第14話 ユニーの能力
サカナのシッポ亭の女将さんや獣人の開拓者達に見送られながら俺達三人と一匹は集落の中を流れている川に沿って歩き始めた。
「この先には『ゼヴェロスの爪痕』と呼ばれている大地の裂け目が南北に走っているの。そこに架かっている橋を渡ったらようやくこのオルタフォレストからおさらばよ」
「ようやくか。この世界に来てからまだ森しか見てないからな。ようやくそれ以外の景色を拝めるな」
「ゼヴェロスの爪跡は、かつてイクシオンが暴れた跡だとも言われているのですよー」
「イクシオンが?」
「はいなのです。数百年前に現れたいちばん新しいイクシオンが遺したものだと言われているのですー」
「裂け目もひとつだけじゃなくていくつかあるんだけど、それがまるで獣の爪痕のようにも見えるらしいわよ」
「なるほどな」
そう言いながら横目でユニーを見るが、当のユニー本人(本馬?)は俺達の話は聞こえているはずなのに、まるで自分とは関係ないことかのように隊列の先頭を歩いて……あれ?
「なあソフィー、クレア。ユニーのやつなんだか大きくなってないか?」
「あれ、言われてみれば確かに……一回り大きくなっているわね」
「そういえばそうなのですー。今のユニーちゃんじゃお部屋にいっしょに泊めてあげるのは無理だったと思うのですー」
二人も認めたということは、やはり俺の気のせいではないみたいだ。
体躯も大きくなっているし、角もはっきり主張しはじめている。
今のユニーの姿だったら、はじめて見た時に角うさぎと間違えたりすることもなかったと思う。
「イズル、ユニーのチョーカーに付いてる宝石って透明じゃなかったかしら?」
言われて見てみると、確かにぼんやりと赤くなっているように見える。
「なあユニー、おまえのその宝石なんで赤くなってるんだ?」
「クー!」
ユニーに聞いてみても言葉が分からないし、無駄だよな。
「ク、クー!」
「か、かわいいのですよー!」
「そうね、これはかわいいわ」
やたら張り切っているユニーのお尻と尻尾が左右に揺れている様子は確かにかわいいな。
その後もみんなでユニーが大きくなった理由や宝石のことを話しながら数時間歩いていると、だんだん滝の音がはっきりと聞こえるようになってきた。
「フォールン・フリューよ。落差ならこの世界で最大級の滝よ」
フォールン・フリュー、つまり『堕ちた川』っていうところか。
『落ちた』ではなく『堕ちた』っていうところがユニコーンがイクシオンに堕ちたという言い伝えと合わさっているのかもしれないな。
「わたし達が歩いてきた川はその滝でゼヴェロスの爪跡の遥か崖底まで落ちてしばらく地下を流れて、ずーっと先でまた地上に出てきて海まで続いているのですよー」
「あれ? じゃあその爪痕の橋を渡ったらもう川沿いに歩いていくことはできないのか。ソフィー、道大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。さっきも言ったけどそこで森も終わっているから、その先は道も整備されていて魔物の数もずっと減るもの」
「なるほど。クレアもアールヴァニアは初めてなのか?」
「はい、はじめてなのですよー。とっても楽しみなのですよー」
「はいはい二人とも、もう着いたわよ……って、あれえ?」
崖だ。物凄く深いし、反対側までもかなりの距離がある。
グランドキャニオンの倍の規模にしたようなスケールだろうか。
しかし、あるはずの物が無かった。橋桁だ。
「イズル、これ見て」
「あー……切れてしまったのか」
ソフィーが指差したのは橋を支える支柱の役目を担っていたのであろう二本の大木だった。
ツルを幾重にも束ねて太く強化したものが結びつけてあるが、途中で二本とも切れてしまっていた。
ソフィーの話によると橋桁も欄干も全てツルでできたいたらしい。
かずら橋っていうやつか。確か四国の祖谷にあったのをテレビか雑誌で見たことがあったような気がする。
それにしてもツル大活躍だな、この世界は。いや、この森近辺のことだけなのかもしれないけれど。
とりあえず橋が無いものはどうしようもないので、今日はここでキャンプを張り、翌朝から爪跡の森側を南下してアールヴァニアへ向かうことにした。
「結局今日はあまり進めなかったな」
「そうね。でも今から崖沿いに進んで行ったら途中で夜になっちゃうわ。それなら少し開けているここで朝まで休んだほうがいいわよ」
「うん、俺も賛成だ。クレアもいることだしな」
