第25話 森の中で世紀末な声が響き渡るの話




───ガガガガガガガガッ!!!ドドドンッドーンッ!!ザンザンザンッ!



周囲にある岩は抉られ、木は薙倒され、地面にはクレーターがいくつも出来ていた。




「ヒャッハー!逃すかよ!!」

「ヒィ!?」



まさか、言葉にして、「ヒィ!?」を言うとは思わなかった。

赤髪の問題児こと、源城家・次女の紅嘉が、黒杉の背中に向けて、ナイフで斬撃を飛ばす。

迫る斬撃を横に大きく跳び、ギリギリのところで避ける。

すぐに立ち上がり、体勢を立て直して、再び走る。


「くっそおおおおおお!!!」


俺は必死になって、叫びながら、逃げ続けていた。

そして、3人の悪魔が牙を剥きながら、迫ってくる。


「ヒャッハー!!!」

「黒杉さんはあっちに逃げました!!」

「ふぇええええ」


ナイフを持って、世紀末に出てきそうな声を出す剣聖。明らかに100キロ以上ありそうな全身黒鎧で、マラソンランナー顔負けの速度で、追いかけて来る騎士王と、鮮血のグローブをはめて、身体強化でめちゃくちゃ速度で追いかけてくる大聖女。


何故、この状況こうなってしまったのか・・・。

それは、ほんの数時間前。



――――――3時間前



今日から、疾嘉さんが講師になってくれるようだ。

しかし、嫌な予感でしかない。


「し、疾嘉さんがですか?」


シルクさんよりも、幼い少女を相手すると思うと、なんだか、気が引ける。

だが、彼女もフヴェズルングの一人、しかも、13課のとなれば、規格外には変わりない。

それに、月ノ城さんと、15年の付き合いがあるらしいから、少なくとも15歳以上は確定なんだろう。


「私が小さいからって、甘く見ないでほしいなの。あと何か、失礼なことを思われた気がする・・・なの」

「ソンナコトナイデスヨー」

「片言・・・なの」


相変わらず、この方は人の思考を読むのが、すごい優れているというか、全てを見透かさているような気がする。

さて、肝心な修業内容なんだが疾嘉姉妹ともに、他の部屋に案内される。

しばらく、歩いていると、一つのでかい鉄扉があった。

扉には、沢山の尻尾が付いている狐の絵が描いてあった。


「ここは?」

「修業部屋・・・なの」


疾嘉は、扉に触れて、魔力を込める。

ゴゴゴッと、低い音を鳴らしながら、扉が横に開き、光が漏れる。

その先にあったのは、生い茂る森とその奥に滝が流れていた。

ここで何が行われるかというと。


「私以外の姉妹と一緒に、この森で3ヶ月過ごしてもらいます・・・なの」

「はい!?」


こんな、少女と3ヶ月間過ごすというのか、他の姉妹をみる。悔しいが、疾嘉さんと同じが顔立ちだから、美少女だ。

疾嘉は、いつの間にか後ろに手に隠してたナイフをちらつかせながら話す。


「もし、私の妹達に変な事しようとたら刺しますねー」

「いや、俺は巨にゅ・・」


その瞬間、俺の頬を何かを掠めた。

じんわりと痛み出し、頬を触ると、血が出ていた。

後ろに振り返ると、壁にナイフが刺さっていた。

俺は再度振り向くと、いつもぶっきらぼうな顔なのに、笑顔な疾嘉さんがいた。


「何か言いかけましたけど、どうしましたか?」

「い、いえ!!なんでもありません!!ハイッ!」


しかも、急に敬語なる。何よりも、笑顔が怖い。怖すぎる。


黒杉は、二度と言わない事を、ここで誓った。命がいくつあっても、足りないような気がしたからだ。

そして、後ろにいる、アイリスの視線が痛い。見えていないのに視線が物凄く感じる。


「さて、説明を始めますねー」

「は、はい」


いつもの疾嘉さんに戻って、説明を始める。

内容的には、この森の中で自給自足で過ごしてもらう。

あの洞窟にいた頃に、やっていたことだから、ある意味、得意分野でもある。

森以外にも、水辺や草原、砂漠など色々あるらしい。

この基地は想像以上に、広いようだ。

そして、疾嘉は話す。


「私の姉妹と戦ってもらいますのー」


ん?なんかとんでもない話を聞いたような気がする。

姉妹たちと戦うって?

俺はアホ面するが、疾嘉は現実を突きつけてくる。


「はいー、生き残りを掛けたサバイバルゲームですの」


勝てるわけがないだろ!?

全員100LV以上なんだぞ!

