第10話 夏の大三角形

中学1年 夏




もうすぐ終業式のある日。僕は佑輝に昼休み食堂へ呼び出された。小学3年からの付き合いだが、呼び出されるのは初めてだった。




食堂へ行くと入口で佑輝が既に待っていた。




「佑輝、すまん。待たせたか?」




「いんや、まったく。まぁ、食べながら話そうぜ。」


佑輝の顔は少し困っているように見えた。




券売機で佑輝は親子丼を買った。


僕はカレーとラーメンで迷ったが、ラーメンにした。




食堂のおばちゃんからラーメンを受け取り、2人で向かい合って席についた。




「いただきます。」


2人で声をそろえて言う。


何となく習慣づいてること。




佑輝は黙々と食べ始めた。


僕も話さないことに戸惑いながらラーメンをすすった。




親子丼が3分の1減ったところで佑輝がテーブルの上の漬けものをとったとき、不意に言った。




「俺、楓に付き合ってくれって言われた。」




僕はラーメンをすするのを思わず止めた。口から麺が出ている状態。




佑輝は黙々と食べている。




僕は口から出てしまっている麺をすすりあげた。


(まさか…楓が…)


色々と考えた。僕は楓の事が好きだが、同時に楓とは親友でもある。同じく親友の佑輝の事を好いていることは薄々分かっていた。




「ゆ、佑輝はどうすんのさ。」


無難に尋ねる。




佑輝は箸を止め首をかしげながら強く目を瞑った。




「OKしようかなと思う。」


佑輝はそう言いながら箸をテーブルに置いた。親子丼はまだ半分残っている。




僕は思考が止まってしまった。




「おい」


佑輝が少し乱暴に呼んだ。


「ん、何」


思考を起こし答える。




「どう…思う…?」


佑輝は目を伏せた。




どうしようか…ここで僕が楓の事が好きだと言ってしまってもいい。いや、むしろ佑輝はそれを聞きたいのかもしれない。


でも、佑輝は楓の事が好きなんだろう。


お互い、それは暗黙の了解で言わないようにしている…んだと思う。


最善の答えが分からない。


それでも答えを探す、きっと最善は…




「よかったじゃん、応援するよ。」


最善は自己犠牲なんだと思う。


しかし佑輝の反応がなかった。


佑輝を見ると拍子抜けしたような顔だった。




「日向…お前、それでいいのか?」


真剣な顔をしていた。


僕は涼しげな顔を装って


「何が?」


「お前は…」


佑輝が何かを言う前に言った。


「勘違いしちゃダメだよ、佑輝」


「え?」


「僕は楓の事を妹みたいに思っているんだ」




佑輝は何か言いかけたが口を閉じた。


「そうか…」


僕は少しおどけた顔で


「だからお幸せにね♪」


と言ってラーメンをすすった。




佑輝が何か僕に言いたかったんだろう。


気にはなったが、聞きたくなかった。


この返しが僕にとって一番の防衛で、心に傷がつかないと思った選択だ。


でもなんとなく、分かっている。




佑輝は僕と違って本当に楓の事を妹のように思っているんだ。


そして、僕が楓の事を異性として好きになっている事を知っている。


猶予を佑輝はくれたんだ。


僕はそれを無駄にした。




ラーメンは伸びきっていて、そしてあんまり味もしなかった。

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