いつか出逢ったあなた 16th

ヒカリ

第1話 朝霧鈴亜18歳

「今度は、いつ会える?」


 あたしは、上目遣いでまこちゃんに問いかける。

 すると、まこちゃんは少しだけ首を傾げて。


「連絡するから。」


 って。


「…いつも、そればっかり。結局あたしが会いに来ないと会えないのね。」


 盛大に唇を尖らせる。

 何だか…会いたいのはあたしだけみたいじゃない…。



 あたしと、まこちゃんは恋人同士。

 だけど、それは誰にも秘密。


 と、いうのも。

 あたしのお兄ちゃんとまこちゃんは、同じバンドのメンバーだから。


 …あたしは、別に打ち明けてもいいかなって思うんだけど…


光史こうし君は妹思いだから。」


 って、まこちゃんが秘密にしたがっちゃって。

 …ま、それも謎めいてて楽しいかもしれないけど…

 思うように会えないのは、やっぱり寂しい。



 出会った頃は、すごく楽しくて…毎日が夢のようだったけど。

 最近、まこちゃんはあたしを避けてる。

 気がする。



「…嫌いになった?」


 あたしが、つまんなさそうにつぶやくと。


「まさか。」


 まこちゃんは、優しく笑いながら。


「さ、もう帰んないと、遅くなるよ。」


 あたしの手をひいた。


 …いつまでたっても、子供扱い。

 こんなんじゃ、あたし…他の誰かのものになっちゃうよ?

 あたし、モテないわけじゃないんだから。


 そう…何度も言いかけて…飲み込む。



 まこちゃんは、可愛くて。

 だから、いじめたくなったり…

 ううん、そんなことしちゃダメって思ってみたり…


 あーあ…


 まこちゃん、あたしのことどれくらい好きなんだろ…



 * * *




鈴亜りあ、遊びに行かない?」


 同じクラスの佐和さわが言った。


「どこへ。」


「クラブD。」


「パス。」


「えー、行こうよー。鈴亜りあと踊りたいって男の子、たくさんいるんだよ?」


「あたし、彼氏いるし。」


 あたしが興味ないふりして答えると。


「ふっるーい。彼氏がいたって、遊ばなきゃ!青春は一度だけなのよ!?」


 佐和さわは両手を握りしめて大げさに言った。



 そりゃ、佐和さわの言うこともわかるけど…

 あたしの頭の中は、今まこちゃんでいっぱいなんだもの。

 まこちゃんに似合う女の子になりたい。

 だから、肌のお手入れも、髪の毛のお手入れも、爪のお手入れも抜かりなくやりたい。


 だから…


 すごく忙しいの!!



「いいの。あたしは、その青春を彼氏に捧げるから。」


 笑ってみせる。


「…信じらんない…」


 佐和さわの大げさな態度を横目に、あたしは窓辺にもたれる。



 お兄ちゃん、今日からレコーディングって言ってたな。

 ということは、しばらくまこちゃんも忙しいのね。


 あーあ。

 もっと一緒にいたいなあ。

 朝から晩まで、ずーっと一緒にいたいのに。

 あたしたちのデートは、休みの日でもほんの数時間。

 まこちゃんは、五時には、あたしを家の近くまで送り届ける。



 今年の春、お兄ちゃんが結婚して。

 あたしの結婚願望に火がついた。

 まこちゃんの、お嫁さんになりたい。

 そう思って…

 あたしの進路希望用紙は、まだ白紙のまま。


 高校出たら、結婚しよう…って、言ってほしいのに。

 まこちゃんは、そんなこと、一言も言わない。

 だいたい、あのバンドで独身なのは、まこちゃんだけ。

 影響されないのかなあ…



鈴亜りあ、一回だけでいいから、お願い!」


 佐和さわが、相変わらず両手を合わせてる。


「…考えとく。」


 あたしは、気のない声で返事する。

 今は、それどころじゃないんだってば。


 まさしく、まこちゃん一色の朝霧あさぎり鈴亜りあ、高校三年の秋です。



 * * *



「いやっ。帰んないっ。」


 あたしは、ワガママを言う。

 まこちゃんはため息をつきながら。


「…鈴亜りあ。」


 小さくつぶやいた。


 夕暮れは夕闇に変わり始めてる。

 海の見える公園。

 久しぶりの、遠出。



「心配かけるといけないから。」


「何が心配よ。今時、中学生でも五時に帰んないわよ。」


「でも、もう暗くなってきたから。」


「そんなこと言って…まこちゃん、あたしのこと飽きたんでしょ。」


「なわけないだろ。」


「じゃ、どうして一緒にいてくれないの?あたしはずっと一緒にいたいのに…」


 涙目になってしまった。


 まこちゃんは、そんなあたしの顔をのぞきこんで。


「…じゃ、もう一時間だけだよ?」


 って…


「…本当?」


「ああ。」


 やったー!

 言ってみるもんだなっ。

 俄然、あたしは浮かれてしまう。



鈴亜りあ。」


 あたしの足取りが軽くなったところで、まこちゃんが言った。


「ん?」


「進路、決めた?」


「……」


 思わず、固まってしまう。

 まさか、お嫁にもらってよ、なんて。

 あたしから言えない。



「まー…まだ…考え中…」


 あたしが低い声で言うと。


「…そ。」


 まこちゃんは、それ以上聞かなかった。



「そういえば、何が欲しい?」


 突然、まこちゃんの笑顔。


「え?」


「誕生日。来週だろ?」


「…覚えててくれたの?」


「当然。」


 嬉しい〜!

 飛び跳ねるようにまこちゃんに抱きつくと。


「り…鈴亜りあ。」


 まこちゃん、うろたえてる。

 もう、純情なんだから。



「何でもいい。まこちゃんのくれるものなら。」


 あたしは、目を閉じてつぶやく。


「…何でも?」


「うん。」


 あごを持ち上げられて…キス。

 ドキドキしちゃう。

 まこちゃんは、めったにキスしてくれない。

 付き合いはじめて一年と三ヶ月。

 まだ、数えるほどしか経験のないキス。


 でも…それでも嬉しい…。


 まこちゃんとの時間は…あたしにとって、何よりも大事な宝物だもの。

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