第50話 宴の話

俺達はスカラ女王の住まう王宮へと向かった。

道中は祭りのように賑わっていた、子供も大人も老人もだ。


死人が何人も出ているという状況なのに、それを忘れるかのように町の人々は歌って、踊って、騒いでいた。


今日ぐらいは暗い事は忘れよう、そうしよう。

今日はおめでたい日だ祝おう。


そんな声が周りから聞こえる、ガラスのぶつかり合う音。

大男同士が飲み比べして、荒くれ者も盛り上がっていた。


もはや、結婚式とはかけ離れた光景だった。


そんな中、俺達は道の真ん中でその様な光景を歩きながら見渡していた。


「す、すごい人ですね・・・」


「あぁ、そうだな」


「酔いそう・・・」


「アイリス・・・、酔いの耐性なさ過ぎじゃないか?」


人混みで酔うって・・・相当耐性がないんだなと改めて感じた。

そう言って、はぐれないようにアイリスは俺の腕の裾を掴む。


妙に視線を感じると思っていたら、男達の視線が集まっていた。

集まるのも無理もないだろう、なんたって美少女達がよってたかって見ているんですもの。


「おい、あの白髪の姉ちゃんよくねぇか?」

「いやいや、俺はあっちのクリーム色の髪の子派だなぁ」

「わかってねぇな、俺はハーアップの水色の髪の毛の子を選ぶぜ」


そういう、ひそひそ話がちらほら聞こえる。


「あ、アクレアさん・・!なんだか恥ずかしくなってきました・・・!」


「そう?私は何も感じないんですが・・・」


どうやら、フェレシアは周りの視線が気になっているようだ。

それは無理もないだろう、話を聞いた感じだと今までずっと疎まれていた存在だったのだから。

しかし、今の成長した姿と綺麗に化粧をした姿を見た者はいないのだから。


「ふふーん、フェレちゃんはもっと胸を張ってもいいのよぉ~、何たって私が育てたのだから可愛いにきまってるじゃなぁああい!」


「は、はい・・・」


カマさんはそう言って、凄く堅そうな胸板を張っていた。

うん、嬉しくないな。


歩いていると、横からいきなり巨漢の男が出てきた。


「おいおい、兄ちゃん!良い"物"沢山持っているじゃねぇか!」


「・・・」


男はそう言って、俺の後ろにいるアイリスを達を眺めるように見ていた。

おい、カマさん!あんたは多分対象外だから、体をくねくねさせんな!

その顔はまるで自分の餌のように目を光らせて狙っているかのようだった。


俺は男の言葉に何か含みがあるような言い方があって、何故かものすごーく


苛立ってきた


さて、この男は俺の大切の仲間にだなぁ・・・

物やらモノやら何だか分からない事言っているけど、

その汚い目で・・・俺の仲間を見るんじゃねぇ!


「なんだ?豚が喋っているぞ?」


「あぁ?今なんつった?」


男は物凄い剣幕で俺を睨む

だが・・・、フヴェズルングの人達と比べるとやはり"弱すぎる"

