第66話 VSスカラ女王 傷つけるの者の戦い【中】の話



【傷つける者】の効果で、徐々に魔力が吸われ、気が遠くなっていき、膝まづいた。

黒杉は、自分の太ももに短刀を突き刺す。

徐々に、熱くなっていく。だが、この極寒の温度のせいなのか、じんわりと持続的な痛みが続く。


「イッテェなあ・・・おいっ」


少しでも気を抜けば、気絶してしまうだろう。

だから、その場できることは、自傷行為で意識を保つことだった。


突き刺した短刀を抜くと、刃にこびり付いた血が凍る。

今でも、倒れそうな体を、ゆっくりと立ち上がり、再び武器を構える。


「フフフッ・・・さあ、その身体で、どこまで戦えるのか楽しみだな」

「・・・」


そのまま、黒杉は考えなしにナイフを持って、スカラに突っ込む。

血黒病は尋常じゃない速度で進行しているため、思考をすることすら、許されなかった。


「ヨウイチッ・・・駄目ッ!」


遠くから、誰かに名前を呼ばれたような気がした。

しかし、今はそんなのはどうでもいい、早く自分の中の黒い何かを取り除かなければならない。早く・・・ハヤクしなければ。


黒杉は【仁王】と【大元帥】を発動させ、【残影】で5体に分身させ、隙を突いて、撹乱する。

スカラは、槍で素早く、残影を突き、切り裂く。


「ほう、珍しい残影を使うものだな」

「・・・っく」


しかし、血黒病のせいなのか、スキル一回分の消費量の消耗が激しい。

脚が重い、身体が上手く動かせない、呼吸が乱れる。

身体が重い、苦しい、痛い、蝕む。


「まずいな・・・」

「させぬよ」


収納から、魔力を回復させようと、丸薬を取り出そうとすると、スカラは持っていた槍で、黒杉の手を突き刺した。

そのまま、突き刺した槍で、無理やり、腕を上げさせる。

腕が、何かが蝕み、食いちぎられるような痛みと悲鳴を上げる。

今度は腕に大きな口を出来る。

ニチャニチャと音慣らし、不快音が耳に響く。


「ぐああああああああ!?」

「どうした?私をもっと楽しませてくれないのか?」


スカラは、槍を抜き問うが、黒杉は既に聞く耳すらなかった。

「つまらんな」といって、腕を抑え悶える黒杉を首を掴み、持ち上げる。

既に体力と魔力が消耗している為、抵抗する事すらできず。腕が宙ぶらりんになる。


「カハッ・・・」

「くふふ・・・」


スカラは苦しむ姿を、楽しんでいた。

そのまま、首を絞める。

ここで、黒杉の意識は、スカラの不敵の笑みを最後にして、闇に落ちた。


「ヨウイチを・・・・放せえええええええええ!!」

「ご主人様を放せ!!」


凄まじい気迫で迫るアイリスと、無理やり短刀状態の拘束を解いて、出てくる。

クレナは腕を刃にして、スカラに攻撃を仕掛ける。

しかし、小さな体が仇となり、長い脚で蹴り飛ばされる。

そのまま、手から青いオーラを纏い、【高速詠唱】で呪文を唱える。


「ふん・・・弱いな。【氷結界・呪雹(マレディック・テーラ・ジェアリ)】」


唱えると、アイリスとクレナの周りに薄い氷の壁が出てくる。

そのまま、ドーム状に囲むように、彼女達を封じ込める。


「こんなもの!!」


クレナは壁を切り裂こうすると、攻撃が弾かれ、鋭い雹が襲い掛かる。


「うわっ!?」


その攻撃をギリギリ避け、地団駄をしながら、スカラに言う。


「何よこれ!?」

「私のスキルの【氷結界】だ。その壁に攻撃すると、攻撃が返ってくるぞ?」

「何それ!反則じゃない!?」


アイリスも同じように攻撃をするが、雹が降ってくる。

しかし、雹はアイリスに当たる直前、蒸発して消える。


「そなたには、その攻撃は受け付けないようだな」

「そんなのどうでもいい・・・!ヨウイチを放して!」

「なら、お望み通り」


黒杉の首を掴んだまま、アイリスにいる氷結界に近づく。

そのまま、壁に押し付け、槍を持ち向ける。

今から、何をするのか、予想はできているが、否定する・


「いったい・・・何を」

「何をって、お望み通りに”この世”から放してあげるのさ」


赤槍が黒く鈍く光り、その先端が反射し黒杉の顔が赤く映る。

そして、矛先が心臓の方に向く。


「いや・・・!やめて!!!」


アイリスは今まで、セーブしていた魔力を放出させ、大剣燃え上がらせる。

周りのユキは溶けるが、氷結界は解くことはなかった。

