に反対したからだった。
──40キロあった体重が25キロにまで痩せ細ってしまった容姿を、宏枝は見て欲しくないと思う、と。厳しいリハビリの辛さに苦しむ姿も見せたくないと思うから、と。……だから、待ってあげて欲しい、と。
そう言い募られた時の美緒の目の力に、良樹は負けた。
その代わりに──と、美緒は日記帳を用意してきて、二人の間を行き来することを提案してきた。ご丁寧に小さなハート型の錠前と2本のキーまで用意して──これでだいじょうぶ、他の人は誰も読んだりできないから、と笑って。
宏枝がスマホはおろかケータイすら持っていないという事情もあって、なし崩しに宏枝と良樹の『交換日記』が始まった。
4か月間、毎週2回の気恥しさの習慣化──。
最初は何を書けばいいのかわからなかった良樹も、宏枝の「わたし気配りできるコ」オーラのほんのりにじんだ文面に助けられて、すぐに馴染んでいった。
そうなると美緒は律儀で、毎週欠かすことなく水曜と金曜に、病院と良樹のアパートを往復し続けてくれた。
まぁ、毎週訪ねてくる女子高生、というこの流れで、自然に良樹の母が
実は一、二度、良樹は美緒に黙って病院まで宏枝に会いに行ったことがある。でも、きびしいリハビリを必死に頑張る宏枝とそれを励ます美緒を遠目に見るだけで、美緒の眼力の正しさを実感させられてしまった。
──高杉先輩は、強くて、賢くて、優しい。
自分もそんなふうになりたいと、良樹は密かに憧れさせられる。
そんなこんなで、いまではすっかり 美緒は良樹にとっても気のおけぬ間柄となっている。
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