むしろ、後ろでのオドオドしている、フェレシアさんの方が"凄まじい殺気"を感じる。

本人は無意識だろうけど、豚に対するフェレシアさんの嫌悪感が俺の背中にナイフが10本ぐらい刺さっている感じがした。


俺は"フェレシア"さんにビビッて、冷や汗を掻いた。

しかし、目の前の豚は俺がコイツにビビっていると思っているらしい。


男は手のゴキゴキっ鳴らしながら、額に青筋を浮かび上がっていた。


「あぁ?俺の剣幕にびびっているのか?おー、おねしょしちゃいそうでしゅかー?」


何だか、煽っているらしいが・・・、うん

疾嘉さんの普段の煽りの方が酷いから正直そこまでムカつかなかった。


「ん?あぁ、ごめんな・・・」


「なんだよ、急に謝り出して」


「いや、"人"の言葉を話し出したから・・・哀れだなぁって思ってさ」


その瞬間、男は耐えきれなかったのか、男は叫びながら殴りかかってくる。

だけど、俺の目には男の動きはスローモーションにか見えない・・・


このまま、この男を相手にするのも時間の無駄でしかなかった。

男の攻撃を小さく横に避ける、ストレートパンチは見事に勢いよく空振る。

そして、そのまま転びそうになる男の背中が見える、その首に目掛けて手刀をして気絶をさせた。


うん、下手に動けば大事になるし出来るだけ穏便に済ませたいからな・・・

それに周りの人達が見ている、下手に目立てば顔を覚えられてしまう

まぁ、実際の所、男が叫んだ時点で遅いと思うけどね

それに・・・


黒杉は後ろのにいる女性組を見る。


「ん?ヨウイチどうしたの?」


「いや、なんでもないよ、さぁ、行こうか」


「う、うん?」


アイリスは疑問に思いながら、黒杉について行く。


(こいつら、美人過ぎて既に目立ってるんだよなぁ・・・、それにカマさんも変な意味で目立ってるし)


もう、絡まれた時点でもう顔は覚えられているには変わりなかった。




――――――王宮・門前


俺達は王宮の目の前に着いた。

門の前には門番らしき者が一人一人の招待状を確認していた。


「結構、人がいるな・・・」


多分、此処にいる人たちは殆どの人が貴族なのだろう

衣装を見れば、どれも豪華なのがわかる。


待つこと20分

俺達の番だ


「あらぁん、これが招待状よぉ~」


カマさんはそう言って、胸板から招待状を取り出してくる。

いったい、何処からだしているんだ・・・、ほら見てみろ!

兵士の顔が引きつってんぞ!


「か、確認が取れました、どうぞお入りください・・・」


兵士はそう言って、王宮への扉を開ける。

扉を開けば、広い廊下があり、長く赤い絨毯じゅうたんが真っすぐと続いていた。

その先には、大きな木製の扉があった、扉の前には老紳士が立っていて、俺達が扉前まで歩いて行くと、老紳士がお辞儀をして、ゆっくりと扉を開いた。


「おー」

「す、すごい・・・!」

「主人ー!あそこにご飯がー!」

「ファフニー落ち着きなさい」


扉を開けば、煌びやかなホールが広がっていた。

所々にテーブルの上に豪華な食事が用意されていた、会場の隅側には音楽隊がいて、素晴らしい演奏でさらに華やかに奏でた。


「しゅーじーん!」


「あー、はいはい、食べてきな」


ファフニーは我慢が出来なかったのか、俺の裾を強く引っ張る

まるで、駄々をこねる子供のようだ。

いや、見た目は既に子供だから変わらないのか?


ファフニーは俺の許可をもらうと、アイリスとクレナの手を引いて一緒に食べに行く。


「ん、ヨウイチまた後で・・・」


「ヨウイチ!後でね!」


そう言って、二人は手を振って奥の方へと消えていく。

アクレアとフェレシアはカマさんと一緒に見回りをしていた。


残った俺は・・・待機してるかな。

しばらく、5分経った所で会場は暗くなる

同時に、音楽の曲がかわる。


そこに光の魔法を使って、スポットライトの用に階段の方を照らした。


そこには、紫色の髪の毛、真紅の燃える目


スカラ女王が現れた。


胸には宝石らしきものを付けていた、真紅の眼と正反対に透き通った綺麗な氷のような宝石、

おそらく、あれが氷愛石だろう。


スカラ女王の隣には将来のパートナーであろうの男性が立っていた。

たしか、ニルヴァフと言っていただろうか?