俺は絶望している中で疾嘉は話を続ける。


「大丈夫です、ハンデはあげますのでー、流石に私はそこまで鬼じゃないなの」


強制的にサバイバル訓練され、全員、上位職の100レベル越えの姉妹たちと戦わせるとか、この時点で鬼なのは突っ込まないでおこう。

また、ナイフを投げられるのは嫌だからな。


「黒杉さんだけ、魔力感知できるようにしますので、これなら襲撃されても大丈夫なのー」


たしかに、魔力感知あるかないかで助かる。

流石に、3対1で全員が自分の位置が分かるのは理不尽である。

そこら辺の調整は考えているようだ。

いや、それでも、ムリゲーに近いけど。


「ちなみに、アイリスはどうするんだ?」

「この子は、私が育ててあげますのー、古代魔法や創生魔法とか、興味深い物があるので、魔法に特化している、大賢者の私に適任かとー・・・なの」


どうやら、アイリスは疾嘉が指導するらしい。

たしかに、魔法の指導なら大賢者の疾嘉さんの方が良いだろう。

アイリスはこちらを見て近づく。


「どうした?アイリス?」


すると、アイリスは抱き着いてくる。

ちょっと待て、人がいるんだ恥ずかしい。


「ヨウイチと3ヶ月離れるのは寂しい・・・」

「でもなぁ…」


しかし、寂しいというより、何かを決意するような顔をしていた。

アイリスは強い口調で話す。


「でも、ヨウイチはどんどん強くなっていく。私よりも強くなっていく、だから誰よりも隣にいる為に私も強くなる」


そう言った。

俺はアイリスの頭を撫でる。

そうだな、アイリスはそういう奴なんだよな。

後ろの3姉妹の視線が少し痛いが気にしないでおこう。

3ヶ月間離れ離れになるのか、いつもより長く抱きしめていた。

しばらくして、アイリスは離れる。


「ヨウイチ、3ヶ月後」

「ああ、それまで元気にしてろよな。」

「では、アイリスさんいきますよー・・・なの」


疾嘉の掛け声と共に、アイリスは他の部屋に案内されるのであった。

そこで、元気な声で声を掛ける赤髪少女がいた。


「よし!はじめるわよー!」

「ああ、よろしく頼む」


確か、紅嘉だったな。

その順番に水嘉、雷嘉の順番に横に並んでいた。

ちゃんと顔をみると、流石姉妹だけではあって、そっくりだ。

ただ違うとすれば髪色ぐらいだった。

全員同じ髪色なら分からなかっただろう。


「じゃあ、それぞれの位置についてねー、黒杉さんはその扉から入ってね」


雷嘉がそう言うと、3人は同時に消える。

忍者かよ・・・俺は扉に入って、修業がはじまったのだが・・・


――――3時間後


「くそおおおお!、見つかるの早すぎだろぉ!!」


僅か、開始30分で、全員に見つかり、大ピンチである。

なんですか、この姉妹たちは!?紅嘉は走るだけで、周りの木が倒れていくし、応戦しようと、【極限砲撃】で攻撃すると、雷嘉が突進しただけで、ビームを粉砕するし、水嘉に限っては、もはや、大聖女という、狂戦士だろ!?なんで、殴るだけで、地面にクレーターができるんだよッ!!回復しろよ!!



「このぐらいでしたら、魔力感知無しでも見つけられますよ」


そう言うと、雷嘉は、名前の通りに雷のようなスピードで走り抜け斬りつけるが、何とか避けることができた。

しかし、水嘉が追撃してくる。


「ふぇえええええ、待ってくださああい!」


水嘉はジャンプして、俺に向って殴りかかってくる。

咄嗟に、【黒姫ノ影】を使って、移動する。

間一髪で避けると、そのまま、地面に向ってパンチする水嘉。

その瞬間、デカい音と鳴らし、地震が起き、砂煙が舞う。

そして、視界が晴れると、当たり前のようにクレーターができる。

おい!あんた大聖女だろ!!

後ろを振り向くと、紅嘉がいた。


「ヒャッハー!がら空きだぜ!!!」


そう言って、ナイフで攻撃する、俺は黒姫ノ紅でガードする。

思っていた以上に力がつよい。

俺はそのまま力に負けて、後ろに吹き飛ぶ。

先程、紅嘉が斬り落とした、3mぐらいの丸太を"片手"で、そのまま投げる。


「お灸を据えてやるぜえええ!おらああああああ!!!【轟速灸】!!」

「バッキャロー!!!せめて、剣で投げろよ!?てか、俺は何もしてねえだろうが!!」


襲い掛かる丸太が、まるで、ロードローラーが新幹線並みの速さで近づいてくるように見えた。

【黒姫ノ罪】で、剣状にして、【黒姫ノ炎】を発動させ斬りつけ、爆発させる。

というか!剣聖なら剣を使えよ!!


「ヒャッハアアア!地獄行のチケットの準備できたかあああ!」

「紅嘉・・・もう少し、落ち着いたら?」

「ふえええ・・・・」


そして、3人は並んで、俺を見つめる。

苦笑いしがら、森の中で疾走し続けた。

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