そのまま、大剣で結界を殴り続けるが、雹が降り注ぐ。


「哀れ、実に哀れなだ。こんなことに関わらずに静かに、過ごしていた方がいいものの・・・」

「いや・・・!イヤッ!!!イヤッ!!」


アイリスは叩きつつける。しかし、頑丈な結界はヒビ一つすら入らない。

それどころか、雹の勢いが増すばかり。


「私は、自由な愛が憎い、だから、お前にも、憎しみを味わうがいい」

「いやああああああああ!!」


放出した魔力が枯渇していき、少しずつ、弱まっていく。

そして、ついに、雹がアイリスに当たる。


「いたっ・・・」


身体が熱い、【炎神】の効果で暑さは感じることがないのに、熱い。

自分の肩を触ると、手に血液が付着していた。熱さの正体は痛覚だった。

今まで、自動回復や自動再生で、感じることはなかったので、痛みというのは分からなかった。


「いたい・・・っう」


しかし、地面に落とした、燃え尽きた大剣を拾い、壁を叩く。

すると、背中に雹が突き刺さる。

その状態を眺める事しか出来ない、クレナは叫んだ。


「くうううううう・・・!」

「アイリスッ!!」

「無駄だ。外からの攻撃じゃない限りは、壊れんよ」


そんなのどうでも良い。

今、自分の最愛が殺されかかっている、だから、止まるわけには行かない。

だから・・・だからっ!


───ザクッ


アイリスが大剣を振ろうとした、瞬間だった。

内側から見える、黒杉の背中から、何かが突き抜けていた。

突き抜けていたのは、赤槍、その先端から、ゆっくりと血が滴る。

その壁の向こうから、スカラ女王が、槍を黒杉の心臓に向けて、突き刺していた。


その光景を見て、周りの時間が止まった気がした。

静けさから、周りには狼がいないのに遠吠えが響く。


「終わりだ」


そして、冷たい声が響く。


「ご主人さまあああああああああああ!!」


何もできずにいた、クレナの泣きじゃくる声も響く。

そして、アイリスは目の前に起こったことを理解すると同時に、止まっていた時が動き出した。


「あっ・・・あっ・・・」


声が出せない、理解したくない現実が、無理やりと突きつけられる。

彼の顔が、徐々に白くなっていく。


「よ・・・う・・・いち?」


そう呟くと、アイリスの結界だけ、解かれる。

アイリスは、黒杉にゆっくりと左右に大きく揺られながら歩く。

そのまま、冷たくなった手を、残りの残った魔力で温める。


「・・・よ・・う・・・いち」


その精神的なダメージは、言語機能を低下させ、まともに喋る事すら出来くなっていた。

ただ、彼の顔を見つめて、名前を呼ぶことしか、できなくなっていた。

その様子を、見ていたスカラは、ゆっくりを目を瞑り、近づく。


「・・・遺言はないな?」

「よう・・・いち・・・」

「アイリス・・・!逃げて!!アイリスッ!」


クレナは、アイリスに呼び掛けるが、反応はなく、上の空。

スカラは槍を構え、そのままアイリスに向けて、振り下ろす。



───【???】



「あれ・・・俺は確か、スカラと戦っていたんじゃ?」


目覚めるて、すぐに見渡す。

黒と白が混じりの灰色の世界。

そして、この見た事のある光景は瞬時に理解する。


「やあ、やあ!お目覚めのようだね!なんだか、最近あったばかりなのに、久しぶりにクロスギくんに会った気がするよ!何話ぶりなんだろうね!」

「っげ・・・でたな・・・てか、何話ぶりってどういうことなんだ?」

「いやいやいや!こっちの話だよ!本当に関係ないからね!気にしないで!」


現れたのは、赤毛で碧眼の胡散臭い奴だった。

今度は、黒スーツと黒ネクタイを付けて、お葬式モードになっていた。

いや、俺は死んでないからな?


「てか、何しに来たんだよ」

「おいおい!何しに来たって、黄泉の国に行こうとしている奴を頑張って止めているんだぜ?」

「は・・・?どういうことだ」

「つまりだな・・・」


その人物は、ふざけた顔から一変して、真剣な顔になる。

真剣になった、顔は目が鋭くなり、思わず後退りしてしまう。

明るい声が、低くなり、そのまま簡潔に伝える。


「クロスギくん、このまま何とかしなければ、死ぬ」


それは俺の余命宣告だった。











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