いつか出逢ったあなた 17th
ヒカリ
第1話「知っ知らねーよ、あんなブス。だいたい俺の好みは…あっ…」
「知っ知らねーよ、あんなブス。だいたい俺の好みは…あっ…」
「……」
あたしが後ろに立ってることに気付いた
「なな何だよ、本当のこと言っただけだろ…」
叱られた保育園児みたいな目で、あたしを見た。
あたしは…
「
パチッ。
母さんの声で目が覚める。
ベッドに起き上がったままボンヤリしてると。
「あら、まだそんな格好?朝の
母さんがそんなこと言いながらあたしの頭をクシャクシャっとした。
「…お姉ちゃんは?」
「とっくに行ったわよ。」
「…お兄ちゃんは?」
「さっきまで
「…
「あ、忘れてた。」
母さんは、ポンと手を叩くと。
慌ててあたしの部屋を出て行った。
うちは、大家族だ。
あたしの両親、祖父母、大おばあちゃま、双子の兄姉、叔父夫婦、おまけに、同じ歳の叔父。
順を追って説明すると…
あたしの両親は、超有名人。
母さんは、メディアに出ない「SHE'S-HE'S」というバンドのボーカリスト。
父さんは、メンバーが変わった今でも「F'S」というバンドでボーカルをしている。
おじいちゃまは、映像会社の社長。
おばあちゃまは、フラワーアレンジメントの先生。
大おばあちゃまは、一度華道の世界から引退したものの…すぐに復帰。
今も多くの生徒さんを抱えている。
あたしより三つ歳上の双子の兄姉は。
お兄ちゃんが大学三年生。
お姉ちゃんは、
その生活は一般的なんだろうけど、桐生院家には新鮮で、みんなお姉ちゃんの仕事ぶりには興味津々。
そして、叔父さん夫婦。
その片割れの
そして、あたしと同じ歳の、あたしの叔父さんで母さんの22違いの弟、
偶然とは、恐ろしいもので。
母さんと、あたしと、
三人とも12月24日生まれ。
父さんは。
「俺の子は、誰も音楽方面に興味がないのか!?」
って、嘆いてるけど。
実は、お兄ちゃんがギターを内緒で弾いてるのを、あたしは知ってる。
将来は映像会社を手伝うなんて言ってるけど、本当は音楽方面に走っちゃうんじゃないかな。
「
「あー…今行くー…」
寝ぼけた声で返事をして、あたしは制服を着る。
あくびをしながら階段を下りて大部屋に向かうと、そこには寝ぼけた顔の
「…おはよ。」
「…おっす。」
「…眠そうだな、
「…父さんこそ。」
「
母さんに言われて時計に目をやる。
…八時。
「
「…歩くのが好きとか言ってなかったっけ。」
「歩くより、食べたい。」
目の前に並んだ朝食を食べ始めると。
「
父さんが頬杖ついて言った。
「うん、四時から。」
「何の撮影だ?」
「靴メインだったかな。」
あたしは、モデルだ。
「セーターのポスターは良かったな。」
「母さんにそっくりって言ってたやつ?」
「ああ、あれは
父さんはクールな人だけど。
母さんを激愛している。
「うし、行くぜ、
「あ、待って
髪の毛を三つ編みしながら玄関に向かう。
「定番だな。」
「学校だもの。」
少しだけ乱視の入った眼鏡をかけて。
「行ってきまーす。」
大きな声で言うと。
「いってらっしゃい。」
縁側で、大おばあちゃまが手を振ってるのが見えた。
「おまえさ、モデルしてるくせに、学校ではオシャレとかしないわけ?」
自転車を出しながら、聖が言う。
「学校には制服が一番オシャレじゃない。」
「三つ編みも?」
「うん。」
「わかんねーな。それだから、おまえがモデルしてるのがバレないわけだ。」
あたしがモデルをしていることは、誰一人知らない。
人付き合いが下手だから、友達もいない。
教室では、いつも自分の席に座ってるだけ。
バレないって言うか…興味持たれてないからだよね。
「ま、誰がブスっつったって、俺はおまえを知ってるから、こいつ目ぇ悪いなー、ぐらいにしか思わねんだけど。」
懐かしかったな…中学一年の時の…
「おまえ、進路希望の紙出した?」
「まだ出してない。なんて書こうかなと思って。
「おう、進学。」
「桜花?」
「ああ。遊びまくってやる。」
「そんなに余裕あるかなあ。」
「むしろ勉強する余裕があるか、心配だぜ。」
「えー…」
九月の空は、もう秋の気配で。
そこまできてる十月が、なんとなく寂しい感じがした。
* * *
「
学校の廊下、同じ名前が呼ばれてる。なんて思いながら歩いてると…
