魔王サマは不敵に笑う

楸(ひさぎ)

魔王サマは冒険を始める

第1話 魔王とはこれいかに

 まあ、それは仕方がなかった。

 その子を助ける方法が、それしか思いつかなかったのだから。

 その結果、俺はヒーローになれず、死人が一人から二人に増えた、それだけ。

 誰かの叫び声が聴こえる。遠くから救急車のサイレンが近づいてきた。でも、流石にこれは間に合わないだろう。

 拡がっていく血と、薄れゆく意識。

 胸の中で静かに眠る彼女を見ながら、開かない口で俺は呟いた。


「次こそは────」



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 誰かの呼ぶ声で目を開けた。眩しい。


「お目覚めですか?」


 そう声を掛けてきたのは、露出度の高い服に背中から見事な羽の生えた、かなり奇抜なファッションの女性だった。


「あの、羽はファッションではなくちゃんと本物です」


 むっちゃ声綺麗。てか無茶苦茶美人なんだけど。やば胸でっか!


「⋯⋯言いたいことは多々ありますが、時間が無いので手短に」


 はあ。


「突然で申し訳ありません。貴方には、異世界で『魔王』になっていただきます」


 何を言われるのかと思いきや、なんと『魔王』だった。なんじゃそりゃ。


「ええ、無理もありません。私も前任者にかなり掛け合ったのですが中々に頑固で。あの、ほんともう、ごめんなさいとしか、はい」


 なんかすごい謝られてる。女神みたいな見た目なのにむっちゃペコペコしてる。


「ですが、魔王になったからといっても何か責務があるわけでもありません。貴方の行動に私達は感知しません」


 つまるところ自由に暮らしていいと?


「そうなります」


 はぁ、まあそれなら。いいですよ?魔王。なんかカッコイイし。


「⋯⋯⋯⋯本当に、よろしいのですか?ああ、いえ、魔王について詳しく説明しないまま選択を迫るのはかなり酷いとは思いますが、なにぶんそういう規定なので⋯⋯」


 なんだか女神様にもややこしいしがらみがあるみたいだ。


「ま、まあ貴方がよろしいのであればそれでいいんですが」


 ええ、ということで異世界へレッツゴーしましょう。早く早く。


「ああ、まってください。ひとつ頼まれごとを忘れていました。『────この空間は無限に存在する平行世界の狭間。貴方ならば、いつかこの可能性に手が届くでしょう』⋯⋯⋯⋯こんなものでいいのでしょうか」


 ??


「では、貴方を異世界へと転送します。そうですね⋯⋯比較的魔獣の少ない、平和な街の近くに送りましょう。それでは────良き人生を」


 俺は、女神様の発した言葉の意味すらわからず、異世界へと飛ばされた────。



 -----------------------------



 そうだ、この時もっと考えるべきだった。「これラノベで見たやつだ!」とか「え?ハーレムとか作っちゃう!?」とかアホな妄想してないで、もう少し女神様から色々話を聞いておくべきだったのだ。


 女神様に送り出された先は、どこまでも広がる草原、連なる雄大な山々。そして視界を埋め尽くすほどの────


 目の前に無造作に建てられた看板にはこうあった。


『ドラゴン百体倒さないと出られない部屋』



 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。





 女神様。


 聞いていた話と違います。







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