そんな高貴な二人が並ぶと、やはり王族同士なのだろうか雰囲気が違う

傍から見たら、良い夫婦にはみえるだろう。


すると、スカラ女王はお辞儀をして話はじめる。


「皆さん、本日は私達の結婚式に来ていただいてありがとうございます、このような素晴らしい結婚式を挙げられるのは皆様のおかげです。」


スカラ女王は演説をし始める。

俺は聞き流すように俺は窓の外を眺めた


スカラ女王の表情は凄く優しいかった、その優しい表情を見ればどの男もイチコロだろう。

まるで、バルドの父を本当に殺したのかと言うぐらいに疑えるぐらいのレベルだ。

日記の事を思い出すたびに別人のようにしか思えなかった


でも、しっかりと日記にはスカラ女王の名前が書いてあったのだ。

だから、警戒だけは必ずしとかなければならないのだ。


そう考えていると、女王の演説が終わる。

周りにはスカラ女王の名前を呼ぶ者がいれば、大袈裟に口笛を吹くものもいた。

拍手が響く


(結婚式というより、もはやパーティーだな)


俺は窓を見るのをやめた。


「それでは、引き続きお楽しみください」


再び、華やかな音楽が流れる。

同士に周りの貴族たちのパートナーらしき人同士で踊り始める。


俺はこの雰囲気はどうやら苦手の用だ

何処か逃げようとすると、誰かとぶつかってしまう。


「きゃ・・・」


「おっと、すまない・・・」


俺は転びそうになった、女性を手を引いて顔を見る。

綺麗な金髪の青い目をした女性だった。


「・・・!?!?」


女性は物凄く、驚いた顔で俺の顔をジロジロ見る。

俺の事知っているのか?

少なくとも、綺麗な"女性"を見るのは初めてで、会うのも始めましてだ。


「どうか、されましたか?」


「い、いいいいえええ、な、なななななんでもないです!?」


うん、凄い動揺してるんだが、取り合えず何でもなくないのは嘘だな。



――――――


ふぅ・・・、スカラ女王の話は長いんだよなぁ・・・


私はパーティー会場でいつでも動けるようにフリーに動いてくれと言われたのだが・・・、

特にすることないなー、それに周りの貴族は自分のパートナーがいるみたいだし、踊る相手いないんですわ!これがまた!!


グスン・・・、寂しくないもん・・・。

あぁーあー・・・奇跡とか起きないかなぁ・・・。


私は履きなれないハイヒールをコツコツと音を鳴らしながら、巡回をしていた。

すると、誰かにぶつかってしまう、履きなれていないヒールのせいでバランスが崩れる。


「きゃ・・・」


このままだと、派手に転んでしまう!

その時だった、ぶつかってきただろうという相手が転ばないように手を引いてくれた。


「おっと、すまない…」


何処かで聞いたことある声だった、そう安心する声

手を引いてくれた手は暖かく何処か懐かしいような感じがした。


(まさかね・・・)


私は恐る恐ると目を開けると、


まさか・・・


そのまさかだった


私の手を握っているのは、愛しいあの人


黒杉くんだった。


黒杉くんは心配するように私の目を見つめて話しかけてくる。


「どうか、されましたか?」


「い、いいいいえええ、な、なななななんでもないです!?」


あまりの出来事で、頭の中が真っ白になってしまう。


(あわわわわ・・・・、顔が近い近い!?)


私は咄嗟に立ち上がる。


―――――


「んー・・・?」


何処かで見たことあるような気がするなぁ・・・


「な、なんでしょうか?」


落ち着け、私!これはチャンスだ!!う、うんチャンスだ!!


「何処か会った事あります?」


「は、はい?」


どうやら、黒杉くんはこの私、御剣だと気づいていないようだ。

こ、ここは正直に・・・・!


「いえ、初めましてですね」


私のばかあああああああ!

このヘタレ!オタンコナス!!バーカー!!!

改めて、私のヘタレっぷりに後悔し、心の中で泣いた。


「そ、そうか、じゃあ気のせいだな」


うん、やっぱ気のせいだよな

しかし、誰かににてるんだよなぁー、金髪で青い瞳・・・、御剣しか思いつかん。

でも、アイツ男だしなぁ。


「じゃ、俺はこれにて・・・」


「ま、まって・・・!」


綺麗の女性は何やら必死そうに俺の背中を服を掴む。


「あ、あの・・・!」

「ん?どうした?」


せっかくのチャンスなんだ・・・!