「
肩に手が掛けられた。
「…はい?」
振り返ると、そこには一年生の
学校で声を掛けられた…っていう事より、彰君に声を掛けられた事に驚いた。
「久しぶりね。」
お母さんはSHE'S-HE'Sのベーシスト、
うちと同じでバンドマン夫婦。
親同士が仲いいから、
だから、幼馴染感覚なあたしに対しても…自分から話しかける事なんて、めったにないんだけど。
「あの…」
「うん。」
最近、男の子までもがきれいで。
あたしなんて、モデルをやってられるのが不思議。
周りで、女の子たちが
…そして、若干睨まれてる風なあたし…
そのバンドで
ちなみに、そのDEEBEE。
ベースは父さんのバンドでギター弾いてる
ドラムは、母さんのバンドのドラマー
当然のことながら、みんな幼馴染感覚。
父さんは、このバンドのことを。
「SONSって名前にしろよ。」
って、大笑いしてた。
もっとも、親同士が親戚になりたいがために決めた許嫁だから、本人たちはどう思ってるのかわかんないけど。
佳苗ちゃんは去年から女優としてブラウン管に登場してる人気者。
二人が一緒にいるとこなんて見たことないから、きっと許嫁の件も忘れられてるんだろうな。
それに
女の子に興味あるのかな…
「神さんから…何か聞いてない?」
「父さん?」
父さんは、うちに婿養子にきた。
だから、芸名はもとの名前の
SHE'S-HE'Sのメンバーは名前を明かしてないから、桐生院姓のあたしが有名人の娘だなんて、誰一人思ってない。
「どうして?」
「この前レコーディングを見に来られて…」
そういえばデビューしたんだっけ。
「難しい顔して…帰ってったから…」
父さんは、みんなに恐れられてる。
名前は神でも中身は悪魔。とか。
「難しい顔は元からだけど。」
「…じゃ何も?」
「うん。それに家では仕事の話なんてしない人だしね。」
「え…っ、全然?」
「うん。全然。
「…常に。それで夫婦喧嘩、親子喧嘩なんてしょっちゅう…」
「えっ、そうなんだ。」
「もし…神さんから何か聞いたら…」
「ふふっ。分かった。すぐ言うね。」
「うん…よろしく…」
そっか…評価が気になって、わざわざあたしに。
何も聞いてないのは残念だけど、久しぶりに話せた事は嬉しかった。
そんな想いで
「
またもや名前を呼ばれて振り返る。
すると、そこには手招きしてる
「?」
「今の、何。
「父さんがDEEBEEのレコーディングに行って、難しい顔して帰ったから気になってたみたい。」
「わー、そりゃ全員が気にするだろーな。」
天変地異案件を脳内で繰り返して、小さく笑う。
でも確かに…
彰君って、それほどに自分から人に話しかける事ってない。
「で、何?」
「ああ、そうだった。これ。」
そう言って、
「…どうしたの、これ。」
TAXの、来日コンサートチケット。
あたしが昔から好きなロックバンド。
チケット発売日に仕事してて買いに行かれなくて。
いつか父さんに頼もうかな、なんて思ってたんだけど。
父さんが、このバンド、あまり好きじゃないからなあって困ってたのよ。
「
「
「何でおまえらって、そんな険悪なわけ?昔はすっげ仲良かったのに。」
「別に険悪なんかじゃないけど。」
「そっか?俺には険悪に見えるぜ?」
「クラス違うし、別にしゃべることもないから。」
「でもさ、このお礼ぐらいは言えよ。」
「…わかってる。」
「あ、チャイムだ。じゃあな。」
「ありがと。」
「それは、
走ってく
あたしは、チケットをポケットにおさめる。
小さな頃から仲良しだった。
父さんのバンドの家族、母さんのバンドの家族。
みんな、あたしにとっては幼馴染みたいに育った。
…あたしだって、
でも、あれ以来、
ムリヤリ理由を聞き出すのも性に合わないし。
別にいいや…で、かれこれ五年経ってしまった。
その間に、あたしはモデルとしてデビュー。
それぞれ、道を進んでるし。
このまま会話もなく卒業ってなるはずだったのかな。
「あ、やば。」
廊下歩いてると、五限目の先生が歩いて来てるのが見えた。
あたしは小走りに教室に向いながら。
ポケットのチケットをあったかく感じてた。
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