また逢えて 3

 そんな美緒とは、駅前のロータリーで別れた。

 美緒曰く、どうにも心配な〝年下の君〟のために、自分のデートの前にわざわざ時間を割いて様子を見に来てやったの、……だそうだ。


「ありがたく思いなさいよね」


 そんな別れ際に、正面を向かせた良樹の頭から足元までをざっとチェックした美緒は、まあまあ納得したふうに合格の指差しをしながら、「がんばんなさいよ!」と軽くドスを利かせて送り出してくれた。



 それから急行で4駅ほど乗って、宏枝との待ち合わせ場所の最寄り駅で降りる。

 高架下の出口へと降りる下りのエスカレーターを降りて、駅前の商店街へと折れる連絡通路の先で、良樹は塩谷邦弘の知った顔とバッタリ鉢合わせた。


「よう……」

「おー……」


 互いに軽く挨拶を交わす。するとすぐに、良樹の目も、ハーフリムのメガネ越しの邦弘の目も、……ん? というふうに、訝しげに細められた。互いに違和感を感じて、相手をまじまじと見やる。

 今日の邦弘はカジュアルを通り越してラフな装いと言えたが、もともとの落ち着いた印象もあってか、軽薄さをまったく感じさせないパーフェクトな出で立ちだった。


「なんかいつもと違うな」 と良樹。

「うん? ……まぁ、ね」

「随分決めてないか?」

「お前もな──」


 溜息が漏れるような視線を返したあと、邦弘は事も無気に言ってのけた。


「デートなんだよ、これから」

「は……?」

「お前もだろ?」


 衒いも含羞もなく訊き返してくる邦弘に、良樹は今さらながらこの男の奥の深さに感心しつつ、観念するように頷いた。


「……うん、まぁ」



 同時に、学期中そんな気配なんてつゆほども感じさせなかった邦弘のお相手に興味が湧く。


「あー、その──邦弘の相手って、誰なんだよ?」


 その好奇心は抑えることができず、結局良樹は訊いていた。


「須藤だけど……」

「…………」


 一瞬で良樹の顔が気まずくなった。あの修学旅行以来、邦弘とはともかく、須藤とはろくに口を利かなくなってしまっている。機会がなかったわけじゃない。お互いに何となく避けるようになっていた。


「そうか……知らなかったな」


 良樹は、なんとかそう応える。



「かまわんよな?」


 邦弘が真っ直ぐな視線で訊いてきた。


「──かまうもかまわないも、別にオレは……」


 いつものように、託けるよう良樹は云いかけ、口を噤む。邦弘の目線の先に、自分がどう映っているのか、それを考えたとき、良樹は頭を振って応えた。



「……オレは──」 真っ直ぐ邦弘を見返す。「オレと須藤はそういうんじゃないよ」


 いま、オレがちゃんと応えることが、オレと邦弘にとっての最善だ……。


 そう思うと、自然と口調が改まる。


「たしかにオレ、須藤のこと、ずっと気になってた。けど……」


 視界の中で、邦弘の表情が微かに動く。


「──オレが好きになったのは中里で、彼女は、そういう対象じゃなかった」


 なぜなのか、泳ぐように邦弘の目線が逸れていっても、良樹は構わずに続け、最後に、黙ったままの邦弘に云い添えた。


「あと、さ……勝手だけど──オレ、須藤と邦弘でよかったと、いま思った」


 ハーフリムのフレームの位置を片手で直してから、邦弘は軽く息を吐いて、良樹に顔を向け直した。微笑とも苦笑ともいえない、そんな表情で良樹に云う。


「──おまえ、ふつーならそれ、ぐーパンチやぞ」


 良樹も笑った。


 それから、邦弘の視線が自分のさらに後ろへと移ったことで、良樹は後ろに立つ気配に初めて気づいた。


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