第3話 弱肉焼肉
樹にぶつかり倒れた角うさぎにナイフを刺しトドメを刺したあと、次は蹲っている大きい角うさぎにトドメを刺そうと近づく。
するとうさぎは顔だけを俺のほうに向けて「クー……」と力なく鳴いた。
……くそっ、俺も甘いな。仮にも突進から助けてくれたうさぎが弱っているのを見てしまったら殺してしまうなんていうことは無理だ。
罠網に捕えているうさぎに向き直る。
三匹のうさぎが逃げ出そうと必死になっているがお互いの体が邪魔になって動きにくいうえに網に手足を取られて暖簾に腕押し状態になっていた。ご自慢の角も網状のハンモックに引っかかり絡まってしまっているな。
ガレージからフィールドナイフを探し出し実体化させる。
「悪いな。お前らに罪は無いさ。先に手を出したのはこっちだしな。」
うさぎが言葉を理解できるとは思えないが、俺は語り続ける。
「許せとは言わないさ。だけどお前たちの命は無駄にはしない。毛皮もその角も、俺が生き延びるために利用させてもらうぞ。」
フィールドナイフでうさぎの首を切り裂く。血が噴き出す。うさぎはいとも簡単にその命を終わらせた。
残り二匹のうさぎが赤く染まった。さらに激しく暴れ抵抗しているが、首を切ると同じように動かなくなった。
ハンモックを降ろし、うさぎを逆さまに枝に吊るし、首を切り落とし血抜きをする。
毛皮を剥ぎ、角を切り落とす。昔、旅行先でニワトリの解体をやった経験がこんなとこで役に立つとは思わなかったな。
ガレージを呼び出し、ハンモックにロープ、それから角と毛皮を収納する。実体化させる時の逆に、収納をイメージしながら触れると瞬時にホログラム状になり、ガレージ内アイテム一覧に加わった。
この世界の物も、ガレージに入れられるのか。取りあえず腹を満たして安全確保ができたらもっといろいろ試してみたほうがよさそうだな。
血抜きを済ませ、罠を仕掛ける時に見つけた小川の川岸へ移動した。
うさぎの内臓を取り出し、肉と内臓を水で丁寧に洗う。食べやすい大きさと形に成型し、ガレージから胡椒を取り出し、少しでも臭みを取るために肉に振っておく。草食動物のうさぎなら本来そこまで臭みは強くないはずだが、角うさぎはどう見ても肉食という感じがしたので、念のため。
味をなじませている間にガレージからBBQコンロ、焼き網、炭を適量、着火剤、ライターを取り出して組み上げ火をおこす。
わけのわからない世界に一人放り出されてどうなることかと思ったが、ガレージのアイテムが使えて本当に助かった。もしこれが無かったら食事にもありつけず、角うさぎや他の魔物からも身を守れずに逆の立場になっていただろう。
俺はその光景を少しだけ思い浮かべてしまい、身震いした。
火が安定し、網も充分に熱くなったところで肉を焼き始めると、あたりに香ばしい匂いが立ち込めてきた。若干獣臭さもするが、きちんと下ごしらえをしたおかげか、臭さというよりは香りとして楽しめる程度になっている。
さすがによく焼かないと怖いよな。
いつもの焼肉よりもしっかり火を通したほうがいいかと考えていた時、ふと背後に視線を感じて慌てて立ち上がり振り向くとあの大きな角うさぎが伏せていた。
(……襲ってこない?)
しばらく様子を見るが、俺に襲い掛かってきた角うさぎ達がもっていた怖い雰囲気は感じなかった。
(ん……あれ……?)
改めてじっくり見てみると、角うさぎとはどこか少し違う気がする。
角うさぎを解体したおかげか、違和感をはっきりと感じることができた。
まず、角が体格差を考慮してもさっきの角うさぎよりもだいぶ長い。それに毛皮もうさぎよりもどちらかといえば馬に近いような感じがするな。色は同じような白色なんだが……。
「クー」
「あ、しまった」
角うさぎ(?)の鳴き声で、焼肉が焦げかかっていることに気が付いて慌ててキャンプ用に用意していたランチプレートに肉を移す。
見た目は、普通のうさぎ肉その物だ。
「うまい!」
塩を少しだけ振って食べた角うさぎの肉はあっさりしていていくらでも食べられそうだ。疲れ切ったからだに肉汁が沁みわたっていくのを感じた。
(次はこれを……)
日持ちするので早めに準備してあった焼肉のタレを取り出し、それに肉を付けて口に入れる。
「~~~~!!」
塩だけで食べた時にはほんの少しだけ感じた獣の香りも、タレに入っているニンニクや生姜のおかげで完全に気にならなくなり、旨味だけが口の中に広がる。やめられない、止まらない。
「うおっ!?」
しばらく食べ続けた後、ふと角うさぎ(?)を振り返ると、いつの間にか俺のすぐ後ろにぴったりくっついて目を輝かせていた。
「なんだ、お前も食いたいのか?」
そう聞くと、さらに目を輝かせ尻尾を振る。
言葉が分かるのか?本当に不思議なやつだな。
「ほれ、熱いから気を付けて食えよ?」
プレートの肉を目の前に差し出すと驚く程の勢いでガツガツ食べ始めた。
「おいおい、まだあるんだから落ち着いて食え」
「クー」
結局、プレートにまだ半分残っていた角うさぎの焼肉は全部こいつが食べてしまった。
食べ終えたこいつは満足したのか俺の膝に顎を乗せ、「すぴーすぴー」と寝息を立て始めた。
かわいいやつめ。頭を撫でてやると、小さく笑った気がした。
(さて、これからどうするか考えないとな)
頭を撫でながながら空を見上げる。
「ん……?」
俺が寄りかかっている樹の上のほうに、人のような影があることに気が付いた。
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