こ、ここで勇気を出さなきゃ、いつだすんだ!頑張れ私!言うんだ!!


黒杉くんは黙って、私の顔を見つめる

そんな真っすぐな瞳は思わず目を逸らす。


私は覚悟を決める・・・。


「も、もしも良かったら・・・、一緒に踊りませんか?」


「お、俺と?」


うーん、でも踊ったことないんだよなぁ・・・。


「だ、大丈夫です!私、これでもダンスを教えるのは得意なんです!!!」


これは本当の事だ、良く父親に社交ダンスに付き合わされていたのだ。

なので、リードするのは造作でもなかった。


「そこまで、言うなら・・・」


「・・・・!ありがとう・・・!」


女性は何故か嬉しそうだった。名も知らない女性にだ。

だけど、その嬉しそうな笑顔は俺の心を刺激させた。

女性は俺の手を引いた


「フフ・・・」


「なんだ?そんなに嬉しいのか?」


「えぇ、まぁー・・・そうですね。」


「ふーん・・・、変な奴だ」


俺は名も知らない女性にリードされて踊り始めた。

ダンスを知らない俺でもわかる、この人は踊り慣れているという事に、きっとここまで踊り慣れているとなればよく社交ダンスに出ているのだろう。

対する俺はついて行くだけで精いっぱいだった。

だけど、何故だか踊りやすかった。


「お上手ですよ」

黒杉くんかわいいなぁー、特に踊り慣れてない感じがまた良い・・・!

私は初めて勇気を出してよかったと思えた。

このまま、続けばいいのになぁー・・・。


どれぐらい、過ぎたのだろうか?

お互いの心臓と脈がトクトクと聞こえてくる

一人は失敗しないかと心配

もう一人は好きな人とのときめき


ふと、目が合う。


その瞬間、互いの心拍数が跳ねあがったような気がした。

よく見ると、互いの距離はかなり近かったのだ


お互いに慎重になれば、成る程

心臓の音が大きくなっていく


そして、時は流れ・・・踊りが終わった。


女性は笑顔で言う。


「ありがとう、良い思い出になったよ」


男もお礼を言う


「こちらこそ、良い勉強になった」


互いの手を放す

その瞬間、拍手が聞こえたのだ

その拍手は次第に大きくなっていくのが分かる。


周りを見渡せな、自分たちの周りが人に囲まれていた。


「ブラボー!」

「良いダンスだったぞぉー!」

「素敵よー!」


俺達はいつの間にか、一人で踊っていたようだ。

それを見ていた、観客は二人のダンスを見惚れるように見ていたのだった。


「は、恥ずかしいね」

「あ、あぁ」


隣の女性は、モジモジしていた。


「じゃぁ!またどこかで!」


そう言って、何処かへ行こうとした

俺は思わず聞いてしまった


「君の名前は・・・!」


そう言うと、彼女は小悪魔みたいに舌をだして言う


「いつか、分かるよっ・・・!」


彼女は人混みに紛れて、消えてしまった。

すると、後ろから誰かが引っ張ってくる。

振り向けば、アイリスだった。


「次は私・・・」


「はは、参ったなぁー」


そう言って、今度はアイリスにリードしてもらう事になったのだった。


――――――


はぁー・・・!!

緊張したぁああああ!!


今でもバックバクなんですけどぉおおお!!


でも・・・


でも・・・


御剣は自分の手を見つめて呟いた


「勇気を出せてよかった・・・!」


彼女はそれだけでも満足だった

愛しい彼はちゃんといきているのだから、そして私には贅沢すぎるほどの思い出をまた貰ってしまった。


「ふふ・・・」


思わず笑みがこぼれた・・・

遠くから、黒杉くんとその恋敵を遠くを見つめてそう思うのだった。



――――――


「っく・・・、今回は負けた・・・」


「アイリス?急にどうしたんだ?」


「ん、なんでもない・・・、こっちの話」


「そ、そうか・・・」


俺達は踊り続けた。

そして・・・これから起きる事件に巻き込まれていくという事を知らずに・・・。

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