殺人事件の解決依頼? お前どの口で頼んでるの?

新巻へもん

第1話 事件発生

 魔族の都カウォーンで一番と自称する飲食店「暗楽亭」の主人であるゴブリンのオゴリが深夜に自宅の2階の居間で死んだ。死因は幅広の大型剣による背後からの一突き。余程強い殺意を抱いていたのか剣は体を刺し貫き、オゴリを床に串刺しにしていた。


 第一発見者は、オゴリの妻であるバーガ。断末魔の叫びを聞いて駆け付け、呼びかけたが返事が無く、鍵穴から覗くとオゴリが倒れているのが見えた。慌てて、居間の扉を開けようにも中から施錠されている。警備隊が駆けつけ、開錠を試みたが、警備隊付きの魔法使いも街一番とされる金庫破りも失敗し、仕方なく破城槌で扉ごと破壊してやっと侵入する始末。


 オゴリは左手にランプを持って、右手に金貨をつまんでおり、凄まじい苦悶の表情を浮かべていた。魔物の守護神カマテーの神官が死亡を確認。犯人の出入りした場所を確認しようとした警備隊は困惑する。その居間には窓が無く、唯一の出入口は破壊した扉だけだった。


 その扉の錠は獣人の名工ガルコーンによるもので、大枚金貨20枚もした特別製。同型品で検証したところ、対となる鍵を使わずには誰も開けることはできなかった。オゴリの部屋の鍵はオゴリのポケットから発見される。


 凶器の持ち主は程なく割れた。繁華街で暗楽亭とは反対の端に新しくできた「こうもり庵」の経営者である吸血鬼ビジャール。警備隊による尋問に対して、凶器の所有者であることは認めたものの犯行は否定した。そもそもオゴリの家を訪ねたこともないと主張し、犯行時刻頃には店の奥で帳簿をつけていたと言う。


 事件の3日前には、路上でオゴリとビジャールが激しく言い合う姿が目撃されていた。目撃者によるとランプで飾り立てた店の看板を魔法で空中に浮かせて客寄せにしていた暗楽亭のアイデアをこうもり庵がパクったとオゴリがビジャールに向かって口汚く罵っていたと言う。


 バーガがオゴリの部屋に向かう途中、廊下においてあった鏡にドクロを白く染めたマントがチラリと映ったと証言し、犯行当夜のビジャールの衣装に似ていた事でビジャールは逮捕された。


 霊冥族の王パラドによる死霊術ネクロマンシーでオゴリを一時的にアンデッドとして蘇らせ、死亡時の事を聞いたが、薄暗い居間で後ろからいきなり刺されたことしか分からないと言った後、体が腐り落ちてしまい、それ以上のことを聞き出すことはできなかった。


 こうして、ビジャールの処罰を求めるオゴリ、犯行を否定するビジャールの争いに加え、ガルコーンの錠が実は粗悪品だったのではないかという噂、ネクロマンシーに長けたパラドが完全にオゴリを蘇らせることができなかったのは怪しいという言説がカウォーンを駆け巡った。今まで彼らの共通の敵として恐れられていた勇者の脅威が当面遠のいたということもあって、種族間の不満が一気に噴き出し、各種族による種族間対立の様相を示すことになる。


 この裁定を求められた魔王である吸血王のビジャは判断を下せずにいた。一応は魔王の地位を保っていたが、勇者を退けたのは元魔王ガズハということが知れ渡り、求心力が低下する一方のところにおきたこの事件。皆が納得できる華麗な説明ができなければ有罪・無罪どちらでも致命的な結果をもたらすことは明らかだった。


 追い詰められたビジャは、明敏で知られた元魔王ガズハの元を訪ね助力を乞うことを決断する。背に腹は代えられなかった。諸王に働きかけガズハを魔王の座から追って20年。ビジャは初めてその住まいの戸を叩くことになる。


 

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