第2話 新学年の始まり

 「では、2年生の担任を発表します。特進クラス、1組岸谷拓也先生、数学科。2組二ノ宮八雲先生、国語科。大進クラス、3組・・・」


 1学期の始業式にて、教頭がマイクで発表した。俺は教員6年目を迎えた。そして、2年2組の担任になった。去年は1年2組の担任だったので、そのまま持ち上がりだ。特進クラスは2クラスで、25人ずつの50人。1年から2年に上がる際、多少の入れ替えはあったものの、多くは特進クラスの中でのクラス替えなので、面子(めんつ)はあまり変わらない。そして、俺が気になって仕方がない生徒、池田颯太は、1組から2組になっただけ。俺はもちろん始業式で発表される前から知っていた。颯太の担任になってしまった!春休みの間、どれだけ誰にも言えずに悶々としていた事か!担任と言えば毎日ホームルームで顔を合わせるし、個人面談や三者面談もやるし、体育祭や文化祭でもたくさん関わるし。ああ!嬉しいやら困るやら。だが、とにかく、特別扱いは絶対に禁止だ。そして、気になっている事は絶対に誰にも知られてはならない。教師にも、生徒にも、絶対に。


 ガラガラガラ。

「きりーつ。」

ガタガタガタ。

「れーい。」

2年2組の教室に入って行くと、日直が号令をかけ、生徒たちが椅子をガタつかせて立ち上がり、みんなで礼をしてくれた。

「ちゃくせーき。」

ガタガタガタ。

みんなが座る。俺は生徒たちの顔を見渡した。席は名簿順に並んでいる。1年生の時と、教室と座席は変わったものの、やる事は変わらないので、2年生の初日も割とみな落ち着いていた。

 い、いた、池田颯太!そりゃいるわな。名簿順は3番。廊下側の列の前から3番目に座っていた。今日もなんと可愛らしい。いやいや、しっかりしろ俺。みんなが見ているぞ。

「ゴホ、ゴホン。えー、これから一年間、君たちの担任を務める二ノ宮八雲だ。2年生は修学旅行があり、体育祭も文化祭も君たちが学校の中心になって作り上げていく。ぜひ、充実した一年にしてほしい。そのために俺は全力で君たちをサポートするから、いつでも頼ってくれ。遠慮はいらないから。」

俺がいっぱしの挨拶をすると、生徒から質問がいくつも飛んできた。

「先生、先生の名前には漢数字が二つもある!」

「そうだね、知ってるよ。はい、君は何で手を挙げてるの?」

「八雲って、小泉八雲から取ったんですか?」

「小泉八雲を知ってるのか。うん、多分そうだろうね。」

「えー、小泉八雲って誰?」

「小泉八雲っていうのは、江戸時代の末期に、ギリシャで生まれて日本にやってきたパトリック・ラフカディオ・ハーンという人でね、新聞記者であり、小説家であり、日本研究家であり、日本民俗学者なんだよ。」

立て続けに生徒の質問に答えていく。いつもの事だ。そして、生徒は無邪気に子供っぽい事を言っているが、今更俺の事を色々聞いてくる必要はないのに、わざと初めてっぽく聞いてくる、無邪気どころかかなり腹黒い、大人なブラックセンスの塊なのだ。だが、そんなところも若気の至りというか、可愛いものだ。

 池田颯太は・・・と、つい目が行ってしまう。彼は何も言わずにニコニコしながら話を聞いていた。はぅ、可愛い。ウ、ゴホン、ゴホン。

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