クレアは小さな子供特有のことなのか疲れた様子は見せていないが、実際にはだいぶ疲れはたまっているはずだ。
「クレアちゃん、お料理作るの手伝ってくれるかしら?」
「はいなのですー!」
アイテムボックスから取り出したレッサーモアの肉を、角うさぎの時と同じように焼いて食べた。クズ切りの角うさぎスープ付き。これは宿の女将さんが出発前に渡してくれたものだ。
「このモア、旨いな。なんだか疲れが吹っ飛んだ気がするぞ」
「気のせいじゃないわよ? レッサーモアの肉は魔素をたくさん持っているから体力や魔力の回復効果があるのよ」
「ということは、もっと強い魔物の肉を食べたら回復効果も上がるのか?」
「必ずしもそうとは言えないけど、傾向としてはそうね。でも強い魔物の肉は流通量が少ないし高価だから食べられる機会なんてほとんどないわよ」
「それもそうか。冒険者だってわざわざ強い魔物に挑んだりしないよな」
ゲームとは違い生き返ったりすることはできないからな。
安全マージンを大きく確保して確実に倒せる魔物や安全な採取で稼ぐのはある意味あたりまえだよな。身の丈に合わない仕事をすれば早死にしそうだもんな。
そして早めに就寝。見張りは俺、ソフィー、クレアとユニーのコンビの三組で回すことにした。完全に森の中というわけではないし、クレアの番の時もユニーが一緒なら大丈夫だと考えた。
特に何も起こらず朝を迎え、簡単な朝食を済ませると、さっそく歩き出す。
崖沿いをコンパスを確認しながら歩いていると、いつしか再びオルタフォレストの森の中に踏み入っていた。
しばらく何事もなく歩いていたその時。
「イズル、角うさぎの群れよ!」
樹の陰から十匹近い角うさぎの群れが飛び出してきた。
油断していた。数日の間安全な集落にいたこととメンバーが増えたことで、ここが危険な森の中であるということをすっかり忘れてしまっていた。熊撃退スプレーを使うのを忘れてしまった……!
咄嗟のことに何もできずに立ち尽くす俺とそんな俺にしがみつくクレアを後目に、ソフィーが矢を番えるが、数が多く素早いうさぎに狙いを定めきれない。
「だめ、この数じゃわたしじゃ倒しきれない!」
一匹の角うさぎがソフィーに飛びかかるが、その角うさぎをめがけて小さな火球が放たれた。
『ピギィ!』
うさぎは驚いて距離を取る。ダメージはほとんどなさそうだが、驚きとまどっている。
ドドドドドドッ!!!!!
ユニーの角の先からテニスボールサイズの小さな火球が角うさぎの群れの中に打ち込まれていく。
「ユニー!?」
呆然とした俺はユニーの名を呼ぶが、ユニーはちらっと振り向いただけで火球を打ち込まれ怯んでいる群れの中に飛び込み、角でトドメを刺していく。
ソフィーも慌てて弓を構え、角うさぎの額に矢を中てて行く。
しばらくすると、息のある角うさぎは消えていた。
「みんなすまない。俺が油断してスプレーを忘れていたせいでこんなことになってしまって……」
しかし、ソフィーとクレアは俺の言葉には反応せずユニーを見て呆然としていた。
「ユニーちゃんが火の魔法を使ったのですか……?」
「そんな……ユニコーンは聖属性の魔法しか使えないはずなのに?」
「威力はクレアが得意な火魔法ほどじゃなかったのですが、驚いたのですよー……」
「このことは報告したほうがいいのかしら?」
「痛っ」
そんな彼女達を見ていると、俺の右腕の服が破れ、血が滲んでいることに気が付いた。さっきの騒ぎでどこかに引っ掛けたか何かで怪我をしてしまったらしい。
「クー」
ユニーが近付いてきて角を光らせる。すると俺の傷口も同じ暖かい光に包まれ、傷口がふさがり痛みも消えてしまった。
「ありがとな、ユニー」
「クー」
お礼を言って頭を撫でてやると、嬉しそうに一声鳴いてしっぽを揺らす。
ソフィーとクレアはそんな俺達を見ながらまだ話しこんでいた。
☆彡
「やっと見えたわ。アールヴァニア国ドライアド地区とオルタフォレストを繋ぐ唯一の入り口、ウォーデンゲートよ」
ゼヴェロスの爪痕の端から少し行ったところに長大な壁と巨大な門が見えてきた。
門を見上げると首が痛くなってくる。
昔見たことのある巨人と戦う兵団のマンガの壁にそっくりだ。
門は、ハンターのマンガに出てきた殺し屋一家の門を思い出す。
ユニーの角を隠してもらい、ソフィーを先頭に門へ向かった。
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