#002 都市計画を発表します -1
「どうぞ、システィーナ姫殿下のご発言を認めます」
大司祭様は、シナリオ破りをやらかした私に驚いたふりも見せなかった。まあ、魔王皇帝陛下の孫娘が、大人しくお人形になるなんて、思っていないのだろう。
「えっと、本日は私のお誕生日祝いと、遠征前の大集会へ、ご列席頂きありがとうござます」
魔族の諸侯たちは、ジト目で演台に立つ私を見あげている。後ろに居並ぶ眷属の将兵たちは、ざわめき始めていた。みんな、内心は何か始まるのかを心待ちにしているの。
「僭越ながら、先ほどご提示頂きました戦力プランについて、私から修正案をご提案したいのです」
ざわざわざわざわ…… 大軍団だからひそひそ話でも、集まれば、大会議堂を揺るがすどよめきに変わる。
「まず、メインスタッフとして、元財務卿ファレンカルク伯爵様のご助力を賜りたいと思います。
それから、新魔王城下町を建設するにあたり、必要な施設の設計を中央帝都工学院へ、施工に際しては魔王軍施設大隊をお貸しください」
ここで、言葉を切って、舞台の上から魔族諸侯や眷属の将兵たちを見渡す。
私は、いま、人類の城都を奪って魔王城にするのではなく、新魔王城下町を建設すると言った。その意味に、みんなが気付くまで、少しだけ時間が必要だと思った。
大会議堂を満たすざわざわが、波のように大きくなった。うん。そろそろ気づいたみたい。
「戦力については、すみません……魔族諸侯による大軍団はご辞退いたします。
代わりに、魔王帝国の遊休資産である骸骨兵団の全部をお与えください。あと、獣人騎士団については、今後とも私付きをお認めください」
もっと、ざわざわが大きくなった。何せ魔族とその眷属の大集会なんだから、お口チャックで行儀正しく座らせておくのは、ムリだと思う。
舞台下の最前列、私の指揮下に入り大遠征に赴くはずだった魔族諸侯たちが、座っていた。精強かつ凶悪そうな面構えの魔族の中でも、特に危ない顔が並んでいる。
「姫殿下、よろしいかな?」
その中からひとり、漆黒マントの大柄な角男が立ち上がった。
ええ、どうぞ。と、にっこり笑って返した。
「ひとつ、確認をさせて頂きたい。
姫殿下は、人類の六王国のいずれとも戦わず、彼らの城都とは別の場所に、まったく新しく魔王城を建設なさるおつもりなのか?」
大柄な角男、ビックホーン男爵の声は野太いくせに良く通る。さすが、魔族突撃騎士団の団長だ。男爵は、人類の騎士団に絶望を叩き込む役割を負っている。
お話の要点を外さない、的確な突っ込みに感謝した。
「そうです。六王国の城都は、いずれも、六王国すべての住民を収容するのには狭すぎます。なので、別の場所へ更地からまったく新しく大きな魔王城下町を建設します」
ビックホーン男爵は、にやりと不敵に笑った。
「姫殿下は、六王国の全てを破滅させるおつもりですかな?」
私もうれしそうに微笑む。
「ええ。自領の住民をちゃんと幸せにできない人類の諸王が六王国にいます。
なので、住民も農地も牧場も工場も市場も学園も、人口も都市施設も、全部奪い尽くして、愚かな人類の諸王を絶望に突き落としたいと思います」
私はにこにこ笑顔で続けた。
「私たち魔族が人類の都市を奪おうとすると、無能な諸王たちは数多くの将兵や市民を無策な戦いで失い、無駄な犠牲のうえに偽りの正義を唱えます。
それは、ちょっと、面白くありません。
魔族は悪者ではなく、人類の諸王が無能なのです。それを、わからせる必要があると感じています」
「人類の王都を攻めずに、どうやって彼らから奪うおつもりかな?」
ビックホーン男爵は、興味を抱いてくれたようだ。いつもどおりの遠征、毎日突撃の繰り返しに、さすがに男爵も飽きてきたのかも知れない。
「魅力的な新魔王城下町を建設して、住民も工場も商店街も学園もあらゆる都市機能を六王国から、誘致します。
人類の都市との誘致合戦に勝利すること―― それが私の大遠征修正プランです」
ビックホーン男爵が豪快に笑った。
「面白いではないか、姫殿下! 六王国の王都を無血開城しようというのか!?」
きょとんとして見せた。
「はぁ? 違います。人類の王侯貴族はお断りです。彼は無能すぎて害虫に過ぎません。新魔王城は清潔な都市環境を目指します。
それに…… 私たちは、魔族ですよ。無血開城は、ないですよね?」
「では、儂の出番くらいはあるのだな?」
ビックホーン男爵がにんまりと笑っていた。
「はい。ご同行願えると幸いです」
私もにんまりと笑って返した。
「相分かった。姫殿下の機動戦力として働かせてもらおう」
ビックホーン男爵のどでかい体躯が立ち上がった。
「よろしくお願いいたします」
私は彼を舞台の上に招きあげた。
まずは修正シナリオどおりの展開に安堵した。この角男爵が率いる突撃騎士団は、ぜひ欲しい戦力だった。でも、この性格でしょ。事前に示し合わせて大集会以前にリハーサルなんてできない。ぶっつけ本番だったの、これ。
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