#003 都市計画を発表します -2
舞台へ長身の人影が歩んできた。
「ご指名を頂戴しました、元帝国財務卿ファレンカルク伯爵です。あの、私からもよろしいでしょうか?」
どうぞと、彼を舞台の上へ招きあげた。
えっと、実は…… ファレンカルク伯爵とは新魔王城下町建設計画について、事前に協議を済ませている。だから、これはシナリオどおり。
彼は、元・帝国財務卿。
つまり、魔王帝国の財政の中枢にいた人物で、今回の巨大建設事業には必須な頭脳だった。
魔王帝国は、武断政治が大得意なバトル野郎集団なの。だから、彼のように優秀な高級技術官僚は、とても大切な縁の下の力持ちなの。帝国の財務制度について、きちんと理解して事業計画に生かせる人材は、すごくほしい。
演台をファレンカルク伯爵に譲る。
「お久しぶりです。皆様方。星歴25会計年度まで財務卿を務めておりましたファレンカルクにございます」
急に大会議堂が静まり返った。そりゃあそうだ。つい四年前まで現役だった鬼の財務卿が、まさかの再登場と来たものだから。ちらっと見遣ると、ビックホーン男爵までも、表情が強張っていた。
鬼のファレンカルク財務卿―― 地獄のコストカッターと呼ばれ、甘くて清楚な優男のくせに、予算査定となると、にっこり笑って無駄を切る。怖い人だった。
とにかく放漫財政になりがちな魔王帝国が、毎年わずかでも黒字決算でいられるのは、彼の尽力の賜物以外の何物でもない。
そんな彼だからこそ、私には必要だったの。
丁寧なごあいさつの後、ファレンカルク伯爵は、今回の新魔王城下町建設事業にかかる予算要求について説明を始めた。
「僭越ながら私より、今回の新魔王城下町建設にかかる事業計画について、ご説明いたします」
お話が長くなるから、バッサリと要約しますね。
・新魔王城設計費 : 500億ギル(天守楼は別途施工)
・都市外周運河建設費: 4500億ギル(川湊整備経費を含む)
・都市外周城壁建設費: 2500億ギル
・東街区建設費 :1兆4000億ギル(賃金7000万ギルを含む)
・用地買収費 : 200億ギル
・都市防衛及び事務費: 1480億ギル
29会計年度総事業費:2兆3180億ギル
今年度だけで約2兆3000億ギル。これは、魔王帝国の年間予算の二十分の一に相当する金額だった。
数字だけ聞くとびっくりだけど、計画のとおりに大軍団による遠征で六王国軍と全面戦争した場合は、もっと予算がいる。無駄に屍山血河を築くだけの非生産的なことに、魔王帝国の銀貨が溶けていくことになるの。
そのあたりの比較検討は、ファレンカルク伯爵にお任せした。餅は餅屋っていうじゃない。ちなみに私は、お餅ならきな粉餅が好き。
魔族の諸侯たちから、次々と質問が飛び始めた。異論というよりは、興味津々といった方が良い感じね。
予算に関することはファレンカルク伯爵が、それ以外のことは私が答えた。
私が一般市民を犠牲にしないで、なぜ、人類の諸王だけを狙い撃ちにしたいのか? もう、魔族の諸侯の誰もが気付いていた。
私たち、魔王帝国には、「盟約の経典」と呼ばれる古い法典がある。
一般的な法令集とは異なり、どっちかというと、魔族とはかくあるべし的な精神論や哲学に近い経典なのだけど…… その精神性ゆえに、今日も魔族の最高法典として大切にされている。
この「盟約の経典」には、魔王皇帝の地位継承について、次のとおり記載されている。
最も偉大、最も数多の人口を擁する城都を有する者こそが、
次世代の魔王皇帝に相応しい者である。
次世代の魔王皇帝になる資格要件は、巨大な人口を持つ大都市の偉大な支配者になること。つまり、より多くの人々を支配すること。
最高位の支配者として、統治能力に優れていることを、ごく単純に、支配する城下町の人口で計る明快なルールなの。
ゆえに、歴代の魔王皇帝の子孫たちは、競うように、より強大な人類の都市を襲い、戦い、勝利して、支配した。
でもね、人類の諸王は勝てないと分かっているのに、魔族が来ると必ず守護兵団を組織し、無駄な抵抗を重ね、結果、貴重な都市人口を失う。激戦の末に勝利したけど、もう、人類は誰も生き残っていなかったという、本末転倒な事態も少なからず起きていた。
メイルラント地方六王国は特に抵抗がひどくて、過去には帝国基幹兵団を退けたことさえあるの。
えっと、精強なる魔王帝国軍の名誉のために付け足すと、あまりに人類側の作戦がお粗末なので、想定される人類側の被害の大きさを魔王帝国も看過できなかったの。そんなに殺して何の意味がある? という単純な疑問が私たち魔族にだってあるもの。
人類には、なかなか、理解してもらえないんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます