#006 Intermission(転生したら、魔王帝国の皇女殿下でした)

 ――魅力的な魔王城下町を建設し、人類の都市との誘致合戦に勝利する。

 

 私が、なぜ、こんな、とんでもないアイディアにたどり着いたのか? その理由は簡単だった。


 私には、前世の記憶があるの。


 十歳の誕生日だった。

 寒くて、その年初めての粉雪が降った朝、真っ白に雪化粧した中央帝都を見遣って、ふいに、思い出したの。


 ◇  ◇


 令和12年12月22日 午前6時30分

 明日社市あすもりし米津町大字蓮谷地内 農家の離れ屋


 前世の私が亡くなったのも、こんな真っ白な粉雪の朝だったなって……

 前世での最期の頃、引退した私は、片田舎の農村でゆっくり過ごしていた。

 その朝も、家族のいる母屋から、朝の支度を始めた騒がしさが聞こえてきて、目が覚めた。


 小さな離れで寝起きしていた。

 筆柿を干した縁側に出て、猫のタマに挨拶して、伸びをしたところで…… 記憶が途切れている。


 九十六歳の初冬、ぽっくりな最期だった。

 

 思い出し始めると不思議なもので、ふいに次々と前世の記憶が湧き出てくるの。


 私、きな粉餅好きだったな。

 とか、

 コーヒーゼリーにはこだわりがあったな、とか。


 あ、おばあちゃんモードになるとお話が長くなるから、すっ飛ばすね。


 私にとって、新魔王城下町建設計画と、人類の諸王との誘致合戦に勝利することは、遠いリベンジなの。


 前世の私、笠森小枝子かさもりさえこは、第24代明日社市長あすもりしちょうだった。

 より正確に言うと、市長選の告示の直前に倒れた夫、笠森清十郎の妻だった。

 大変だったという記憶はある。

 現職市長の夫が倒れた。

 市長選の告示まではもう数日とない。

 代わりの候補者を立て直そうにも、時間がなくて調整もできない。

 結局、市議会議長の鶴の一声で、私が市長選に出ることになり、同情票も集めて当選しちゃったの。そのとき、五十二歳。まさかの事態に頭を抱えた。


 それからはもっと大変だった。

 人口わずか4万2千人の明日社市なのに、トラブルが次々と湧き出してくるの。ゴミの不法投棄問題には頭に来たし、悩まされた。水害もあれば、季節外れの豪雪もあった。とにかく先頭に立って、素人なのに意地になって奔走した。

 清十郎さんが返って来るまで、私が明日社市を守るんだって、自らを鼓舞して頑張った。


 だけど、清十郎さんはついに目を覚まさないまま、逝ってしまった。


 泣いたよ。溶けちゃうくらいに泣いた。

 それでも朝は来るし、仕事は山積みだった。


 結局、後を任せられる人がなかなか見つからなくて、私は、昭和61年から平成13年まで、市長を4期16年に渡って務めることになったの。 

 自分でいうのも変だけど、頑張ったと思うんだよ。

 だけど……


「いつかは地方中核市に……」

 という、生前の清十郎さんの夢は、ついに叶えられなかった。ゴミの不法投棄問題に翻弄されたことも原因で、周辺市町村との合併話も上手くいかなかった。

 

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