喰田 先春 (くいだ さきはる) フリーター 25歳

 大学を卒業して二年と少しが経った。友達は順当に就職し、全国各地に散らばっている。それなのに、俺はと言えば就職も出来ずコンビニバイトで日銭を稼ぐ毎日だ。彼女なんて当然おらず、俺と遊んでくれる友達も居ない。家族は就職しない俺に呆れ果て、完全に放任している。連絡を寄越してくることも無い。まあ、俺から連絡することも無いが。

 このままでいいのか。そんなことは何度考えたか分からない。いい、という結論に達したことも無い。

 ため息が出る。自分の不甲斐なさに。

 分かってはいるつもりだが、行動できる体力と自信がない。就職活動の時だってそうだ。面接を1,2社受けたものの、それで終わり。色々と質問をされたけれど、はっきり自信を持って答えられた記憶がない。自分でも落とされることに納得してしまっていた。逆の立場なら、俺みたいな人間を採用なんてしたく無いと思う。やる気というものを感じられないからだ。

 そうして結局、フリーターしか道が無かった。

 持つべきではないプライドもあり、実家には帰らなかった。毎日バイトをして、ギリギリで生きている。なんの生産性も無い毎日が続いている。

 ジリリリリリと、置時計がけたたましく鳴った。

 不快感を覚えるその音を止め、俺はベッドからゆっくりと上半身を起こす。時刻は夜11時。バイトへ行く準備をする時間だ。部屋着から外出用の服へ着替え、ぼさぼさの髪を整える。顔を洗い、歯磨きをした。コーヒーを一杯だけ飲むと、コップを洗い、カバンの中に財布を入れた。

 部屋の電気を消し、鍵を持って靴を履く。ドアを開けると、真っ暗な空が目に飛び込んで来た。近所の部屋の明かりが見える。そこには仕事終わりの人がビールでも飲んで一日の疲れを癒しているのだろうと想像すると、少し泣きたくなった。

 鍵をドアに差し込み、ガチャリと捻った。

 とぼとぼと重い足を動かし、コンビニの夜勤に向かう。この不甲斐ない毎日がいつ終わるのだろうかと、自分の行動力の無さを棚に上げ、神様に願っていた。



「いらっしゃいませー」

 何度言ったか分からない言葉を今日も繰り返した。何度行ったか分からない作業を今日も繰り返した。きっと明日も明後日も、来月も、来年も繰り返しているような気がして、少し寒気がした。

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